だが今回の状況は構造が違う。同じ価格でも、文脈が変われば打撃の深さはまるで別物になる。
——ただし、日本だけは話が別だ。
2022年ウクライナ危機のとき、原油はいくらまで上がったか
まず事実を確認しておく。
2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻した翌日、ブレント原油は100ドル台に乗せた。その後わずか数週間で130ドル超まで上昇した。欧州が天然ガスと石油の供給を一気にロシアに依存できなくなるという恐怖が、価格を押し上げた。
- コロナ明けの需要急回復によるサプライチェーン混乱(既にインフレ進行中)
- 欧米の量的緩和からの出口戦略が未完了(金利はほぼゼロ)
- ロシア産エネルギーの代替供給先がすぐには見つからない構造的問題
これが「100ドル超えで経済が壊れた」という記憶の正体だ。問題は原油価格そのものではなく、そこに重なった構造的な爆弾の多さにあった。
今の状況と2022年の「決定的な3つの違い」
2026年3月現在、ブレント原油は中東情勢の緊迫化を背景に上昇局面にある。「再び100ドルか」という声も出ている。だが冷静に比較すると、構造が根本的に異なる。
| 比較項目 | 2022年 | 2026年現在 |
|---|---|---|
| 原油価格の水準 | 最大130ドル超 | 80ドル台〜(100ドル接近の可能性) |
| 欧米のインフレ率 | 8〜9%台(40年ぶりの水準) | 2〜3%台(落ち着いた状態) |
| 政策金利の方向 | ゼロ→急激な利上げへ | 高水準から利下げ局面 |
| 原油高の原因 | 供給の構造的損失(ロシア制裁) | 地政学リスクプレミアム(情勢次第で剥落) |
| 日本円の水準 | 115〜130円 | 150円前後(円安が増幅) |
2022年は「低金利 × 既存インフレ × 供給の構造的喪失」という三重苦だった。金利がゼロの状態で原油が130ドルまで上がれば、中央銀行は急ブレーキを踏まざるを得ず、それが株・債券・不動産を一斉に叩いた。今回はすでに金利が高水準にあり、利上げサイクルではなく利下げ局面にある。「同じ価格のガソリン」でも、家計に対する打撃の質がまったく違う。
「地政学リスク由来の高騰」は本物か偽物か
今回の原油上昇を理解するうえで、もう一つ重要な視点がある。価格が「恐怖」で上がっているのか、「実需の喪失」で上がっているのかの違いだ。
戦争リスクで上昇した原油価格は、緊張が緩和した瞬間に急落することがある。2022年のロシア制裁は「恒久的な供給源の喪失」という実害があったため価格が長期間維持されたが、今回のような中東情勢の緊張は、交渉や停戦で一気に剥落するパターンが過去に何度もあった。投資判断としては、「恐怖プレミアム分」を買いにいくのは最もリスクが高い行為の一つだ。
日本だけは「別の計算式」で考えなければいけない
ここで重要な話をする。
欧米にとって「それほど深刻ではない」という結論が仮に正しかったとしても、日本はその論理が当てはまらない。
原油はドル建てで取引される。2022年当時の1ドル=115〜130円に対し、今は150円前後。仮にブレント原油が2022年と同じ100ドルだったとしても、円換算では15〜30%高い水準でエネルギーを買っていることになる。電気代・ガス代・食品価格・物流コストすべてがこの構造の影響を受ける。
日本は原油の約90%を中東から輸入している。円安がヘッジされていない以上、ドル建てコストの上昇は日本の生活者に直撃する。「欧米が大丈夫だから日本も大丈夫」という読み方は、この国では危険な楽観論だ。
投資家として今、何を見ておくべきか
30年以上の投資経験から言うと、原油価格が100ドルを超えるような局面では、マーケットは「次に何を売るか」を探し始める。セクターローテーションが加速し、エネルギー株への資金流入と、消費・航空・輸送セクターへの売り圧力が同時進行する。
- エネルギーセクターへのエクスポージャーを確認する(保有していなければチャンスでもある)
- 円安リスクの確認:外貨建て資産が多いなら、為替ヘッジの有無をチェック
- 地政学プレミアムの「賞味期限」を意識する:戦争リスクで買いに走るのは最後にカモにされるパターン
- インフレ再燃シナリオでFRBの利下げが止まるリスクを織り込んでいるか
