TSMCの7〜9月期決算が出た。
純利益は前年同期比+68.7%で、これで6四半期連続の過去最高益。タイムラインには「化け物」「異次元」みたいな言葉が並んでいて、その熱に乗っかりたくなる気持ちは分かるんだけど、資料を上から順番にめくっていって、いちばん長く眺めていたのは利益の数字ではなかった。
ウエハー(半導体を作る円盤)の出荷枚数が前年同期比+9.6%。それなのに売上高は+50.9%。工場から出ていく量は1割しか増えていないのに、売上は5割増えている。この差のほうが、最高益という見出しよりもずっとTSMCの今を語っている気がする。
もうひとつ、前の四半期(4〜6月)と比べると、売上が+17.6%増えたのに純利益は+8.0%増にとどまった。ここだけ切り取ると失速に見えるけれど、これには理由がある。前の四半期にあった一時的な利益が剥がれ落ちただけで、本業の営業利益は+14.3%増えていて、見かけほど成長は鈍っていない。ただし、粗利率が下がった件だけは別の話になる。深夜にひとりで電卓を叩いた結果を、順番に書いておく。
※数値は2026年10月15日にTSMCが公表した決算リリースと四半期マネジメントレポートに基づく。金額は特記がない限り台湾ドル建て。
決算の数字をまず一枚で
| 項目 | 3Q26実績 | 前年同期比 | 前四半期比 | 予想との比較 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1兆4,942億 | +50.9% | +17.6% | — |
| 売上高(米ドル) | 467.2億ドル | +41.2% | +16.2% | 会社予想446〜458億ドル → 上限超え |
| ウエハー出荷枚数(12インチ換算) | 447.6万枚 | +9.6% | +3.2% | 売上の伸びとの差に注目 |
| 売上総利益率 | 66.4% | +6.9pt | −1.3pt | 会社予想65〜67% → 範囲内 |
| 営業利益 | 8,764億 | +75.0% | +14.3% | — |
| 営業利益率 | 58.7% | +8.1pt | −1.6pt | 会社予想56〜58% → 上限超え |
| 純利益 | 7,631億 | +68.7% | +8.0% | 市場予想約7,463億 → 約2.2%上回る |
| EPS(1株利益) | 29.43台湾ドル | +68.7% | +8.0% | — |
※市場予想はロイター・CNBC報道によるLSEGスマートエスティメート。
- ファウンドリ:自社ブランドの製品を持たず、他社が設計した半導体を受託で作る会社。TSMCはその世界最大手で、NVIDIAやAppleが顧客。
- 前年同期比/前四半期比:去年の同じ3か月と比べるのが前者、直前の3か月と比べるのが後者。季節の影響を消したいなら前者、勢いの変化を見たいなら後者。
- 売上総利益率(粗利率):売上から製造コストを引いた残りの割合。「作って売るだけでどれだけ残るか」。
- 営業利益率:粗利から研究開発費や販管費まで引いた、本業の儲けの割合。
- 営業外損益:本業とは関係のない利益や損失。持ち株の売却益や受取利息など。
- ガイダンス:会社が出す「次の四半期はこれくらいになりそう」という見通し。
- 2nm・3nm:半導体の微細化の世代。数字が小さいほど最先端で、作れる会社も限られ、値段も高い。
① 総合判定:好決算
ここは迷う余地があまりない。売上も営業利益率も、会社自身が7月に出していた予想レンジの上限を超えてきたし、純利益も市場予想をおよそ2%上回った。これを「普通」と呼んだら、好決算という言葉の定義のほうを疑ったほうがいいと思う。
ただ、このシリーズで何度も書いてきた通り、好決算と株価の上昇は別の話だ。それは最後の考察でまた触れる。
② 判定の理由:重要な3つのポイント
ポイント1 出荷+9.6%で売上+50.9%。量ではなく「中身」が変わった
| 指標 | 前年同期比 |
|---|---|
| ウエハー出荷枚数(12インチ換算) | +9.6% |
| 売上高(台湾ドル) | +50.9% |
| 売上高(米ドル) | +41.2% |
| 先端プロセス(7nm以下)の比率 | 74% → 79% |
