本記事の業績数値は、イオン株式会社が2026年10月13日に公表した「2027年2月期 第2四半期(中間期)決算短信」によります。株価・PER・アナリスト予想は外部サイトの掲載値で、最新情報要確認。売買の判断はご自身でお願いします。
「中間期として過去最高の営業利益」
決算短信を開いて最初に飛び込んでくるのがこのフレーズで、ここだけ切り取ればニュースの見出しとしては十分すぎる。営業収益は5兆9,041億円で前年同期比+13.8%、営業利益は1,307億円で+10.7%、最終利益にいたっては+229%。数字の並びだけ見ると、文句のつけようがない。
ところが、深夜にセグメント表まで降りていったところで手が止まった。スーパーが赤字になっているのだ。
総合スーパー(GMS)は営業損失126億円で、前年はほぼトントン(▲2億円)だったから、半年で124億円も悪化している。スーパーマーケット事業も前年129億円の黒字から▲1.8億円へ転落していて、イオンの「顔」と言っていい食品小売がここまで崩れているのに、連結ではなぜか最高益。この違和感がどうにも気持ち悪くて、結局朝方まで短信をめくることになった。
まずは数字だけ並べておく
| 項目 | 今中間期 | 前年同期比 | 通期予想 | 進捗率 | 前年の進捗率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 営業収益 | 5兆9,041億円 | +13.8% | 12兆円 | 49.2% | 48.4% |
| 営業利益 | 1,307億円 | +10.7% | 3,400億円 | 38.5% | 43.7% |
| 経常利益 | 1,082億円 | +1.7% | 2,900億円 | 37.3% | 43.8% |
| 純利益(親会社株主帰属) | 133億円 | +229.1% | 730億円 | 18.2% | 5.6% |
※前年の進捗率は、前年中間実績÷前期(2026年2月期)通期実績で計算。前期通期実績は株予報掲載値を使用(要出典確認)。
用語をざっくり
営業収益:売上高とほぼ同じ意味。イオンは銀行・カードの収入やモールのテナント賃料もあるので「売上」ではなくこう呼ぶ。
営業利益:本業で稼いだ利益。経常利益は、そこから借金の利息などを差し引いたあとの利益。
純利益(親会社株主に帰属):税金なども全部払って、最後にイオンの株主の取り分として残る利益。
進捗率:会社が出している1年分の予想に対して、半年でどこまで来たか。単純計算なら中間で50%が目安になる。
売上の進捗は49.2%で、前年(48.4%)とほとんど変わらない。気になるのは利益のほうで、営業利益が38.5%。去年の同じ時点は43.7%だったから、ペースははっきり遅れている。イオンは年末商戦を含む下期に利益が偏りやすい会社なので、38%台だから即アウトとまでは言わないけれど、「去年より遅い」という事実だけはどうやっても消えない。
① 総合判定
なおの判定
普通
見出しは好決算。中身を一枚めくると、本業の傷がはっきり見える。
正直、最後まで迷った。「過去最高益」に素直に乗っかれば好決算と書けるし、食品小売の崩れ方だけを切り取れば悪決算と言いたくもなる。間を取って逃げたつもりはなくて、良い材料と悪い材料がほぼ同じ重さで天秤に乗っている、というのがいちばん正直な描写だと思う。ただ、悪いほうに乗っているのがイオンの“本業”そのものだという点は、どうしても引っかかっている。
② 判定の理由(3つのポイント)
ポイント1:最高益を支えた最大の要因は「ツルハの連結」
ドラッグストアを束ねるヘルス&ウエルネス事業の営業利益が、227億円から597億円へ。+370億円である。連結全体の営業増益が+126億円しかないので、ドラッグストアの増益だけで全体の増益を3倍近く上回っている計算になる。
2025年12月にツルハとウエルシアが経営統合して、2026年1月からツルハがイオンの連結子会社になった。この+370億円がまるごとツルハの上乗せというわけではなく、もともと連結していたウエルシアの増減や統合シナジーも混ざっている。それでも増益のいちばん大きな柱が「グループに迎え入れて足し算した利益」なのは、まず間違いないと思う。売上が+13.8%伸びたのも、大半はこの部門だ。
M&A自体を悪く言うつもりはない。統合シナジー(一緒になることで生まれるコスト削減や売上増)は「計画を上回った」と会社は書いているし、ドラッグストアに食品売場を足した「ドラッグ&フード」店舗も37店まで増えた。ただ、既存の事業の自力だけでこの最高益まで来られたのかと聞かれたら、そこは素直にうなずけない。
