37万戸のタワマン、建て替え実績ゼロ。法改正後も変わらない「詰んでいる構造」

コラム・読み物

「タワマンは資産になる」という言葉を、あなたは何度聞いただろうか。

不動産業者、銀行、ファイナンシャルプランナー——みんなが口を揃えて言う。だが日本でタワマンが建て替えられた実績は一件もない。築30年に近い物件が全国に積み上がり、法律が変わっても「誰が費用を払うのか」という答えは出ていない。

これは投資の話だ。出口のない資産を「資産」と呼んでいいのか、30年以上相場を見てきた立場から整理しておく。

建て替えられない理由は「感情論」ではなく「構造問題」だ

全国に約1,400棟・37万戸超のタワマンが存在する。2025年3月末時点で日本全体のマンション建て替え累計実績はわずか323件(国交省データ)。タワマンはゼロだ。

【構造的に詰んでいる理由】

5分の4の合意が必要。1,000戸規模で上層・下層で利害が真逆な住民から80%の賛成を取るのは、理論上は可能でも現実には機能しない

容積率の上限問題。通常の建て替えは「戸数を増やして新規分譲で費用をまかなう」モデルで成立する。タワマンはすでに上限まで使い切っている。戸数は増やせない。デベロッパーが参入する旨みがない。費用は区分所有者が全額自腹になる

投資目的・外国人所有者問題。管理組合総会の出席率が下がり、成立要件を満たせないケースが発生する。連絡が取れない所有者が増えれば合意形成はさらに困難になる

費用が天文学的。通常マンションでさえ建て替え費用は1戸1,000〜2,000万円。タワマンはそれを超える。高齢化した所有者が資金調達できるかどうかも別問題だ

②が致命的だ。他の問題は「難しい」レベルだが、容積率問題は「デベロッパーが最初から来ない」という構造的な詰みだ。誰も助けに来ない状況で、住民だけで費用を全額まかなえるか。答えは見えている。

2026年4月の法改正——「出口が増えた」は本当か

2024年国会で改正区分所有法が成立、2026年4月1日施行。約20年ぶりの大改正だ。主な変更点を整理する。

✅ 耐震性不足など除却認定を取得した場合、建て替え決議が5分の4→4分の3へ緩和
✅ 一括売却・解体・一棟リノベーションが全員同意→多数決決議で可能に
✅ 管理不全マンションに裁判所が管理人を選任できる新制度

確かに「出口の地図」は広がった。売却・解体・リノベという選択肢が動かしやすくなったのは事実だ。

だが法改正が触れていない問題がある:

❌ 容積率の上限問題は一切変わっていない
❌ 4分の3でも1,000戸規模の現実的な合意形成は別の話
❌ 資金調達・仮住まい・権利調整という実行フェーズのコストは変わらない
❌ 「地図が広がった」だけで、そこまでたどり着く体力が住民にあるかは別問題

なおの独自考察:これは「不動産問題」ではなく「投資の出口問題」だ

なおの視点

30年以上、バブル崩壊・リーマンショック・コロナショックを経験してきて思うことがある。どんな資産も「買うとき」より「売るとき・出口」のほうが難しい。株なら売れる。流動性がある。だがタワマンの「出口」は誰かが買ってくれることが前提だ。

今は都市部・駅近の物件なら確かに売れる。問題は20年後・30年後に同じ状況が続いているかどうかだ。1990年代後半に建てられたタワマンはすでに築30年に近づいている。最初の大規模な老朽化問題が顕在化するのはこれからだ。

法改正は「国が問題を認めた」というシグナルとして読むべきだ。解決したシグナルではない。改正の必要が生まれたという事実そのものが、問題の深刻さを証明している。

タワマンを「資産」として持つなら、修繕積立金の状況・管理組合の稼働・投資目的所有者の比率を必ず確認しろ。そして最後に一つだけ考えろ。この建物が老朽化したとき、誰が何をするのか。その答えが見えない物件には、手を出すな。

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