単に工場から出てくる半導体の量が増えただけでは、この差は説明できない。より付加価値の高い先端プロセスへの移行が進み、そこに台湾ドル安の追い風(平均為替レートは前年同期比6.9%の台湾ドル安)も重なっている。米ドル建てで見ても+41.2%なので、為替だけで片づく話でもない。
ひとつ断っておくと、出荷枚数は12インチ換算の数字で、売上高にはウエハー以外の事業(先端パッケージングなど)も含まれている。だから「ウエハー1枚の値段がこれだけ上がった」と言い切るのは乱暴なんだけど、それを差し引いても、TSMCは数量だけでなく売上の中身そのものを入れ替えている、とは言っていいと思う。
結果として、ドル建て売上は会社予想の上限(458億ドル)を約2%上回った。会社というのは普通ガイダンスを少し控えめに出すものなので、上限付近の着地までは想定の範囲内だけど、上限をはっきり抜いてくるのは、需要が会社の読みより強かったということだ。
ポイント2 本業の儲けが+75%、営業利益率58.7%
営業利益は8,764億台湾ドルで、前年同期比+75.0%。営業利益率58.7%というのは、100円売ったら58.7円が本業の利益として残るという意味で、工場を何十個も抱える製造業でこの数字は、正直ちょっとおかしい。
売上の伸び(+50.9%)より営業利益の伸び(+75.0%)のほうが大きいのは、工場や人件費といった固定費がすでに賄われていて、売上が増えた分が利益に乗りやすい状態にあるからだ。この「売上が増えるほど利益率が上がる」構造は、裏を返せば怖さにもなるんだけど、そこは④で書く。
税引前利益の段階で、前四半期は営業外の利益が958億台湾ドルあり、今回は346億に戻った。前四半期にはVIS(世界先進)株の売却益・評価益が計上されていて、今期はそれがなかったためだ。営業損益の中にも、前四半期には2024年4月の台湾地震に関する保険金収入が含まれていた。どちらも一時的なもので、これが剥がれた分、純利益の伸びが小さく見えている。本業の営業利益は前四半期比+14.3%。
ポイント3 9か月で、去年1年分の売上をもう超えた
1〜9月の累計売上は3兆8,987億台湾ドル。2025年の通期売上が3兆8,091億だったので、9か月の時点で去年の1年分を約2%上回っている。
会社の通期予想は「米ドル建てで前年比40%強の成長」。2025年の米ドル建て売上は1,224.2億ドルだったので、40%成長ならざっと1,714億ドルになる。1〜9月の累計は1,228.2億ドルだから、筆者の試算では進捗率は約72%。残りの第4四半期は約486億ドルで達成で、これは7〜9月期から+4%程度伸びるだけでいい水準だ。今の勢いを考えると、通期予想はまだ上に動く余地を残しているように見える。
🔗 「好決算なのに株が下がった」を何度も食らってきた人へ
数字が良いのに株価が沈む、あの理不尽の構造をまとめてある。今回のTSMCでも同じことが起きるかもしれない。
→ 好決算で株を買った奴が毎回カモにされる、シンプルすぎる理由
③ 今後の見通し:会社予想は「強気」
今年に入ってからのTSMCの予想の出し方を並べてみると、性格がよく分かる。
| 発表時期 | 2026年 売上成長率(米ドル建て) | 2026年 設備投資 |
|---|---|---|
| 1月(4Q25決算) | 30%近く | 520〜560億ドル |
| 4月(1Q26決算) | 30%超に引き上げ | レンジ上限寄りに |
| 7月(2Q26決算) | 40%強に再引き上げ | 600〜640億ドルに増額 |
半年で2回、成長率の見通しを引き上げて、そのうえ設備投資まで積み増す会社を「弱気」と呼ぶのは無理がある。素直に強気だ。むしろ不気味なのは、その強気な予想ですら実績が毎回追い越していくことのほうで、会社が保守的に見積もっているのか、それとも需要の読みが追いついていないのか、正直ちょっと判断がつかない。
TSMCは今回、次の四半期の予想を決算リリースではなく10月15日の決算説明会で示している。発表前の市場では、10〜12月期の売上は前四半期比+10〜15%、通期の成長率は40%台前半〜半ばへ引き上げられるという見方が出ていた。数字が出たら、売上よりも先に粗利率のレンジを見てほしい。2nmの立ち上げ負担をどこまで吸収できているかが、そこに一番素直に出る。
