新NISAを始め、iDeCoを積み立て、節約もした。
それなのに今度は、「老後の医療費も自分で払え」と言い始めた。
財務省が2026年4月28日、高齢者の医療費窓口負担をできる限り早く3割に統一すべきと提言した。
現役世代と同じ負担割合に、だ。
私はこのニュースを聞いて、怒りよりも先に「やっぱりそうか」という感覚が来た。
30年以上、市場と制度の変化を見てきた身には、これが「搾取の構造」の完成形に見えてしまうのだ。
📋 目次
何が提言されたのか——数字で確認する
財務省の諮問機関である財政制度等審議会(財政審)は2026年4月28日の分科会で、70歳以上の高齢者の医療費窓口負担について「可及的速やかに現役世代と同じ原則3割とすべき」と提言した。
現在の高齢者医療費の窓口負担はこうなっている。
| 区分 | 現在の窓口負担 | 提言後の目標 |
|---|---|---|
| 70歳未満(現役) | 原則3割 | 変更なし |
| 70〜74歳 | 2割(一定所得以上は3割) | 原則3割へ |
| 75歳以上(後期高齢者) | 1割(一定所得以上は2〜3割) | 原則3割へ |
健保組合の2026年度の赤字見通しは約2890億円とも報じられており、加盟組合の約7割が赤字という状況が続いている。高齢者医療費への拠出金増加が主な原因とされている。財政審はこの構造に対し「年齢ではなく支払い能力に応じた負担」を訴えた。
論理としては整合している。「年齢で差をつけるのはおかしい、払える人は払え」という主張は、一見フェアに聞こえる。
だが私には、この「フェア」という言葉が引っかかる。
「貯める時も、使う時も搾取される」という二重構造
ここ数年、国は個人に向けてこんなメッセージを発し続けてきた。
・「老後2000万円問題——自分で備えなさい」
・「新NISAを使って長期・分散投資をしなさい」
・「iDeCoで自分の年金を作りなさい」
・「公的年金だけでは足りない——投資で補いなさい」
私はこれらのメッセージ自体が間違っているとは思わない。実際に、自分の資産を自分で守る意識を持つことは重要だ。30年以上投資をしてきた身として、それは身をもって感じている。
だが、問題はその「自分で積み上げた資産が、老後に別の形で削られる」という構造だ。
資産を積み立てる段階での搾取
現役時代、私たちは給料から社会保険料を払い続ける。その一部は高齢者の医療費に充てられている。さらに投資で資産を作れば、利益には約20%の税金がかかる。NISAで非課税枠は拡大したが、それでも枠の外は課税だ。
老後に「使う段階」での搾取
そして老後になった時、今度は医療費の自己負担が増える。年金は削られ続け、介護保険料は上がる。「資産があるから払える」という理屈で、積み上げた資産から新たに負担を求められる。
① 現役時代:稼いだお金から社会保険料・税金として徴収される
② 資産形成期:投資利益にも課税される
③ 老後:医療費・介護費の自己負担増で資産が削られる
④ 年金:実質的な受給水準が下がり続ける
「貯めるな」とは言わない。でも「貯めたら貯めただけ、後で取られる」仕組みが静かに作られている。
この提言で誰が得をするのか
財政審の提言は「現役世代の負担を軽減するため」という名目がある。確かに現役世代の保険料負担が重くなっていることは事実だ。
だが、この提言の受益者を冷静に考えてみる。
財政(国・財務省):高齢者の自己負担増 → 公的支出の抑制 → 財政の改善
健保組合:高齢者医療への拠出金が将来的に抑制される可能性
現役世代:保険料負担が多少軽減される可能性(ただし将来的に自分も高齢者になる)
「現役のため」という言葉の裏に、財政再建という最大の目的がある。
現役世代の負担軽減は本当に実現するのか。保険料が下がるのか、それとも財政の穴を埋めるために使われるのか。制度の歴史を見れば、後者の可能性を疑うのは自然なことだ。
