「いつか投資で築いた資産で、のんびり暮らしたい」——そう思って積み立てを続けている方は多いでしょう。でも、いざリタイアが見えてきたとき、ふと不安になりませんか?
「せっかく育てた株、売るしかないの?」
実はその答えは「No」かもしれません。世界の富裕層は、資産を「売る」のではなく「担保にして借りる」ことで生活しています。
今回は、30年以上の投資経験を通じて私自身がたどり着いた「もうひとつの出口戦略」——証券担保ローンという選択肢について、一緒に考えてみたいと思います。
証券担保ローンとは?——「売らずにお金を使う」仕組み
証券担保ローンとは、保有している株式や投資信託などの有価証券を担保にして、金融機関からお金を借りる仕組みです。
ポイントは、株を売却しなくていいということ。担保に入れるだけなので、配当金や株主優待はそのまま受け取れますし、株価が上がり続ければ含み益も成長し続けます。
証券担保ローンの基本構造
保有する有価証券を証券会社・信託銀行に担保として差し入れ → 時価評価額の50〜70%程度を借入枠として設定 → その範囲内で自由に資金を借り入れ → 金利は年率1.7〜4%程度(要出典確認) → 資金使途は原則自由(一部制限あり)
たとえば、3,000万円分の株式を担保にすれば、約1,500〜2,100万円の借入枠が生まれます。生活費として月20万円ずつ引き出しても、担保の株がそのまま値上がりを続けるなら、借入枠は自然と拡大していきます。
「お金が必要なとき、株を売るのではなく借りる」——シンプルだけれど、この発想の転換が、長期投資家の出口戦略を根本から変える可能性を秘めています。
富裕層が株を売らない本当の理由——「Buy, Borrow, Die」戦略
アメリカには「Buy, Borrow, Die(買って、借りて、死ぬ)」という富裕層の資産戦略があります。1990年代に法学者エドワード・マカフェリー氏が提唱したこの考え方は、こう要約できます。
Buy, Borrow, Die 3つのステップ
① Buy(買う):値上がりする資産を購入し、長期保有する
② Borrow(借りる):資産を売却せず、担保にして借金し、生活費に充てる。借入金には所得税がかからない
③ Die(死ぬ):米国では相続時に資産の取得原価が時価にリセットされる(Stepped-up Basis)ため、生涯にわたる含み益への課税がゼロになる
イーロン・マスク氏やジェフ・ベゾス氏といった超富裕層が「ほとんど所得税を払っていない」と報道されるのは、この仕組みがあるからです。彼らは株を売らない。売らないから課税されない。必要なお金は株を担保に借りる。借入金は「収入」ではないから課税されない。
「借金をしながらお金持ちでい続ける」——私たちの常識からすると不思議に感じますが、これがウォール街のスタンダードです。
日本では使えるの?——希望とリアルのギャップ
正直に言います。Buy, Borrow, Dieの「Die」の部分——つまり相続時の取得原価リセット——は日本には存在しません。
日本では相続人が被相続人の取得原価をそのまま引き継ぐため、いつか売却すれば含み益への課税(約20.315%)は避けられません。つまり、米国のように「生涯にわたって一切課税されない」という完全な税回避はできないのです。
日本で「Die」が機能しない理由
米国のStepped-up Basis(取得原価の時価リセット)に相当する制度が日本にはありません。相続人は被相続人の取得価額を引き継ぐため、相続後に売却すれば含み益に約20.315%が課税されます。「税金を永久にゼロにする」ことはできません。
でも——ここからが大事なのですが——「Buy」と「Borrow」の部分は、日本でも十分に機能します。
株を売らずに借りることで得られるメリットは、日本でもそのまま活きます。
① 税金の繰延べ効果:1億円で買った株が2億円になっていた場合、売れば含み益1億円に対して約2,031万円の税金が発生します。でも売らずに借りれば、その2,031万円分がまるまる運用に回り続けます。課税を「いつ受けるか」をコントロールできるということ自体が、大きなアドバンテージです。
② 複利の継続:売却してしまった株は、もう複利で成長しません。でも担保に入れたまま保有し続ければ、配当も含み益もそのまま走り続けます。金利2〜3%で借りて、年率5〜7%のリターンが期待できるポートフォリオを維持できるなら、差分はプラスです。
③ 精神的な安心:30年かけて育てた資産を「切り崩す」のは、想像以上にしんどいものです。数字の問題ではなく、心の問題。この気持ちは、長く投資を続けてきた人ほど共感できるのではないでしょうか。
4%ルール vs 証券担保ローン——「取り崩す」と「借りる」はどちらが得か
FIREを目指す人にとって「4%ルール」はバイブルのような存在です。年間支出の25倍の資産を築き、毎年4%を取り崩せば30年以上資産が持つ——トリニティ・スタディに基づくこの理論は、確かに優れた出口戦略です。
でも、4%ルールには見落とされがちな弱点もあります。
4%ルールの弱点と証券担保ローンの対比
弱点①:売却のたびに税金が発生する
4%ルールでは毎年資産を売却するため、含み益部分に約20%の課税が生じます。実質的な手取りは4%より少なくなります。一方、証券担保ローンなら借入金に課税はありません。
弱点②:暴落時に売ると回復の芽を摘む
リーマンショック級の暴落の直後に生活費のために資産を売ると、安値での売却=回復局面の恩恵を逃すことになります。証券担保ローンなら「売らずに耐える」選択ができます(ただし担保割れリスクあり)。
弱点③:メンタルへの影響が大きい