④ 注目ポイント
✅ 一番のポジティブ:巨額投資をしながら、現金がむしろ積み上がっている
7〜9月期だけで設備投資に4,432億台湾ドルを使っているのに、本業で稼いだ現金(営業キャッシュフロー)は9,198億。投資を差し引いても4,766億が残り、このフリーキャッシュフローは前四半期から約66%増えた。
現金と有価証券の残高は4兆170億台湾ドルで、3か月で約5,000億増えている。借金を差し引いた実質的な手元資金(ネットキャッシュ)でも2兆9,854億。前年同期の1兆7,566億から1.7倍だ。工場を建てまくりながら金庫も太っていく、というのは、価格決定力がよほど強くないと起きない。
❌ 一番のネガティブ:粗利率が67.7%→66.4%に下がった
前の四半期から1.3ポイントの低下。前年同期と比べれば+6.9ポイントと高い水準ではあるけれど、方向が下を向いたのは今年に入って初めてだ。会社はその主な理由を2nmプロセスの初期量産による利益率の希薄化だと説明している。新しい世代の工場は、立ち上がったばかりの頃ほど良品率が低く、設備の償却負担も重い。
2nmはまだウエハー売上の8%で、これから20%、30%へと増えていく。ただ、比率が上がれば上がるほど利益率が削られる、と決めつけるのも違う。良品率の改善や価格の付け方しだいで、影響の出方はかなり変わるからだ。7月の説明会では、2nmで3〜4ポイント、海外工場でも数年かけて2〜4ポイントの押し下げ要因になるという説明があったと報じられている。結局の焦点は、量産拡大による負担と、採算改善のどちらが速く進むかだと思う。
そしてもうひとつ、好業績の裏で進んでいる偏りも書いておきたい。AIを含むHPC(高性能計算)向けの売上比率は、前年同期の57%から68%へ。北米の顧客向けは79%(前年同期76%)。この79%は米国内で作った半導体の比率ではなく、顧客の所在地による分類なんだけど、AI需要を支える巨大顧客の多くが北米に集中している構造を考えると、少し気になる。売上が増えているだけでなく、特定の用途と地域への依存も同時に高まっている。
TSMCは今、何にお金を使っているのか
| お金の流れ | 3Q26 | 補足 |
|---|---|---|
| 設備投資 | 138.4億ドル | 売上の約30%。1〜9月累計406.4億ドル |
| 研究開発費 | 890億台湾ドル | 前年同期比+39.6%、売上比6.0% |
| 減価償却費 | 2,202億台湾ドル | 前年同期比+35.3%(過去の投資の“ツケ”) |
| その他の投資収入 | +1,987億台湾ドル | 主に米財務省の投資税額控除による入金 |
| フリーキャッシュフロー | 4,766億台湾ドル | 投資したあとに残った現金 |
通年の設備投資計画は600〜640億ドルで、1〜9月で使ったのは406.4億ドル。単純計算では、10〜12月の3か月で193.6〜233.6億ドルが必要になる。四半期の最高は4〜6月の157億ドルなので、かなり大きな数字だ。年末にかけて工場建設や装置の搬入が集中するのかもしれないし、支払いのタイミングで数字が偏るだけかもしれない。計画そのものが修正される可能性もある。どれなのかは、説明会での設備投資のコメントを聞くまで分からない。
研究開発費も前年比4割増。2nmの次の世代と、AI半導体に欠かせない先端パッケージ(CoWoS:複数のチップをひとつにまとめる技術)が中心で、7月の説明会では、パッケージ能力が足りずに顧客の成長を制限しているほどだという話まで出ていた。
個人的に今回いちばん「へえ」と思ったのが、表の緑の行だ。投資活動のキャッシュフローの中に、約1,987億台湾ドル(およそ62億ドル)の「その他の投資収入」があって、会社はこれを主に米財務省の投資税額控除によるものだと説明している。アメリカでの巨額の工場投資は、利益率を押し下げる負担として語られることが多い。それは事実なんだけど、一方では税額控除というかたちで現金が実際に戻ってきている。米国工場=利益率悪化要因、という一行だけで片づけると、この両面が見えなくなる。
📘 設備投資が「将来の稼ぎやすさ」をどう変えるか
工場は建てた瞬間から、減価償却という固定費を毎年吐き出し続ける。需要がある限り、その固定費は大量の売上で薄められて、利益率はむしろ上がっていく。今のTSMCがまさにこの状態で、営業利益が売上より速く伸びているのはそのためだ。
