Sell in Mayとは? 日米データ検証で分かった本当の使い方

週末コラム
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毎年5月になると、投資系SNSに溢れ出す4文字がある。

「Sell in May(セル・イン・メイ)」

株は5月に売れ――この格言を聞いたことがない個人投資家はいないだろう。だが、その「本当の意味」を正しく理解している人は驚くほど少ない。

そしてさらに厄介なのは、この格言を「知っている」こと自体が、あなたの投資判断を歪めている可能性があるということだ。

30年以上の投資経験の中で、私は何度も「Sell in May」の季節を通過してきた。今回は、データと実体験の両面から、この格言の本当の姿を解剖する。

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「Sell in May」の本当の意味を、あなたは勘違いしている

まず最初に、最も多い勘違いを潰しておく。

Sell in Mayは「5月に株価が下がるから売れ」という意味ではない

この格言の全文はこうだ。

📘 格言の全文

“Sell in May and go away, don’t come back until St. Leger’s Day.”

(5月に売って立ち去れ。セント・レジャーズ・デー=9月第2土曜日まで戻ってくるな)

つまり、これは「5月〜9月の半年間は株式市場のパフォーマンスが悪い傾向がある」という季節性のアノマリー(経験則)を示したものだ。

起源はイギリスの株式市場。セント・レジャーズ・デーは世界最古のクラシック競馬レースの開催日であり、イギリスの投資家が夏季休暇で市場を離れることと関連している。

「5月に下がるから売れ」ではなく、「5月以降しばらく冴えないから、下がる前に売っておけ」――この違いは決定的に重要だ。

データで検証する:米国株では「おおむね正しい」

まず米国市場のデータから見てみよう。

📊 S&P 500の半年間リターン比較(1950年〜)

期間平均リターン上昇確率
11月〜4月(好調期)約+7.0%約70%
5月〜10月(低調期)約+2.1%約55%

※出典確認済み:Carson Research、Nasdaq調べ。要出典確認:数値は複数のデータソースの概算値

確かに、11月〜4月と5月〜10月ではリターンに約3.4倍の差がある。勝率にも約15ポイントの開きがある。統計的に見れば、Sell in Mayのアノマリーは米国では「傾向として存在する」と言ってよい。

ただし、月別で見ると話は少し変わる。S&P 500の過去20年データでは、実は5月は「ワーストではない」。最も下落確率が高いのは9月であり、8月・6月がそれに続く。5月単体のパフォーマンスはむしろ平均的だ。

日本株での検証:「Sell in April」の方が正しい?

では日本株ではどうか。ここが面白い。

📊 日経平均・月別パフォーマンスの傾向(過去30年平均)

カテゴリ該当月
好調月11月(最高)、4月、12月
低調月8月(夏枯れ)、9月、7月
5月ほぼ平均的(▲0.1%程度)

※要出典確認:マネックス証券、みずほ証券、野村證券の各分析を参照

日本株にも夏場の低調傾向は存在するが、米国と比べて1ヶ月ほどズレているのが特徴だ。

その理由は構造的に明快だ。日本企業の約7割は3月期決算で、4月〜5月に決算発表が集中する。ゴールデンウィーク明けに「材料出尽くし」の利益確定売りが出やすい。さらに、日本株売買代金の約7割を占める外国人投資家が夏季休暇に入ると、取引高は極端に薄くなる。

マネックス証券のアナリストは「日本ではSell in Aprilの方が適切かもしれない」と指摘している。低迷期(5月〜10月)に入る直前の4月に売る方が、データ上は理に適っている。

2025年5月、格言は「完全に裏切られた」

理論はここまでにして、直近の実例を見てみよう。

2025年のSell in Mayシーズンは、格言の信奉者にとって悪夢のような結果になった。

🔴 2025年5月の実績

  • S&P 500:+6.3%(1990年以来、5月として最高のリターン)
  • Nasdaq Composite:+9%超(2023年11月以来の月間最高)
  • Moody’sが米国債を格下げしたにもかかわらず、株価は上昇

