「あの株を買ったこと、一生忘れない」――そう言える銘柄が、あなたにもあるんじゃないだろうか。
儲かった銘柄の記憶は意外とぼんやりしている。でも損した銘柄は、買った日の天気まで覚えていたりする。2024年のクソ株オブザイヤー(X上での投票企画)で堂々1位に輝いたのはオリエンタルランド。2位が日産自動車。NTTやレーザーテックも上位に名前が並んだ。ダイヤモンド・ザイの読者アンケートでは「損した株1位」がNTT。正直、ため息しか出ないラインナップだ。
このランキングを眺めていて気づくのは、「ヤバい会社」がほとんど入っていないことだ。オリエンタルランドもNTTも日産も、名前だけ見れば日本を代表する企業ばかり。なのになぜ、個人投資家はここで大損するのか。5銘柄を順番に分析してみると、損のパターンはだいたい3つに分類できることがわかった。
この記事で見えてきた「個人投資家の負けパターン」
① 「みんなが買ってるから」型──NTT・オリエンタルランド
② 「高配当だから安全」型──日産自動車
③ 「成長ストーリーに賭けた」型──レーザーテック・サンウェルズ
第1位:NTT(9432)の株価はなぜ下がったのか──177万人が掴まされた構造
2023年7月、NTTは1株を25分割した。結果、2万円以下で買える「お手軽銘柄」になり、新NISA元年と重なって個人株主数は約70万人から一気に177万人へ膨れ上がった。2024年6月時点ではさらに増えて226万人を超えたとされている。
問題はここからだ。株主数がピークに達した2024年前半、NTTの株価は見事に崩れ始めた。モバイル事業の伸び悩み、IOWN構想の収益化が見えないこと、そもそもの業績成長率に対して株価が割高だったこと。材料はいくらでもあるが、一番きついのは「新NISAランキング1位だから買った」という層が大量にいたことだろう。
ダイヤモンド・ザイの読者アンケートには「『新NISA購入ランキングで1位』などの情報に惑わされました。もう少し慎重に購入すべきだった」という40代男性の声が載っている。この声がすべてを物語っている。ランキングが買いの根拠になっている時点で、もうその銘柄は天井圏にいる可能性が高い。
NTTの個人株主は現在も増え続けているとみられるが、彼らの多くが含み損を抱えた状態でホールドしている。配当があるから、と。配当利回り3%台で年間数百円の配当をもらいながら、何万円もの含み損を眺め続ける日々は、はたして「資産形成」と呼べるのかどうか。
第2位:オリエンタルランド(4661)株価下落の理由──売上最高でなぜ62%下がるのか
「ディズニーの株は下がらない」。そんな神話が確かにあった。2024年初頭に5,700円を超えた株価は、そこから崩壊が始まり、2026年4月には2,188円まで叩き売られた。高値からの下落率は約62%。売上は過去最高を更新し続けているのに、だ。
表面上の理由はいくつもある。京成電鉄がアクティビストの要求を受けて保有株を売却し始めたこと。三井不動産にも米エリオットから売却圧力がかかっていること。リベンジ消費の一巡。ディズニークルーズへの3,300億円の巨額投資に対する懸念。
ただ、正直に言えば、この銘柄で損した人に共通するのは「ディズニーだから安心」という思い込みだったんじゃないかと思う。好きなブランドだから。家族で行ったから。優待でパスポートがもらえるから。投資判断の根拠として、それはあまりにも脆い。好業績で株価が下がるとき、何が起きているかを理解していない人が、この銘柄に一番多くいたように見える。
なおの視点
売上過去最高で株価62%下落。これが意味するのは、「企業の業績」と「株価の方向」は別物だということだ。PERが50倍を超えていた時代に買った人は、どれだけ業績が良くても株価の正当化が追いつかない。大株主の売却という需給要因が加われば、個人がどれだけ頑張ってもどうにもならない。機関の都合で個人の資産が溶ける、いつものパターンだ。
第3位:日産(7201)の株価がなぜ安いままなのか──高配当利回りという罠の正体
日産は2024年のクソ株オブザイヤーで2位。Bloombergの報道によれば、2024年4-6月期の営業利益は前年同期比99%減のわずか10億円。市場予想の1,338億円に対してこの数字だ。株価は一時11%急落し、その後も下げ止まらなかった。
ホンダとの経営統合の話が出て一瞬株価が跳ねたが、結局は破談。2026年3月期も6,500億円の最終赤字見込み。コロナ禍の最安値圏に沈んでいる。
日産に引っかかった個人投資家の多くは「配当利回りが高いから」で買っている。配当利回りが高い→業績が悪くて株価が下がっている→だから利回りが高く見える、という単純な因果関係を見落としている人が驚くほど多い。そしてその配当すら減配・無配になれば、もう何も残らない。日産はまさにそのコースを歩んでいる。
第4位:レーザーテック(6920)株価暴落の理由──半導体ブームに乗った個人の末路
レーザーテックは性質がまったく違う。NTTやオリエンタルランドが「安心して買ったら下がった」パターンなのに対して、レーザーテックは「スリルを求めて飛び込んだら粉砕された」パターンだ。
東証の売買代金ランキングで常にトップ圏内。EUV露光装置の欠陥検査で世界唯一のポジションを持つ企業として半導体ブームの象徴だった。2024年10月の決算では純利益が前年同期比16%増の89億円だったが、市場予想の186億円を大幅に下回り、一時16.93%の暴落。受注高の非開示も嫌気された。
つばめ投資顧問の分析では「少し仕手株化しているなという感じはある」という指摘もある。売買代金が大きいということは、それだけプロのトレーダーや短期筋も集まっているということで、個人投資家が「半導体は将来性がある」という雑なテーゼで中途半端にポジションを取ると、機関のアルゴリズムに一瞬で刈り取られる。そういう場所だった。