ただ需要が一度止まると、売上は減るのに固定費だけが残り、利益率は急に崩れる。半導体の在庫調整が起きた2023年、TSMCも売上・利益ともに前年を下回った。
年600億ドル超の設備投資は、短期的には減価償却を膨らませて利益率を削り、中長期的には「TSMCにしか作れない」状態をさらに延長させる、という取引になる。CFOは「設備投資の増加は翌年以降の成長機会と常に結びついている」と説明しているけれど、それが割に合うかは結局、AI向けの需要が2027〜28年まで続くかどうか次第で、そこは正直、誰にも分からない。
なおの独自考察:この決算で、いつ動くか
正直に書くと、この決算で一番気味が悪いのは、数字が良すぎることそのものだ。
時価総額はすでに2兆ドル台で、米Yahoo!ファイナンスの表示では実績ベースのPERも31倍前後(10月中旬時点)。決算前日の米国市場ではADR(米国上場の預託証券)が3%以上下げていて、誰かが先回りで利益を確定していたようにも見える。「過去最高益」という見出しは、出口を探している大口にとっては最高の看板だ。その看板の下で何が起きているかは、いつも少し遅れてチャートに出てくる。
説明会の内容次第で、だいたい3つのシナリオを考えている。
- シナリオA:上振れ継続 10〜12月期の売上予想が前期比+10%超、通期成長率も40%台半ばへ再上方修正、粗利率も65%以上を維持。理想形だけど、それでも初動は「織り込み済み」で伸び悩むかもしれない。
- シナリオB:想定内 ガイダンスが市場予想並み。材料出尽くしで数日〜数週間の調整。筆者の見立てでは、ここが一番ありそうだと思っている。
- シナリオC:利益率ショック 粗利率の予想レンジが大きく下がる、あるいは2027年の設備投資がさらに膨らむ。「AIバブル」論が再燃して、日本の半導体装置株(東京エレクトロン、アドバンテスト、ディスコなど)も連れ安しやすい。ただ設備投資の増額は装置メーカーにとっては受注増でもあるので、ここの反応は二面的になると思う。
自分なら、決算翌日の寄り付きで飛びつくことはしない。見るのは説明会での粗利率ガイダンスと、2027年の設備投資についてのトーン。そのうえで、12月10日の配当権利落ち(4〜6月期分、1株7.00台湾ドル)前後の需給まで眺めてから考える。良い会社の株を、良いニュースの日に買うのがいちばん高くつく、というのは何度やっても忘れがちな話だ。
企業としてのTSMCは、たぶん今が一番強い。株として今が一番おいしいかどうかは、それとはまったく別の問題で、その差を見誤らないようにしたい。
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。
出典
- TSMC Reports Third Quarter EPS of NT$29.43(TSMC決算リリース, 2026/10/15)
- TSMC 2026 Q3 Quarterly Results(Management Report・決算資料一覧)
- TSMC 4Q25 Management Report(2025年通期売上・台湾ドル建て)
- TelecomLead:TSMC Delivers Record 2025 Revenue(2025年通期売上・米ドル建て)
- CNBC:TSMC posts record profit for a sixth straight quarter(市場予想との比較)
- MarketBeat:TSMC Q2 Earnings Call Highlights(通期予想・設備投資の引き上げ)
- Quartr:TSMC Q2 2026 earnings summary(2nm・海外工場による粗利率への影響)
- Morningstar:1Q26決算時のガイダンス修正
- Admiral Markets:TSMC Q3 2026 Earnings Preview(第4四半期の市場予想)
- Yahoo Finance:TSM(PER・時価総額)
── 読んで「なるほど」で終わるな ──
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