| セグメント(営業利益) | 前年中間 | 今中間 | 増減 |
|---|---|---|---|
| ヘルス&ウエルネス(ドラッグ) | 227億円 | 597億円 | +370億円 |
| ディベロッパー・エンタメ(モール等) | 410億円 | 542億円 | +132億円 |
| 総合金融(銀行・カード) | 270億円 | 261億円 | ▲9億円 |
| 国際(アジア) | 49億円 | 56億円 | +7億円 |
| サービス・専門店 | 88億円 | 71億円 | ▲17億円 |
| GMS(総合スーパー) | ▲2億円 | ▲126億円 | ▲124億円 |
| スーパーマーケット | 129億円 | ▲2億円 | ▲131億円 |
| ディスカウントストア | 37億円 | 5億円 | ▲32億円 |
※決算短信のセグメント情報より(億円未満四捨五入)。今期からセグメント区分が一部変更され、前年は変更後の区分で組み替えた数字。
ポイント2:本業の食品小売は、3事業あわせて287億円の悪化
上の表で赤く塗った3つ(GMS・スーパーマーケット・ディスカウントストア)を足すと、前年は+164億円の黒字だったのが、今期は約▲124億円の赤字。差し引き約287億円が半年で消えた。
短信が挙げている理由は、前年にあった備蓄米や新型ゲーム機の特需の反動、食品の値下げ(価格競争力の強化)、天候不順で衣料や住まい・レジャー用品が売れなかったこと、それに人件費の増加。イオンリテール単体でも営業損失は133億円まで膨らんでいる。
プライベートブランドの「トップバリュ」は売上が前年比+4.5%と伸びていて、客数も前年並みを守れている。安くして客を呼ぶ作戦自体は効いているのだ。ただその代償を、利益でそっくり払っている構図に見える。米の特需の反動みたいな一過性の要因と、人件費のような「来年も続く」要因、このどちらが重いのかは短信の文章からは正直読み切れなくて、そこがいちばん不気味なところでもある。
ポイント3:経常利益は+1.7%どまり。金利が効きはじめた
営業利益は+126億円増えたのに、経常利益の伸びはたった+18億円。犯人は支払利息で、前年の236億円から340億円へ、+44%も増えている。日本でも金利が上がり始めて、借金の多い会社ほど「本業で稼いだ分が利息に溶ける」局面に入ってきた。
最終利益の+229%も、見た目ほど景気のいい話ではない。前年が40億円と小さかったうえに、減損や子会社株式の売却損といった特別損失が310億円から175億円に減ったことが大きく効いている。
個人的にいちばん引っかかった数字
グループ全体の中間純利益は473億円。そのうち340億円(約72%)は「非支配株主に帰属する中間純利益」で、イオンの株主に帰属するのは133億円だけ。連結純利益の約7割は、イオン株主のものではないということになる。
※非支配株主=イオンが100%は持っていない子会社(ツルハなど上場子会社)の、イオン以外の株主のこと。会計上、子会社の利益のうちイオン以外の持ち分にあたる部分を切り分けて表示しているもので、340億円が現金で外に出ていったという意味ではない。ただ、イオン株主の取り分ではないことに変わりはない。
③ 今後の見通し:会社予想は「強気」
通期予想は4月9日に出したものを据え置き。営業利益3,400億円(前期比+25.7%)の看板は下ろしていない。
ここで逆算してみると、下期(9月〜2月)だけで営業利益を2,093億円稼ぐ必要がある。前年の下期実績は約1,523億円だったから、下期だけで前年比+37%。上期の伸び(+10.7%)の3倍以上のペースが要る計算だ。
しかもアナリスト予想の平均(コンセンサス)は営業利益3,275億円で、会社予想のほうが高い(株予報掲載値、要出典確認・最新情報要確認)。市場より会社のほうが強気、という構図になっている。
会社が強気でいられる理由も一応はある。下期からツルハとウエルシアの商品政策(マーチャンダイジング)統一が始まるし、ベトナムでは10月にタインホア、11月にハロンでモールが開業する。赤字だったタイの小売子会社は10月に売却済みで、年末商戦という一番の稼ぎ時も下期に来る。
ここで前期の通期決算短信も引っぱり出してみた。ヘルス&ウエルネス事業の前期通期の営業利益は524億円で、上期の227億円を引くと、前年下期は約297億円。今期の上期は597億円稼いでいるから、このペースが下期も続くなら、ドラッグストアだけで前年下期比+300億円前後の上乗せが乗る計算になる(推測ですが)。必要な増益は約+570億円なので、残りのおよそ270億円をモールと、赤字に沈んだ食品小売の立て直しで埋められるかどうか。最初に数字を見たときは綱渡りに見えたけれど、ツルハの連結効果が下期にも残ると考えれば、数字ほど無茶な計画ではないのかもしれない。条件はやっぱり、GMSとスーパーがどこまで戻るかだ。
