なぜ「インバース」は“欠陥商品”と呼ばれるのか?
知らないと怖い「減価」のワナ
「これから景気が悪くなりそうだから、相場が下がると儲かる『インバース型ETF』を買っておこう」
このように考えたことがある人は多いかもしれません。しかし、インバース(ベア型とも呼ばれます)商品は、投資家の間でしばしば「欠陥商品」や「買ってはいけない」とまで言われることがあります。
「指数(日経平均など)が下がったのに、インバースも下がっている…なぜ!?」
そんな悲劇が起こる理由は、インバース商品の持つ特殊な「減価(げんか)」という仕組みにあります。
そして、その現象を数学的に解き明かすカギが、日本人が発見した「伊藤の補題(Ito’s Lemma)」です。
この記事では、インバースがなぜ危険と呼ばれるのか、その仕組みを中学生でも分かるように解説します。
1. 恐怖の「減価」とは? ジグザグするだけで損をするワナ
インバース商品が「欠陥商品」と呼ばれる最大の理由。それが「減価」です。
インバース型ETF(例えば「日経平均ダブルインバース(-2x)」など)は、対象となる指数の「1日(日々)の値動き」に対して、マイナス1倍やマイナス2倍になるように設計されています。
問題は、これが「毎日リセット」される点です。
これが長期間になると、恐ろしいズレを生みます。
減価が起こる具体例
仮に、基準となる指数が「100円」、インバース(-1x)も「100円」からスタートしたとします。
指数:100円 → 110円(+10%)
インバース:100円 → 90円(-10%)
2日目:相場が10%下落
指数:110円 → 99円(110円から-10%)
インバース:90円 → 99円(90円から+10%)
【2日後の結果】
指数:100円 → 99円(1%の損)
インバース:100円 → 99円(1%の損)
お気づきでしょうか?
相場は2日間で「上がって、下がった」だけです。
最終的に指数は1%下落しました。
「指数が下がったのだからインバースは儲かるはず!」と思いきや、インバースも1%損をしています。
このように、相場が一方的に下がり続ければ利益が出ますが、
少しでも上昇や横ばいを挟んでジグザグに動くだけで、インバースの価値はどんどん目減りしていくのです。
これが「減価」の正体です。
2. なぜ減価が起きる? 数学が解き明かす「伊藤の補題」
「なぜ、そんなおかしなことが起きるんだ?」
その答えを数学的に説明するのが「伊藤の補題(Ito’s Lemma)」です。
そもそも「伊藤の補題」って?
すごく簡単に言うと、
「ランダム(=ぐちゃぐちゃ)に動くもののための、特別な計算ルール」です。
学校で習う数学は、なめらかな道を進む自動車の計算のようなものです。
しかし、実際の株価は「嵐の海の小舟」や「酔っ払いのフラフラした歩き」のように、次にどう動くか予測不可能な「ぐちゃぐちゃな動き」をします。
この「ぐちゃぐちゃな動き」を計算するために、日本の数学者・伊藤清(いとう きよし)さんが発明したのが、この特別な計算ルールです。
トランポリンで例える「減価の仕組み」
この「伊藤の補題」を使ってインバースの値動きを計算すると、恐ろしい事実が分かります。
トランポリンの上を「普通に歩く」人
インバースやレバレッジ商品:
トランポリンの上で「後ろ向きに歩く(-1x)」とか「2倍速でジャンプ(2x)」するアクロバットをする人
伊藤の補題(=ぐちゃぐちゃな動きの計算ルール)によれば、
トランポリンの上でアクロバットをする人(=インバース)は、トランポリンが揺れるたびに(=相場が変動するたびに)余計な体力を奪われることが証明されています。
この「揺れによって奪われる体力」こそが、数学的に見た「減価(=摩擦)」の正体です。
相場が激しく動く(ジグザグに揺れる) → 摩擦は爆発的に増えます。
インバースの価値(体力)は、相場が上がっても下がっても、この「摩擦」によってどんどん削られていきます。
インバースを保有するということは、「揺れるトランポリンの上でアクロバットを続ける」ようなもので、持っているだけで「摩擦コスト(減価)」を払い続けている状態なのです。
まとめ:インバースは「欠陥」ではなく「超・短期用」
インバースは、金融商品として「欠陥」があるわけではなく、「設計が極めて特殊」な商品です。
- 「減価」という特性(=伊藤の補題で証明される摩擦)がある。
- 相場がジグザグするだけで価値が目減りする。
- そのため、長期保有には絶対に向かない。
「なんとなく下がりそう」という理由で、この商品を長期投資の対象に選ぶのは非常に危険です。
本来は、プロがごく短期間(1日〜数日)のヘッジ(保険)や投機(ギャンブル)に使うための道具なのです。
もしインバースの購入を検討するなら、この「減価」の仕組みを完全に理解してからにしましょう。
免責事項: この記事は金融商品に関する情報提供を目的としており、特定の商品の売買を推奨するものではありません。投資の最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。



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