EVO FUNDは本当に無敵なのか?保有銘柄で見えた出口の限界

投資・マーケット

5月8日に海帆(3133)の株主提案を受けて、「EVO FUNDだけが損をしない構造」というタイトルで一本書いた。あの時点では、それで正しかったと思っている。MSワラントは株価が下がっても行使価額が下方修正される設計で、割当先は理屈上は損をしない。教科書通りの仕組みだ。

ただ、6月に入って、EVOの保有銘柄群を改めて眺めていると、正直なところ少し不気味だ。あの「損しない構造」が、本当に無敵だったのか。それとも、何か前提を見落としていたのか——夜中にIRBANKの保有先一覧をスクロールしながら、ずっとそれを考えている。

この記事の立ち位置
5月8日の海帆記事は「点」として残す。本記事はその「線」を引く側で、EVO FUND全体の保有銘柄を俯瞰し、6月時点で見えてきた構造の歪みを記録する。確定情報・推測・解釈は分けて書いた。

「損しない構造」が前提にしていたもの——売り抜けるための流動性

MSワラントの構造上の優位は、行使価額が株価に連動して下方修正される点にある。これは何度も書いてきた話だ。割当先のEVO FUNDは、行使した瞬間に市場で売り抜ければ、理屈上は損をしない。

だが、この理屈には前提が一つある。

売り抜けるための流動性——それだ。

行使した株を、市場で誰かに買ってもらう必要がある。出来高が分厚く、買い手が継続的に湧く銘柄であれば、この構造はちゃんと機能する。メタプラネットのように投機マネーが回っている銘柄なら、まあ売れる。問題は、出来高が薄い銘柄で、EVOが大量の玉を抱えている場合だ。そこで起きていることを、数字で見ていきたい。

EVO FUND保有銘柄一覧を眺めると、いま何が起きているか

IRBANKに掲載されている、EVO FUNDの大量保有報告ベースの保有先リストから、目立つところを抜き出す(要出典確認:一次資料は各社の有価証券報告書および大量保有報告書)。

銘柄(コード) EVO保有比率
ピクセラ(6731) 66.52%
ANAP HD(3189) 56.00%
テラ 50.93%
海帆(3133) 45.85%
オルトプラス(3672) 43.85%
CRAVIA(6573) 42.59%
ジェイ HD(2721) 39.11%
セキド(9878) 38.94%
TORICO(7138) 38.05%
enish(3667) 35.16%
メタプラネット(3350) 20.82%
窪田製薬 HD(4596) 11.87%

この数字を見ているうちに、ある違和感に気づく。保有比率が30〜60%台というのは、ただの「大株主」ではない。事実上、その会社の浮動株の相当部分を握っている水準だ。これを綺麗に売り抜けるには、相当な出来高が継続的に必要になる。

メタプラネット(20.82%)は別格だ。ビットコイン関連で投機マネーが回っているから、出来高は確保されている。ただし株価は——高値1,930円から、2026年6月3日時点で267円台。ピーク比で約86%の下落だ(要出典確認:株価データは公開チャート)。ただし、行使価格・売却価格・売却済み数量は外部から把握できない。EVOが現在どれだけ保有しているか、どの価格帯で売り抜けているかは一次資料がない。含み損が発生している可能性はある、という程度が正直なところだ(要出典確認)。「売り抜けられる」と「利益が出る」は、別の話になってくる——そこだけは言える。

他の銘柄群はどうか。海帆、ピクセラ、ANAP、CRAVIA。これらはもともと中小型で、流動性が薄い。そこにEVOが40〜60%のポジションを抱えている。「いつでも売れる」前提が、ここではかなり怪しくなる。

5月下旬の保有減少報告書が示しているもの

実際、5月下旬に出ているEVOの変更報告書を眺めると、ポジションを減らしている動きが見える。

5月25日付:CRAVIA(6573)
EVO FUNDの保有割合を1.60%減らした旨の変更報告書を提出。保有比率は42.59%。

5月26日付:メディアリンクス(6659)
EVO FUNDの保有割合を3.74%減らした旨の変更報告書を提出。保有比率は1.14%まで低下。

メディアリンクスは思い切って5%ルールを下回るところまで持ち分を減らしている。これは「もう報告義務がない水準まで売り抜けた」という解釈もできるし、「逃げ切れずに損切りに近い色が混ざっている」可能性もある。一次資料だけから断定はできない。

