経済小説「闇の株券」第5部:裏切りの代償

岡目八目

藤田一也は、東京の廃墟ビルの屋上に立っていた。風が冷たく、頬を切る。眼下には、渋谷のネオンが蠢いている。藤田の携帯には、知らない番号からの着信履歴。男の声が、頭の中で響く。「黒川を売れ。報酬は5千万」。藤田の心臓が、鼓動を刻む。

藤田はワシントングループの実行役だ。20代で黒川に拾われ、闇の世界で生きてきた。株価操作、恐喝、闇金。藤田の手は、血と金で汚れている。だが、黒川の目は、最近冷たくなった。東陽の件で、藤田の取り分は減らされた。黒川は新しい男を重用し、藤田を遠ざける。裏切りは、時間の問題だった。

藤田は男に連絡を取った。相手は、証券取引等監視委員会の裏の人間だ。「黒川の口座データ、取引記録、全部渡す。だが、俺の安全を保証しろ」。男は笑う。「安全? お前が黒川を裏切るなら、どこにも逃げ場はないぜ」。藤田の背筋が凍る。だが、もう後戻りはできない。

彼は黒川の事務所から、USBにデータをコピーした。東陽のダミー口座、仕手戦の指示書、黒川と山城の会話記録。すべてが、黒川を地獄に突き落とす証拠だ。藤田はUSBを握り、夜の東京を走る。だが、背後には影が迫る。ワシントングループの追手だ。

新宿の雑踏で、藤田は追われる。黒いバンが路地を塞ぎ、男たちが降りてくる。藤田は逃げるが、足がもつれる。路地裏で、男の一人がナイフを抜く。「黒川さんからのご挨拶だ」。刃が、藤田の腹に刺さる。血がアスファルトに広がる。藤田はUSBを握りしめ、息を吐く。「すまねえ、黒川…俺も、欲に負けた…」

翌朝、藤田の死体が発見される。警察は自殺と断定するが、石田は知っている。黒川の仕業だ。USBは消え、証拠は闇に葬られる。藤田の裏切りは、誰にも届かなかった。

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