資産残高がじわじわ減る恐怖は、実際にFIREした人の多くが語る最大のストレスです。「資産は減らさず、借りて使う」という発想は、心の安定にも寄与します。
もちろん、証券担保ローンが万能だと言いたいわけではありません。4%ルールにはシンプルさと実績という強みがあり、「正解」はその人の資産規模やリスク許容度によって変わります。
大切なのは、「取り崩す」しか選択肢がないと思い込まないこと。出口戦略にも複数のルートがあると知っているだけで、未来の選択肢はぐっと広がります。
証券担保ローンの落とし穴——知らずに使うと危険です
ここまで読んで「最高じゃないか」と思った方、ちょっと待ってください。証券担保ローンには、無視できないリスクがいくつもあります。
主なリスク3つ
リスク①:担保割れ(強制売却)
株価が急落すると、担保評価額が借入額を下回り、追加担保の差し入れや強制売却が発生します。たとえば担保評価額の85〜90%を借入額が超えると、証券会社が通知なく担保株を売却するケースもあります(要出典確認)。暴落時に「売るつもりがなかった株」が強制的に処分される——これは致命的です。
リスク②:金利変動リスク
証券担保ローンの多くは変動金利です。現在は2〜4%程度ですが、金利上昇局面では返済負担が膨らみます。日銀の利上げ傾向が続く今、このリスクは無視できません。
リスク③:契約更新リスク
多くの証券担保ローンは半年〜1年ごとに契約更新があります。金融機関の審査基準が変わったり、市況が悪化したりすると、融資枠の縮小や更新拒否、一括返済を求められる可能性があります。
特に注意してほしいのは、担保にしている株と、投資対象が同じ場合のリスクの二重化です。株式市場全体が暴落すると、担保価値が下がり、投資資産も下がり、追加担保も出せない——三重苦に陥ります。
だからこそ、証券担保ローンを使うなら「全力で借りない」が鉄則です。借入額は担保評価額の30〜40%程度に抑え、暴落時にも余裕を持てる設計にしておくことが大切です。
30年投資を続けてきた私が、この戦略に惹かれる理由
独自の考察|なお@HAVE MARCY
30年以上投資を続けてきて、ひとつ確信していることがあります。
「資産形成のゴールは、資産を積み上げることではない。積み上げた資産と、どう付き合うかだ」ということです。
正直に言えば、私もずっと「出口=売却」だと思い込んでいました。コツコツ積み上げた資産を、いつか少しずつ取り崩して暮らす。4%ルールをベースに、配当金で足りない分を売却で補う。それが「正しい出口戦略」だと。
でも、証券担保ローンという選択肢を知ったとき、「これは自分のために作られた仕組みかもしれない」と感じました。
なぜなら、長期投資家にとって最もつらいのは「暴落」ではないんです。暴落は30年の間に何度も経験してきました。リーマンも、コロナも、乗り越えてきた。本当につらいのは、「育ててきた株を、自分の手で切り崩さなければならない瞬間」です。
証券担保ローンは、その「痛み」を避ける手段になり得ます。もちろん万能ではないし、リスクもある。でも「売らなくてもいい」という選択肢があるだけで、将来の不安は確実に軽くなる。
今すぐ使わなくてもいい。でも「知っておく」ことで、あなたの出口戦略に、もうひとつの道が開けるはずです。私はこの仕組みを軸にした将来設計を、今まさに組み立てている最中です。一緒に考えていきましょう。
「将来使いたい」と思ったら、今からやっておくべきこと
今日からできる5つの準備
① 担保にしやすいポートフォリオを意識する
国内上場株式や主要な投資信託は担保対象になりやすい一方、外国株式や一部のファンドは対象外になることも。将来の担保適格性を意識した銘柄選びを。
② 証券担保ローンを提供している証券会社に口座を持つ
いざ必要になってから口座開設→株式移管→審査だと時間がかかります。メインの証券会社が担保ローンに対応しているか、今のうちに確認しておきましょう。
③ 「借入枠の30〜40%ルール」を覚えておく
全力で借りない。暴落時のバッファを常に残すことが、この戦略の生命線です。
④ 生活費の固定費を把握する
月にいくら借りれば暮らせるかがわからないと、そもそも戦略が立てられません。まずは家計の「固定費」を正確に把握することから。
⑤ 4%ルールとのハイブリッド運用を検討する
配当金+証券担保ローン+必要最小限の売却——複数の出口を組み合わせることで、どんな局面でも柔軟に対応できる設計が可能です。
まとめ——「売らない自由」を知ることで、投資人生は変わる
証券担保ローンは、決して「お金持ちだけの特権」ではありません。日本でも証券会社各社がサービスを提供しており、数百万円単位の資産から利用できる時代になっています。
もちろんリスクはあります。担保割れ、金利変動、契約更新——どれも軽視できません。
でも、「知っている」と「知らない」には、天と地ほどの差があります。
30年投資を続けてきた私が今、いちばん伝えたいのは、こういうことです。
「出口戦略は、売却だけではない。
株を手放さずに生きていく道が、あなたにもある」
焦る必要はありません。今はまだ「知る」段階でいい。いつか訪れるリタイアの日に、ひとつでも多くの選択肢を持っておくこと——それこそが、長期投資家の最強の武器です。
※本記事は証券担保ローンの利用を推奨するものではありません。金利・担保掛目・サービス内容は金融機関により異なります。ご利用の際は各金融機関の最新情報をご確認ください。
※記事中の数値は説明のための概算であり、実際の税額・金利と異なる場合があります。税務の詳細は税理士等の専門家にご相談ください。
※最新情報要確認:2024年以降の金利動向・制度変更により記載内容が変わる可能性があります。
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