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④ 注目ポイント
いちばんのポジティブ:モールが“自力で”稼ぎはじめた
ディベロッパー・エンタメ事業の営業利益は410億円→542億円(+32%)。イオンモール単体では営業利益440億円で前年比137.9%。2025年度〜今期第1四半期にリニューアルした32モールの専門店売上は前年比106.8%で、改装していないモールより伸びている。免税売上も約1.5倍になった。
これはM&Aで足した数字ではなく、手持ちの資産の稼ぐ力が上がった結果だ。ゲームセンターのイオンファンタジーも中間として過去最高。物を売る場所から、時間を過ごす場所へ。今回の決算で一番“本物”だと感じたのは、正直ここだった。
いちばんのネガティブ:GMSの赤字が“前年ほぼゼロ”から126億円へ
ポイント2の繰り返しになるけれど、ネガティブを1つ選ぶならやっぱりここ。前年同期の▲2億円から▲126億円へ、124億円の悪化。値下げで客数を守る戦いは、相手も同じことをしてくる消耗戦になりやすい。人件費や電気代は下がる気配がないし、「安さで勝つ」が続くかぎりこの赤字が自然に消えるとは考えにくい。
数字で測れないリスク:熊本の事故
2026年7月28日の熊本地震のあと、イオンモール熊本で爆発事故が起き、テナント従業員7人が亡くなり、26人が負傷した。亡くなられた方々に哀悼の意を表したい。
投資の文脈で触れるのは気が引けるが、外部専門家による事故調査委員会の報告書はまだ出ていない。中間期には「災害による損失」42億円が計上されているものの、会社自身が「現時点で入手可能な情報に基づく」と書いている。推測ですが、報告書の内容によっては補償や安全対策の費用、客足への影響が後から出てくる可能性はある。
いま、イオンは何にお金を使っているのか
| 項目(中間期) | 前年 | 今期 |
|---|---|---|
| 設備投資(固定資産の取得による支出) | 2,635億円 | 2,490億円 |
| 減価償却費 | 1,771億円 | 2,003億円 |
| 建設仮勘定(建設中の資産)※期末残高 | 1,141億円(2月末) | 1,515億円 |
| 支払利息 | 236億円 | 340億円 |
| 研究開発費 | 決算短信に記載なし(該当情報なし) | |
半年で約2,490億円。使い道を短信から拾っていくと、だいたい4つに分かれる。既存モールの改装と新モール(6月の八王子、ベトナムのダナン・タインホア・ハロン)、電子棚札・セルフレジ・AI発注といった店舗のデジタル化、ツルハとウエルシアの共通システムや共通アプリの基盤づくり、そしてクレジットカードの基幹システムの入れ替え。建設中の資産が半年で370億円以上積み上がっているのは、まだ開業していないモールの分だろう(推測ですが)。
これが「将来の稼ぎやすさ」にどう効くか。プラス面ははっきりしていて、デジタル化でイオンリテールは約155万時間分の作業を減らし、既存店の総労働時間は前年比97.4%まで下がった。人件費が上がり続ける時代に、人の手を減らせる仕組みは確実に効いてくる。店内のアプリ広告収入が前年比175%、サイネージ(店内の電子看板)収入が445%と伸びているのも面白くて、こういう原価のほとんどかからない収入は、規模が育てば利益率をじわじわ押し上げるはずだ。
気になるのはタイミングのほうだ。減価償却費(設備にかけたお金を何年かに分けて費用にしたもの)が+232億円増えていて、これだけで営業増益の126億円を丸ごと上回ってしまう。果実が実る前に、コストだけが先に損益計算書に載る時期にいるわけだ。
お金の出どころも見ておきたい。有利子負債(社債・借入金・CPの合計、銀行事業を含む)は2月末の約3.97兆円から約4.22兆円へ、半年で約2,554億円増えた。営業キャッシュフローが▲2,625億円と大きくマイナスなのは、銀行の貸出金増加や仕入代金の支払いタイミングの影響が大きいので、この数字だけで慌てる必要はないと思う。それでも、金利が上がる局面で借金を増やしながら投資を続けているのは事実で、投資が当たれば将来の稼ぐ力は確実に上がるし、外れたら利息が二重に効いてくる。
自己資本比率7.9%は危ない?