第5位:サンウェルズ(9229)不正請求で何が起きたか──28億円と社長の売り逃げ
これは上の4つとは質が違う。パーキンソン病専門の有料老人ホーム「PDハウス」を展開し、プライム市場に上場していたサンウェルズ。成長ストーリーは魅力的だった。高齢化社会の恩恵を受ける福祉銘柄で、業績は右肩上がり。2024年にはプライム市場に移行し、勢いがあった。
ところが2024年9月、共同通信が訪問看護での不正請求疑惑を報道。会社側は当初「名誉毀損」と全面否定したが、2025年2月に特別調査委員会が42施設で約28億円の不正請求があったと認定した。しかも報道直後に社長が自社株を売却していたことも発覚し、インサイダー取引の疑いまで浮上している。
会社が「名誉毀損だ」と全力で否定した疑惑が結局事実だった。報道後に社長が株を売っていた。現金残高22億円に対して不正請求額は28億円。ストップ安を連発し、Xでは「フルレバで突っ込んだら退場」という悲鳴も見られた。成長ストーリーを信じた個人投資家にとって、これ以上の裏切りはなかなかないだろう。
番外編:野村マイクロ、東京電力、エネチェンジ……
クソ株オブザイヤーの下位にも味わい深い名前が並ぶ。野村マイクロ・サイエンス(9票)、東京電力(8票)、インテル・レーザーテック・NTT(各7票)。さらにライザップ、アンビス、QPS研究所、エネチェンジ、エムスリーなど。
2025年に入ってからも状況は変わっていない。ロゴス(205A)、REVOLUTION(8894)、タスキ(2987)、クシム(2345)と、IPO直後の新興企業で不正や業績崩壊が相次いでいる。個別株投資をやるなら、少なくともこの手のクソ株の存在は知っておくべきだと思う。損をしてから学ぶには、金額が大きすぎる。
ランキングが浮き彫りにする「搾取の構造」
このランキングを俯瞰すると、個人投資家が損をするパターンはだいたい3つに集約される。
個人投資家が繰り返す3つの負けパターン
①「みんなが買ってるから」型(NTT・オリエンタルランド)
ランキング、SNSの話題、身近な人の推奨。自分で企業分析をしていないから、下がったときに持ち続ける根拠がない。結果、最悪のタイミングで投げ売りするか、配当を言い訳に塩漬けにする。
②「高配当だから安全」型(日産)
配当利回りが高い=株価が下がっている、という事実に気づかない。あるいは気づいても目を背ける。減配されたときに初めて、配当利回りが「過去の数字」でしかないことを思い知る。
③「成長ストーリーに賭けた」型(レーザーテック・サンウェルズ)
テーマや物語に惹かれて参入するが、バリュエーションの感覚がないまま高値圏で掴む。あるいは不正の匂いに気づけず、会社の言い分をそのまま信じてしまう。
そしてこの3つのパターンに共通するのが、「個人投資家が最後の買い手にされている」という構造だ。NTTは25分割して個人を大量に呼び込んだ。オリエンタルランドの大株主は個人が買い支えている間に株を売った。サンウェルズの社長は報道後に自分の株だけ先に売った。
別に陰謀論を唱えたいわけじゃない。ただ、構造的に見れば、株式分割もSNSでのバズも証券会社のランキングも、結局は「個人投資家をマーケットに引き込むための装置」として機能している側面がある。引き込まれた先で何が起きるかは、この記事のランキングが示している通りだ。
個人投資家としての処方箋
「なぜその株価なのか」を自分の言葉で説明できない銘柄は買わない。これが、このランキングから得られる一番シンプルな教訓だと思う。
NTTを買った177万人のうち、NTTの事業セグメント別営業利益を見て買った人がどれだけいるか。オリエンタルランドのPER50倍が何を意味するか説明できた人がどれだけいるか。日産の北米事業が209億円の赤字に転落していたことを知っていた人がどれだけいるか。
知らなかったなら、それは投資じゃない。賭けだ。そして賭けで負けたなら、それは自分の責任だ。……ただし、賭場に引き込む側にも、それなりの責任はあるんじゃないかとは思う。
ランキングを見ていて気づくこと
クソ株ランキングを見ていて面白いのは、上位銘柄が毎年変わることだ。だが損をした理由は、ほとんど変わらない。
NTT、オリエンタルランド、日産、レーザーテック、サンウェルズ。業種もビジネスモデルも時価総額もバラバラな5社を並べてみると、個人投資家が引っかかるきっかけは毎回ほぼ同じだとわかる。「有名だから」「ランキングに載ってたから」「配当が高かったから」「テーマが熱かったから」。銘柄だけ入れ替えて、理由は使い回しになっている。
今年の損した銘柄は来年には別の名前になるだろう。でもそのとき、読者の誰かが「高配当だから安全だと思った」とか「SNSで話題になってたから」とか言いながら損をしている可能性は、たぶん低くない。そういう意味では、このランキングは銘柄の記録じゃなくて、行動パターンの記録だと思っている。
自分自身、過去に似たような引っかかり方をしたことが一度や二度じゃない。だから偉そうなことを書けるわけじゃないけど、少なくともこのランキングを毎年眺めていれば、「次に来るのはどのパターンか」くらいは見当がつくようになる。それだけでも、十分な防衛になると思っている。
※本記事は特定銘柄の投資推奨・売却推奨を行うものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。記事中のデータは各種報道および企業IR資料に基づいていますが、正確性を保証するものではありません。最新情報は各企業のIRページ等で必ずご確認ください。
出典・参考
