「外国人が日本の不動産を買い漁っている」——SNSでこういう話が出るたびに、感情的な議論が噴き出す。
だが、30年以上投資を続けてきた俺の関心はそこではない。
なぜ外国人投資家が日本の不動産を買うのか、その構造を理解できている個人投資家が、日本にどれだけいるか。
この構造を知ることは、不動産投資に限らず、日本円・日本株・日本経済全体を読む上で直接的に役立つ。感情論を脇に置いて、数字と仕組みを見ていく。
まず「実態」を数字で確認する
「外国人が日本の不動産を爆買いしている」というイメージは、実態と少しズレがある。国土交通省が2025年11月に発表した不動産登記ベースの調査では、東京23区の新築マンションにおける海外居住者の取得割合は2025年上半期で3.5%だった。都心6区(千代田・中央・港・新宿・文京・渋谷)に限ると7.5%まで上昇するが、市場全体を「支配」する数字ではない。
| エリア | 取得割合 |
|---|---|
| 東京23区 | 3.5% |
| 都心6区 | 7.5% |
| 大阪市 | 4.3% |
| 京都市 | 2.5% |
| 横浜市 | 1.6% |
※海外在住者の登記ベース。国内在住外国人・外国人名義の国内法人は含まれない点に注意。
ただし注意が必要だ。この数字には「国内に設立した法人名義での購入」が含まれていない。外国人投資家が日本法人を設立して購入した場合は「国内居住者」として計上される。実態の把握はまだ不完全だ。
なぜ外国人は日本の不動産を買うのか——5つの構造的理由
感情論を排して、外国人投資家の購買動機を構造として整理する。これは投資家として知っておくべき「資金の論理」だ。
- 円安による割安感——ドル建てで見ると日本の不動産は過去10年で大幅に安くなった。1億円の物件が、為替次第で数十万ドル単位で変わる。
- 利回りの優位性——中国の不動産利回りは1〜2%台が一般的だが、東京都心でも4〜5%が確保できる。資金を逃がす先として日本は合理的な選択肢だ。
- 購入規制がない——日本は外国人でも日本人と同じ条件で不動産の所有権を取得できる。中国・タイ・オーストラリアなどが外国人購入に制限を設けているのと対照的だ。
- 地政学リスクの低さ——台湾や香港の富裕層が「有事の際の資産避難先」として日本不動産を選ぶ動きが続いている。
- 円高転換時のキャピタルゲイン狙い——円安局面で買い、円高に戻った際に売却して為替差益+値上がり益を両取りするシナリオを描いている投資家が多い。
APACの機関投資家を対象にしたCBREの調査では、5年連続で日本が「最も魅力的な不動産投資先」1位に選ばれ、都市別では東京が圧倒的首位だ(要出典確認)。これは感情ではなく、資金の論理の結果だ。
日本の個人投資家が見落としている「本当の問題」
外国人購入の是非より、俺が問題だと思うのは別の点だ。
外国人投資家が「円安・高利回り・規制なし」という3点セットで日本の不動産を合理的に買っている間、日本の個人投資家の多くは円建て資産に集中したままだ。
外国人が「割安だ」と判断して買っているものを、当の日本人が「高くて買えない」と嘆いている。この非対称は、構造的に解決されない限り続く。
具体的に言うと、JLL(ジョーンズラングラサール)の調査では、2024年1〜3月の世界都市別不動産投資額で東京圏が前年同期比約60%増の約1兆2,000億円に達し、ニューヨーク・ロンドンを抑えて世界首位になったとされる(要出典確認)。
世界の機関投資家が「東京は買い」と判断して資金を入れているタイミングで、日本の個人投資家は蚊帳の外に置かれている。これが俺の見る問題の本質だ。
「外国人規制」は解決策になるのか
規制論議も整理しておく。感情的に賛否を語る前に、現実を確認する必要がある。
| 国 | 外国人不動産規制の内容 |
|---|---|
| オーストラリア | 外国投資審査委員会(FIRB)の事前認可が原則必要。非居住者は中古物件購入不可 |
| ニュージーランド | 非居住外国人による住宅購入を原則禁止(2018年〜) |
| カナダ | 外国人による住宅購入を2年間禁止(2023〜2025年) |
| 中国 | 外国人は原則1戸のみ購入可。土地所有は不可 |
| 日本 | 現行は規制なし。2022年「重要土地等調査規制法」で安保隣接地のみ一部対応 |
政府・自民党は不動産登記への国籍記載義務化を検討中。2023年には国民民主党が「外国人土地取得規制法案」を提出済みだが、GATS協定や財産権保護との兼ね合いで全面禁止は困難な状況が続いている。
規制は「買われた後の対策」であり、根本的な解決にはならない。円安が続く限り、規制を強化しても別の抜け道(国内法人設立など)が使われるだけだ。問題の根は為替と制度設計にある。
なおの独自考察|「外国人に買われる日本」を嘆く前に、自分が何をしているか問え
30年以上、バブル崩壊からコロナショックまで見てきた俺が言う。
外国人投資家が日本の不動産を買う行動は、完全に合理的だ。彼らは感情で動いていない。円安・利回り・規制の空白・地政学リスクの低さ——これを冷静に計算した上で資金を入れている。
一方で「外国人に買われた」と怒っている日本の個人投資家の多くは、同じ物件を「高い」と言って見送っている。
外国人が「割安」と見ているものを、円建てで考えている日本人が「高い」と感じる。この認識のズレ自体が、円安リスクを自分が負っているサインだ。
今後、円高への転換局面が来たとき、外国人投資家は為替差益を確定しながら売却に動く可能性がある。そのとき日本の不動産市場に何が起きるかは、今から考えておく価値がある。「外国人が買っているから安心」ではなく、「外国人が売るとき誰が買い手になるか」が次の問いだ。
日本の個人投資家が「被害者」として怒り続けるより、同じ構造を理解して自分の資産戦略に活かす方が、はるかに生産的だ。
よくある質問
外国人の不動産購入は日本の住宅価格を押し上げているのか?
国交省の調査では現時点で価格高騰の主因とは判断されていない。ただし都心6区などエリアを絞ると7.5%と無視できない水準になっており、局所的な影響は否定できない。全体論と局所論を分けて考える必要がある。
日本人が同じ戦略を取ることはできるのか?
外貨建て資産を持ち、円安局面で日本の割安資産に投資するという逆の発想は可能だ。ただし日本の個人が円安メリットを享受するには、ドル建て・外貨建て資産を先に持っていることが前提になる。円100%で「円安が怖い」と言うのは、構造的に手遅れだ。
補助金が入った再開発物件が外国人に渡ることは問題か?
補助金はマンション購入者への補助ではなく、インフラ整備・公共施設建設が目的だ。購入者の国籍を問わず公共の利益のために使われる建前になっている。ただし「税金で整備した周辺環境が外国人投資家の資産価値を高める」という構造への違和感は、制度設計の問題として議論する価値がある。
まとめ
- 東京23区の外国人新築マンション取得割合は3.5%(都心6区は7.5%)——「爆買い」のイメージと実態には乖離がある
- 外国人が買う理由は明確:円安・高利回り・規制なし・地政学リスクの低さ・円高転換時のキャピタルゲイン狙い
- 世界の機関投資家は東京を「最も魅力的な不動産投資先」に5年連続で選んでいる
- 規制強化の動きはあるが、抜け道が存在する構造的な限界がある
- 「外国人に買われる」を嘆くより、同じ構造を理解して自分の資産戦略に活かす視点が重要だ
