資産運用立国の裏側──政府は「投資しろ」と言いながら投資環境を壊している

政治・社会

2025年10月に発足した高市早苗政権。支持率70%超という驚異的な数字を背景に、「責任ある積極財政」を掲げ、120兆円規模の予算を組み、防衛・AI・半導体と大胆に財政出動を進めている。

メディアは「サナエノミクス」と呼び、株式市場では「高市銘柄」が踊る。

だが、個人投資家はここで立ち止まるべきだ。

「投資しろ」と呼びかけながら、その投資環境を自ら壊しかねない構造的矛盾が、この政策の中に埋め込まれていることに気づいているだろうか?

「責任ある積極財政」とは何か? ── 個人投資家が見落とす3つのリスク

高市政権の経済政策の核心は、「成長投資で経済を強くし、税収増で財政も健全化する」というシナリオだ。増税ではなく、成長の果実で借金を相対的に小さくする ── いわゆる「ドーマー条件」に依拠した理論である。

聞こえはいい。だが、この楽観シナリオの裏側には、個人投資家が直視すべき3つの構造的リスクが潜んでいる。

⚠ 個人投資家が見落とす3つのリスク

① 国債大量発行 → 長期金利上昇 → 株式バリュエーション低下
積極財政の財源は国債。2026年度の一般会計は120兆円超と過去最高規模で、日銀が国債保有を減額する中、市場での消化負担は増す一方だ。(要出典確認)

② 円安進行 → 輸入物価上昇 → 実質リターンの毀損
財政拡張は通貨の信認を揺るがす。日米金利差に財政不安が重なれば、円安が構造的に進行する。NISAで外貨建て資産の評価額が膨らんで見えても、円での生活コストはそれ以上に上がっている可能性がある。

③ インフレ加速 → 実質賃金マイナス継続 → 個人の投資余力が縮小
物価高対策を掲げながら、その財政出動自体がインフレ圧力になるという皮肉な構造。投資に回す余裕がなくなれば、「資産運用立国」の恩恵を受けられるのは既に資産を持つ層だけになる。

大和総研の試算によれば、今後10年間でPB対GDP比が▲3〜▲2%、金利・成長率格差が0〜+1%ptで推移した場合、純債務残高対GDP比は20〜50%pt上昇する可能性がある。(要出典確認)

過去の政権はすべて「成長戦略で潜在成長率を引き上げる」と言ってきたが、内閣府・日銀の推計では潜在成長率は直近で+0.5〜0.7%程度と、2000年代の平均とほぼ変わっていない。(要出典確認)

「資産運用立国」と「国債増発」── 政府が仕掛ける構造的矛盾

高市政権は岸田政権から「資産運用立国」路線を引き継いだ。NISAの恒久化、iDeCoの拡充、そして「貯蓄から投資へ」のスローガン。

片山さつき財務相には「資産運用立国・投資立国の実現」に向けた指示書が出されている。

🔴 ここに構造的な矛盾がある

政府は国民に「投資しろ」と言いながら、自分たちは国債を大量発行している。国債の増発は金利上昇圧力となり、株式市場の下押し要因になる。

さらに深刻なのは、日銀が国債保有を減額している中で、外国人投資家への国債消化の依存度が急上昇している点だ。外国人投資家の国債保有割合は約12%と、10年前の倍に膨らんでいる。(要出典確認)

つまりこういうことだ。

国民には「株を買え」と言い、その裏で政府は「国債を外国人に買わせる」。国民の投資マネーが株式市場に流れることで、国債市場の混乱を和らげるクッションにされている ── と読むこともできる。

もちろん、NISAや投資推進自体が悪いわけではない。長期の資産形成は個人の人生設計において極めて重要だ。

問題は、「投資を推奨する政策」と「投資環境を悪化させる財政運営」が、同じ政権から同時に出てきているという事実に、ほとんどの個人投資家が気づいていないことだ。

「高市銘柄」に飛びつく個人投資家は、またカモにされるのか

高市政権の発足以来、「国策に売りなし」の格言のもと、防衛・サイバーセキュリティ・半導体・宇宙関連銘柄が「高市銘柄」として物色されている。

2026年1月の衆議院解散→2月の総選挙で自民党が安定多数を確保し、政策の継続性が高まったことで、関連銘柄への注目はさらに増した。

だが、ここで冷静に考えてほしい。

📊 「国策銘柄」の典型的なタイムライン

Phase 1:政策の方向性が固まる前
→ 政治家のブレーン、業界団体、機関投資家のアナリストが情報を先取り。この段階で「仕込み」が始まる。

Phase 2:政策発表・選挙結果確定
→ メディアが「〇〇関連銘柄」と大々的に報じる。ここで個人投資家が参入する。

Phase 3:補助金・予算の具体化
→ 実際に企業業績に反映されるかの精査が始まる。「期待」で上がった株価に対して「現実」の数字が追いつかないケースが頻発。

Phase 4:テーマの陳腐化
→ 次の政策テーマに資金が移動。個人投資家が「まだ上がる」と信じている間に、先行した資金は抜けている。

これは、搾取の構造シリーズで解説した「好決算で株を買った個人投資家がカモにされるメカニズム」とまったく同じ構造だ。

情報の非対称性は、国策テーマでさらに拡大する。なぜなら、政策の具体的な予算配分や対象企業の選定は、政府と業界団体の間で先に決まるからだ。個人投資家がニュースで「高市銘柄17分野」を知った時点で、すでにゲームの大半は終わっている。