自己資本比率は、会社の資産のうち返さなくていいお金(株主のお金)がどれだけあるかの割合。イオンは銀行を抱えていて、預金(=銀行にとっての借金)が5兆円以上あるので見た目が極端に低くなる。金融事業を除くと14.3%。それでも小売業としては薄い部類だと思う。
配当と株価にも少しだけ
配当は年15円の予想(中間7.5円=普通配当7円+記念配当0.5円、期末も同じ)。前期は株式分割前の中間20円と分割後の期末7円で、分割後に換算すると年約13.7円だから、記念配当込みで少し増配になる。予想1株利益26.39円に対する配当性向は約57%。
株価は10月9日終値で1,211円、予想PER(株価が1株利益の何年分か)は約46倍、配当利回りは約1.2%(松井証券掲載値、最新情報要確認)。年初来高値は1月5日の2,542.5円、安値は決算直前の10月8日につけた1,190.5円で、1年たたずに半値を割り込んだ。「優待株は下がらない」という神話が、今年は半値割れという形で実地検証されてしまったことになる。
なおの独自考察
相場を見ていると何度も出くわすのが、「最高益」の見出しで寄り付きに買いが集まり、セグメント表を読み込んだ人から順番に静かに売っていく光景だ。イオンも直近の決算発表のあとに、大きく売られた場面が何度かあった。
今回いちばん気持ち悪いのは、連結の看板はイオンなのに、連結純利益の約7割がイオン株主に帰属しない構造そのものだ。「日本最大の小売だから安心」という感覚で持っている人が、この数字をどれくらい意識しているんだろう。ドラッグストアとモールが稼ぎ、スーパーが赤字を出し、残った利益の大半は上場子会社の外部株主の持ち分として切り分けられる。PER45倍前後という値段は、この構造ごと買う値段でもある。
見るべきタイミングは、決算翌日の値動きよりも、推測ですが例年どおりなら1月上旬に出る第3四半期決算のほうだと思っている。下期に2,093億円を積み上げられるかどうか、その途中経過がいちばんはっきり出るのがそこだからだ。
| シナリオ | 条件 | 株価への影響(推測) |
|---|---|---|
| 強気 | ツルハのシナジーが前倒し、ベトナム新モールが好発進、GMSが年末商戦で黒字に戻る | 通期3,400億円達成が見え、高PERでも「成長株」として見直される |
| メイン | ドラッグとモールは伸びるが、GMS・スーパーの赤字が残り、通期は予想にやや届かない | 年初来安値と年初の高値の間、下寄りのレンジでもみ合い |
| 弱気 | 食品の価格競争が長引き、金利がさらに上昇、熊本の事故で追加費用が発生 | 下方修正で40倍台のPERの説明がつかなくなり、年初来安値をさらに割り込む |
個人的な感触を言えば、メインシナリオに一番近い気がしている。モールの数字は本当に好きで、あれが会社の中心にもっと大きく座る日が来たら面白いと思う。ただ、今の値段で新しく飛びつく理由は、正直まだ見つけられていない。株主優待目当てで持っている人にとっては、また違う景色に見えているのかもしれないけれど。
出典
- イオン株式会社「2027年2月期 第2四半期(中間期)決算短信〔日本基準〕(連結)」2026年10月13日(IRページより)
- イオン株式会社「2026年2月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」2026年4月9日(ヘルス&ウエルネス事業の前期通期実績)
- 松井証券 イオン(8267)株価(株価・PER・配当利回り・年初来高値/安値)
- 株予報 イオン(8267)アナリスト予想(前期通期実績・コンセンサス)
- 熊本日日新聞「イオンモール熊本」爆発、原因はLPガスの可能性
- 流通ニュース イオンモール熊本/爆発事故の被害は死者7人、負傷者26人判明
