2026年5月8日、海帆(3133)は「主要株主からのご提案を受領した」と開示した。提案者は山田亨氏——大量保有報告書に15.94%で登場しながら、海帆のIRが長らく「大株主とは認識していない」と回答し続けてきた人物だ。
今日、海帆自身がその矛盾を白日の下にさらした。そして提案内容は、現在進行形で株価を破壊し続けているMSワラント(第9回新株予約権)の即時中止を求めるものだった。
30年この市場を見てきて、これほど「仕組みの歪み」が可視化された事例は珍しい。整理する。
「大株主でない」はずの株主が、なぜ申し入れができるのか
総株主の議決権の1%以上または300個以上の議決権を、6ヶ月以上継続して保有していること(公開会社の場合)
山田亨氏の株主提案書には「令和8年5月6日時点で8,342,500株・16.23%を6ヶ月以上保有する株主」と明記されている。株主提案権の行使には実株の継続保有が前提だ。潜在株(新株予約権)だけでは議決権は発生しない。
つまり山田亨氏は、実株として8,342,500株を保有している。それは確定した事実だ。
① 山田亨氏は実株16%超を6ヶ月以上保有している(株主提案書より確定)
② 有価証券報告書の大株主欄に山田亨氏の名前はない(2025年3月末時点)
③ 海帆IRは「大量保有報告書には出ているがIRで確認できないため大株主と認識していない」と回答していた
→ そして本日、海帆は「主要株主からのご提案」と開示した
この三角形は成立しない。海帆は自らの手で、過去のIR回答の矛盾を露呈した。
第9回新株予約権(MSワラント)の実態——数字で見る「資金調達装置の崩壊」
株主提案書に記載された数字を整理する(要出典確認:一次資料は株主提案書原文)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発行日 | 2026年3月9日 |
| 割当先 | EVO FUND |
| 行使価額 | 修正条項付(株価連動で下方修正) |
| 発行開始から2ヶ月の累計調達額 | 約7.6億円 |
| 同期間の株価変動 | 発表前比で約半減 |
| 売却済み希薄化率 | 発行済株式の約3%強に過ぎない |
| 行使期間終期 | 2027年7月 |
| 残期間での調達見込み(現ペース継続) | 約30億円程度 |
| Amazon PPA事業の総事業費 | 約53億円 |
MSワラントの「下方スパイラル」——なぜ3%の希薄化で株価が半値になるのか
MSワラントの構造は単純だが、その破壊力は単純ではない。
株価が下がる
↓
行使価額が下方修正される(行使価額修正条項)
↓
同じ調達額を得るために必要な交付株式数が増える
↓
希薄化懸念が拡大する
↓
さらに株価が下がる
↓
また行使価額が下方修正される…(繰り返し)
割当先のEVO FUNDにとっては、行使して即日売却すれば確実に利益が出る。発行体の株価が下がっても、行使価額がそれに追随して下がるからだ。構造上、割当先が損をする理由がない。
一方、既存株主は——希薄化3%の事実より、「まだ行使が続く」という恐怖で売られ続ける。実害より期待値の毀損が先行する。これがMSワラントの本質的な毒だ。
Amazon PPA事業53億円——資金が足りないのに、なぜこのスキームを続けるのか
株主提案書が指摘する最大の問題がここだ。
海帆の連結子会社KRエナジー1号合同会社は、アマゾンデータサービスジャパンとの間でオフサイト型PPA契約を締結している。総事業費約53億円、合計31.35MW規模の太陽光発電所を建設し、20年間電力を供給する大型案件だ。
・MSワラント2ヶ月の調達額:約7.6億円
・残期間(約14ヶ月)の調達見込み:約30億円
・Amazon PPA事業の総事業費:約53億円
・その他資金需要:ネパール子会社貸付、飲食構造改革、メディカル事業、M&A資金
→ どう計算しても足りない。
「資金が必要なときに必要な額が手元にない」——これは株主提案書の言葉だが、30年この市場を見てきた目線で言えば、資金調達計画が最初から破綻していたか、あるいは当初想定と全く異なる行使ペースになったか、どちらかだ。
なおの独自考察——「MSワラント中止=株価400円台回復」は本当か
山田亨氏の提案書には「本新株予約権の完全中止を行えば需給好転し株価は元の400円台に戻るはずだ」と書かれている。
30年この市場にいて、「〇〇すれば株価が戻る」という言説を何百回聞いてきたかわからない。だから、そのまま信じることはしない。
MSワラント中止が決定した場合、オーバーハング(将来の売り圧力)が消滅するため、需給改善→株価反発は十分ありうる。特に空売り筋がMSワラントの希薄化を見越してポジションを取っていた場合、その解消買いが入る可能性がある。
仮にMSワラントを中止しても、代替の資金調達が成立しなければ財務不安が残る。Amazon PPA事業53億円の資金手当てをどうするのか——そこが見えない限り、株価の本格回復には疑問符がつく。また、MSワラント以外の要因(赤字体質、事業多角化リスク)も株価に織り込まれている可能性がある。
個人投資家として30年でひとつ学んだことがあるとすれば、「材料出尽くし」という言葉の残酷さだ。MSワラント中止が決定した瞬間、それを織り込んで上がった株価に対して、次に来るのは「で、資金はどうするの」という問いだ。
海帆の本当の勝負は、MSワラント中止の後にある。
今日(2026年5月8日)時点で確認できる事実の整理
① 山田亨氏は8,342,500株(16.23%)を6ヶ月以上継続保有している(株主提案書原文より)
② 海帆は2026年5月8日付で「主要株主からのご提案を受領した」と開示した
③ 株主提案の内容はEVO FUND向け第9回新株予約権の即時中止と代替調達手段の確立
④ 2ヶ月の累計調達額は約7.6億円、株価は発表前比約半減(株主提案書原文より・要出典確認)
⑤ 海帆は「個別の回答及び対応方針については顧問弁護士等の指導を受け、適切に誠意をもって対話を続ける」と回答
海帆が「誠意をもって対話を続ける」と言った。株主総会はいつか。EVO FUNDへの行使停止指示が出るのか。30年投資家として、続報を注視する。