現役世代への負担転嫁——本当に「公平」なのか
「年齢ではなく支払い能力に応じた負担」という論理は、表面上は正しい。だが現実の高齢者の財務状況を考えると、単純ではない。
高齢者の資産と収入は均一ではない
資産を多く持つ高齢者と、年金だけで生活する高齢者を、「一律3割」で同じに扱うのが本当の公平なのか。「支払い能力に応じて」というなら、所得・資産連動の細かい設計が必要なはずだ。
だが財政審の提言は「原則3割」という一律化を求めている。これは制度として単純だが、公平とは言いにくい。
・低年金・低資産の高齢者が必要な医療を受けられなくなる可能性
・「医療を我慢する」高齢者が増え、結果的に重症化・医療費増につながるリスク
・受診抑制による健康格差の拡大(要出典確認)
・現役世代も「将来の自分」として影響を受ける
私が30年以上見てきた市場と制度の変化から言えることがある。「シンプルな一律化」は、複雑な問題を単純化して見せることで、本質的な解決を先送りにする手法だということだ。
個人投資家として、今何を考えるべきか
このニュースを読んで、「怒るだけ」では何も変わらない。私が30年以上の投資生活の中で学んだのは、「制度の変化を先読みして、自分の行動に反映させること」の大切さだ。
① 老後の医療費を資産計画に織り込む
現在1〜2割の窓口負担が3割になれば、老後の医療費支出は増加する。ライフプランの見直しが必要だ。
② iDeCo・NISAの活用を再評価する
公的な給付が削られる方向にある以上、自助努力の重要性はむしろ高まる。ただし「貯めれば安心」ではなく「貯めた後の出口設計」まで考える。
③ 医療関連セクターへの目線
医療費の自己負担増は、ジェネリック医薬品・調剤薬局・医療IT・保険商品などのセクターに影響を与えうる。制度変化は投資機会にもなりうる(要出典確認・個別銘柄は各自で判断)。
④ 「制度に頼りすぎない」資産設計の継続
これは私が30年前から言い続けていること。制度は変わる。変わることを前提に、自分の資産を自分で守る意識を持つことが、長期的に最も確実な方法だ。
この提言が出た時、私は「財務省が個人投資家の老後を二重に管理しようとしている」と感じた。
一方では「自分で老後に備えろ」と言う。新NISA、iDeCo、長期投資——すべて「公的年金が足りないから自助努力しろ」という文脈だ。もう一方では、頑張って資産を作った人に「払えるんだから払え」という論理で負担を求める。
これは矛盾ではない。制度として整合している。「貯めさせて、老後に回収する」という構造は、財政的に見れば合理的な設計だ。
私が一番懸念するのは、この流れが加速することだ。今回は医療費3割。次は介護費の自己負担引き上げ、そして年金支給開始年齢のさらなる引き上げ——財政審の提言リストを見れば、この方向性は明らかだ(要出典確認)。
だから私は「怒れ」と言いたいのではない。「知れ」と言いたい。構造を知っていれば、驚かない。驚かなければ、冷静に動ける。投資の世界でも、人生設計でも、それが最大の武器だ。
30年以上、この繰り返しを見てきた。制度は常に「個人に不利な方向」に動く。それが嫌なら、制度の外側に自分の安全地帯を作るしかない。
📌 この記事のまとめ
- 財務省・財政審が高齢者の医療費窓口負担を「原則3割」に統一すべきと提言(2026年4月28日)
- 「現役世代の負担軽減」という名目だが、財政再建という本質的な目的がある
- 現役時代に「自分で備えろ」と言い、老後には「資産があるから払え」という二重構造
- 一律3割化は低年金・低資産の高齢者に過重な負担をもたらすリスクがある
- 個人投資家として取るべき行動は「怒る」ではなく「先読みして備える」こと
- 制度は変わる。変わることを前提に、自分の資産を自分で守る設計が最も確実
