氷河期世代が怖いのではない——この世代を切り捨てた構造が怖い

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氷河期世代が「自己責任で投資しろ」と言われる残酷な構造——給料が上がらなかった世代にNISAを押し付ける国の本音

「老後2,000万円問題」が報じられたとき、最も追い詰められたのは誰だったか。

年功序列の恩恵を受けたバブル世代でもなく、転職市場が整備されたZ世代でもない。就職氷河期世代——1993年から2005年頃に社会に出た、現在おおむね40代前半~50代前半の人々だ。

正社員になれなかった。なれても昇給しなかった。そして今、「自己責任で投資しろ」「NISAで老後に備えろ」と言われている。

投資歴30年以上の立場から、この構造の残酷さを言語化する。氷河期世代が「怖い」のではない。氷河期世代を取り巻く構造が怖いのだ。

就職氷河期とは何だったのか——「個人の努力不足」では絶対に説明できない数字

まず事実を確認する。

就職氷河期の構造

バブル崩壊後、企業は一斉に新卒採用を絞った。大卒求人倍率は1996年に1.08倍まで低下し、2000年前後も1倍前後で推移した(要出典確認)。つまり、求人数と求職者数がほぼ同数——椅子取りゲームで椅子が足りない状態が10年以上続いた。

この時期に社会に出た約1,700万人のうち、少なくとも約370万人が現在も非正規雇用または無業状態にあるとされる(要出典確認・内閣府推計)。

重要なのは、この世代が「努力しなかった」のではなく、「努力が報われる椅子が用意されていなかった」という構造的事実だ。

企業が採用を絞ったのは経営判断として合理的だった。しかしその「合理的な判断」のコストを、特定の世代だけが一方的に背負わされた。これは構造の問題であり、個人の問題ではない。

「投資で自助しろ」の残酷さ——余剰資金がない世代に何を投資させるのか

ここからが、投資メディアとして書かなければならない部分だ。

2024年に新NISAが始まり、「貯蓄から投資へ」のスローガンが加速した。政府は「老後は自助で」というメッセージを明確に発している。

だが、氷河期世代の現実はこうだ。

氷河期世代が「投資で自助」できない構造的理由

① 投資の原資がない:非正規雇用率が高く、正社員でも昇給カーブが他世代より緩い。手取り20万円台で家賃・生活費を払えば、毎月の投資余力は数千円~ゼロだ。

② 複利の時間が足りない:NISAの「長期・積立・分散」は20代から始めて初めて効果を発揮する設計だ。40代後半から始めても、退職までの運用期間は15~20年。複利効果が十分に働く時間がない。

③ リスク許容度が低い:貯蓄が少ない=暴落時に耐えられない。2020年のコロナショックで30%下落した局面を、貯蓄100万円の人間が「長期目線で」耐えられるだろうか? 生活防衛資金を削って投資している時点で、「長期投資」の前提が崩れている。

④ 退職金・年金の二重減額:非正規雇用が長かった人は厚生年金の加入期間が短い。退職金もない。つまり「投資で補填しろ」と言われている老後資金の穴が、他世代より遥かに大きい。穴が大きいのに、埋めるための道具(資金・時間・リスク許容度)がすべて足りない。

これは二重の搾取だ。若い頃は「正社員の椅子」を奪われ、中年になった今は「自己責任で投資しろ」と言われている。どちらも構造の問題なのに、どちらも「自己責任」で処理されている。

「自己責任」という言葉が、誰を守っているのか

「自己責任」は便利な言葉だ。構造の問題を個人に押し付けるとき、これほど使い勝手の良い言葉はない。

「自己責任」の受益者は誰か

企業:氷河期に採用を絞った判断を「経営上やむを得なかった」で済ませられる。世代ごとの賃金格差を制度として放置できる。

政府:年金制度の持続性が危ういことを認めず、「NISAで自助しろ」と言えば政策責任を回避できる。

金融業界:「投資は自己責任」と言えば、手数料ビジネスのリスクを顧客に転嫁できる。信託報酬0.1%のインデックスファンドを「推奨」しつつ、実際には回転売買やテーマ型投信で手数料を稼ぐ構造は変わっていない。

「自己責任」という言葉は、構造の受益者が構造の被害者に対して使う言葉だ。氷河期世代がこの言葉に苦しめられてきた30年間、その裏側で誰が得をしてきたかを見れば、構造は明らかだ。

【独自考察】それでも氷河期世代が市場で生き残るための現実的な視点

構造の問題を指摘するだけでは、何も解決しない。30年市場にいた人間として、現実的な視点を書く。

氷河期世代のための投資の「現実解」

① まず生活防衛資金を確保する(投資より先):生活費6ヶ月分の現金を確保できていないなら、投資の優先度は低い。NISAの非課税枠は逃げない。焦る必要はない。

② 「少額でも始める」を過信しない:月3,000円の積立で老後2,000万円は作れない。複利の魔法は、元本と時間が揃って初めて効く。過度な期待は失望に変わり、投資自体を辞める原因になる。自分の投資可能額で現実的にいくら積み上がるかを、冷静に計算してほしい。

③ 投資より先に「稼ぐ力」を上げる選択肢を検討する:40代でも転職市場は動いている。副業も選択肢だ。投資のリターンは年5~7%だが、年収が50万円上がれば、それだけで投資元本が年50万円増える。投資リターンより、稼ぐ力のリターンの方が確実な局面がある。

④ 「制度」を使い倒す:iDeCo(掛金が全額所得控除)、高額療養費制度、住民税非課税世帯向けの給付金。使える制度を把握し、使い倒す。「投資」だけが資産形成ではない。

氷河期世代が「怖い」のではない。氷河期世代を「自己責任」で切り捨て続けた構造が、社会全体のリスクとして跳ね返ってくることが怖いのだ。

約1,700万人の世代が老後資金を十分に持てないまま高齢化すれば、社会保障費は膨張し、それはすべての世代の税負担として返ってくる。「自己責任」で片付けたつもりの問題は、結局、全員の問題になる。

構造を知ることが、最初の一歩だ。

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