ただ、こういう動きが目立ち始めた、という事実は記録しておくべきだろう。投機ファンドにとって「持ち続けるより降りる」という判断が出ること自体、構造のどこかが軋み始めているサインに見える。

大型と中小型——同じMSワラントでも、見える風景が違う

ここで一度、立ち止まりたい。

「MSワラントの割当先は損をしない」という、この界隈では半ば常識化していた言葉。改めて見直すと、これは流動性が確保されている限りという条件付きの真実だったのではないか。今までは、その条件が暗黙の前提になっていて、誰もそこを疑わなかった。市場全体に投機マネーが回り、出来高がある程度確保できる相場環境が続いていたから、構造の歪みは表面化しなかった。

分岐の構造
・メタプラネット級(出来高が分厚い):投機マネーが回る限り、構造はとりあえず機能する。ただし株価下落で利益は薄くなる。
・海帆・ピクセラ級(中小型・流動性薄):保有比率が40%以上になると、出口の処理能力が限界に近づく。下方修正が下限に張り付くと、行使しても利益が薄いどころか、希薄化済みの玉が市場に残る形で詰まる。

これは僕個人の推測の域を出ない部分もあるが、5月下旬の保有減少報告書の出方を見る限り、EVO自身が「逃げ場の確保」を急いでいるように見える瞬間がある。気のせいかもしれない。ただ、こういう動きが続けば、模倣している後続ファンドにも影響が出てくるはずだ。

なおの独自考察——「無敵の構造」が崩れる時、何が起きるか

なおの視点

長く相場を見てきて、ひとつ覚えがあることがある。「絶対に損しない仕組み」は、長くは続かない。市場というのは、そういう歪みをいずれ調整しにくる。早いか、遅いか、の問題でしかない。

EVO FUNDのMSワラントスキームは、Bloombergが「日本株市場で発行されるMSワラントの最大の引受先」と書くレベルで業界化していた。それだけ大量の案件を抱え、それだけ多くの中小型株に「出口の重し」を乗せている。重しの総量が、市場の吸収力を超え始めるタイミングが、いつかは来る。それが今なのかどうかは、まだ確信は持てない。ただ、シグナルは一つずつ積み上がってきている。

EVOが「静かに撤退していく」のか、「玉が詰まって動けなくなる」のか——どちらが起きるかは、正直まだわからない。両方が銘柄ごとにバラバラに起きている可能性もある。そこに正解を出そうとすること自体、今は意味がないかもしれない。

個人投資家として、本当に見るべきことは一つだ。

EVOが苦しいかどうか、じゃない。
自分の持ち株に、出口があるかどうか。
MSワラントを発行している銘柄を持っているなら、銘柄の出来高・EVOの保有比率・行使価額の下限、この3点だけ今日確認しろ。EVOの経営状態より、そっちの方がはるかに自分の含み損に直結している。

5月8日に「EVO FUNDだけが損をしない構造」と書いた。あの時の記述は間違っていなかった。ただ、その構造が前提にしていた市場環境が、6月の景色では少し揺らいでいる。それを確認した、というのがこの記事の中身だ。「材料の出方そのものが変わる」局面に入っているのかもしれない——そう感じている、というところで一旦閉じる。続報があれば、また書く。

📌 関連:5月8日の元記事——「EVO FUNDだけが損をしない構造」

海帆の株主提案を受けて書いた点記事。本記事はその「線」の側に位置する。あの時点では正しかった構造認識が、6月時点でどう揺らいでいるかを比較で読むと厚みが出る。
→ EVO FUNDだけが損をしない構造で、海帆は「誠意をもって対話する」と言った

📋 EVO FUND研究——今後書く予定の記事

・ EVO FUND保有比率ランキングTOP20——「出口リスク」で並べ直す
・ EVO FUNDが撤退した銘柄はその後どうなったか
・ ピクセラ(6731)保有66%は異常なのか——数字の意味を読む
・ テラで何が起きたのか——MSワラントの終着点として読む

本記事はこのシリーズの親記事として機能する。個別銘柄の分析は上記で順次書いていく。

市場構造・機関投資家シリーズ

EVO FUND問題は、個人投資家が「機関投資家の出口」として使われる構造の、一つの典型例にすぎない。シリーズで全体像を読むと、相場の景色が少し変わって見えるはずだ。

出典・参考資料

── まだ読み足りないなら ──

カテゴリから読み解く個人投資家が負ける構造

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