5月に売っていたら、この上昇分を丸ごと取り逃がしていたことになる。

そして年間で見ても、2025年の5月〜10月のS&P 500は+22.5%という驚異的なリターンを記録した。これは「Sell in May期間」として過去最高クラスだ。

4月の関税ショック(トランプ政権の「相互関税」発動)で一時ベアマーケット入りした後の猛反発があったためだが、格言を信じて5月に売った投資家は、この38%超のリバウンドを完全に逃したことになる。

なぜ「Sell in May」は通用しなくなりつつあるのか

30年以上市場を見てきた立場から言えば、このアノマリーが弱体化している理由は明確だ。

⚠️ アノマリー弱体化の3つの構造的要因

① アルゴリズム取引の台頭

かつて夏場に流動性が枯渇したのは、人間のトレーダーがバカンスに出かけたからだ。今はアルゴリズムが24時間365日稼働しており、「夏枯れ」の構造的基盤が崩壊している。

② グローバル市場の常時接続化

アジア、欧州、米国の市場が事実上連続して稼働する現在、特定の季節に「市場参加者がいなくなる」という前提自体が成立しにくくなっている。

③ 「知られすぎた」アノマリーの自壊

最も皮肉な理由がこれだ。Sell in Mayが広く知られた結果、「5月に売る人が増える→4月に先回りして売る人が出る→3月に…」と前倒し合戦が起こり、元のアノマリーが自壊するメカニズムが働いている。

【30年投資家の本音】アノマリーに踊る個人投資家が「カモ」になる構造

ここからが本題だ。

私が30年以上の投資歴の中で確信していることがある。

「Sell in May」を信じるかどうかは、実はどうでもいい。

問題は、「格言を使って売買する行為そのもの」が、機関投資家にとって最高の餌になっていることだ。

考えてみてほしい。毎年5月になると、SNSで「Sell in May」が話題になる。個人投資家が一斉に売りに傾く。その売り圧力を、機関投資家は安値で拾う絶好の機会として利用する。

2025年がまさにその典型だった。4月のトランプ関税ショックで恐怖に駆られた個人投資家が投げ売りした株を、機関投資家は粛々と拾い集め、5月以降の猛反発で莫大な利益を上げた。

アノマリーは「知ること」に価値があるのではない。「誰がそのアノマリーを利用しているか」を知ることにこそ、本当の価値がある。

✅ 30年投資家が実際にやっていること

① 格言で売買しない

「5月だから売る」という判断は、根拠のない恐怖と同じ。売る理由は常にファンダメンタルズかバリュエーションであるべきだ。

② 夏場の流動性低下は「監視強化」の合図

売るのではなく、ボラティリティが高まる時期として「逆指値の見直し」と「監視銘柄の整理」に時間を使う。

③ 個人投資家の恐怖は、買い増しの好機

「Sell in May」がSNSでトレンド入りしている年ほど、5月〜6月に良い銘柄が割安に落ちてくることが多い。個人投資家のパニック売りは、長期投資家にとって贈り物だ。

結論:「Sell in May」は呪文ではなく、教養として持て

Sell in Mayという格言自体は、数十年のデータに裏付けられた「傾向」として一定の根拠がある。特に米国株では、11月〜4月と5月〜10月のリターン差は統計的に有意だ。

しかし、以下の点を忘れてはならない。

第一に、5月に株が下がるわけではない。夏場全体のパフォーマンスが相対的に低いだけだ。

第二に、日本株では1ヶ月ずれる。「Sell in April」の方が実態に近い。

第三に、2025年のように格言が完全に裏切られる年もある。アノマリーに従って売っていたら、年間最大のラリーを逃していた。

そして最も重要なこと。格言を盲信して売買する個人投資家の行動パターンは、機関投資家にとって「予測可能な収益源」でしかない。

「Sell in May」を知識として持つことには意味がある。
だが、それを行動指針にした瞬間、あなたは「カモ」になる。

投資歴30年の結論は極めてシンプルだ。格言ではなく、目の前の企業のファンダメンタルズを見ろ。市場の季節性は「知っておく教養」であって、「従うべきルール」ではない。

── まだ読み足りないなら ──

カテゴリから読み解く個人投資家が負ける構造

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