金利上昇がじわじわ個人投資家を蝕むメカニズム

日銀は2025年12月に政策金利を0.75%に引き上げた。専門家の予測では、最終的な到達点は平均1.45%前後とされている。(要出典確認)

金利上昇は個人投資家の資産に、目に見えにくい形でダメージを与える。

📊 金利上昇が個人投資家に与える影響チェーン

株式:割引率の上昇 → 将来キャッシュフローの現在価値が低下 → PER(株価収益率)の縮小 → 成長株ほど打撃が大きい

債券:既発債の価格下落 → 債券投信を保有する個人投資家の評価損

不動産:住宅ローン金利上昇 → REIT(不動産投信)のキャップレート上昇 → 価格下落圧力

為替:日米金利差が縮小するなら円高要因だが、財政悪化懸念でむしろ円安に振れる可能性も。金利上昇と円安が同時に来るのが最悪のシナリオ。

ここで重要なのは、積極財政による国債増発が「良い金利上昇」ではなく「悪い金利上昇」を引き起こすリスクだ。

経済成長に伴う金利上昇であれば企業業績も改善するため、株式市場にはプラスに働く。しかし、財政への信認低下による金利上昇は、企業業績の改善を伴わない純粋なコスト増になる。

RIETIの分析が指摘する通り、「積極財政は世論から支持されても、国債市場や為替市場が懐疑的になると金利上昇や円安による物価高など経済に悪影響が及ぶ」のだ。

NISAで「増えた」と喜ぶ前に ── 円安インフレの罠

「オルカンが含み益+20%!やっぱりNISAで積立投資が正解だった!」

SNSでこんな投稿を目にすることが増えた。だが、ここに落とし穴がある。

🔴 円建てリターンと実質リターンは違う

外貨建て資産(オルカン、S&P500連動型投信など)の円建て評価額は、円安が進めば自動的に膨らむ。しかし、あなたの生活コストも同時に円安で上がっている。

仮にオルカンが+20%でも、同じ期間に生活費が10%上がっていれば、実質的なリターンは大幅に圧縮される。

「名目リターン」を見て喜んでいる個人投資家は、インフレという見えない税金を払っていることに気づいていない。

しかも皮肉なことに、積極財政がインフレを助長すれば、「投資で資産を増やせ」と言った政府自身が、その資産の実質価値を削っていることになる。

これは個々の政党が良い悪いという話ではない。政策の構造的帰結として、必然的に起こり得るメカニズムだ。

なお@HAVE MARCYの視点 ── 30年投資してきた人間が本当に思うこと

誤解してほしくないのだが、私は高市政権を批判したいわけではない。サナエノミクスが成功すれば、日本経済にとっても個人投資家にとってもプラスだ。先端技術への投資、防衛力の強化、エネルギー安全保障 ── 方向性自体は合理的だと思う。

問題は、「誰がリスクを取り、誰がリターンを得るのか」という分配構造だ。

30年以上相場を見てきて断言できることが一つある。政策テーマで儲けるのは、常に「政策が決まる前に仕込んだ者」だ。ニュースで「高市銘柄」を知ってから動く個人投資家は、残念ながら出口の引き受け役になるリスクが高い。

「国策に売りなし」は事実だが、それは国策の方向性が固まる前に買った場合の話であって、報道で知ってから買う個人投資家に当てはまる格言ではない。

積極財政による金利上昇リスク、円安によるインフレ加速、NISAの名目リターンと実質リターンの乖離 ── これらの構造を理解した上で、自分なりの戦略を持つことが重要だ。

政府のスローガンをそのまま信じるのでも、逆張りで全否定するのでもなく、「構造を見抜いて、自分の頭で判断する」。それが、搾取される側から抜け出すための唯一の方法だと、私は思っている。

まとめ ── 「サナエノミクス」時代に個人投資家が持つべき視点

✅ この記事のポイント

• 高市政権の「責任ある積極財政」は、国債増発→金利上昇→株式・債券の下押し圧力という構造的リスクを内包している

• 「資産運用立国」で国民に投資を促しながら、財政出動で投資環境を悪化させるという構造的矛盾がある

• 「高市銘柄」に飛びつく個人投資家は、好決算カモと同じ構造で出口の引き受け役になるリスクが高い

• NISAの円建てリターンだけを見ていると、インフレによる実質リターンの毀損に気づけない

• 政治を批判するのではなく、「誰がリスクを取り、誰がリターンを得るか」の構造を理解することが重要

• どの政権でも「個人投資家は情報弱者」という構造は変わらない ── 構造を見抜く目を持つことが最大の防御

政治と投資は切り離せない。だが、特定の政党を応援する・批判するという次元の話ではない。

どんな政権であっても、政策の「受益者」と「負担者」は一致しない。そして個人投資家は、構造的に「後から情報を得る側」に置かれている。

この現実を直視した上で、自分なりの戦略を組み立てること ── それがサナエノミクス時代を生き抜く個人投資家の必須スキルだ。

── まだ読み足りないなら ──

カテゴリから読み解く個人投資家が負ける構造

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