赤い羽根募金 横領1.8億円——北海道共同募金会の事案が示す「善意のガバナンス」という矛盾

政治・社会

赤い羽根募金が怪しい、という話は昔からネットに転がっていた。使途不明、中抜き、強制集金——そういう単語がSNSに定期的に流れてきては、どこか証拠に欠けるまま消えていく。そういうパターンを何度も見てきた。

2026年6月15日、北海道共同募金会が記者会見を開いた。約1億8000万円の使途不明金。会計責任者だった50代の事務局長が、2020年ごろから6年間にわたって寄付金を着服し続けていた疑いがあると発表した。会長は辞任を表明した。

「なんとなく怪しい」というネット上の疑念に対し、少なくとも北海道では具体的な不正疑惑が数字として表面化した。

どうやって6年間、誰にも気づかれなかったのか

この事案で一番不気味なのは、金額よりも年数だと思っている。6年間。毎年6〜7億円が集まる組織で、そこから繰り返し抜いていた。なぜ止まらなかったのか。

【今回の事案・確認済み事実】
北海道共同募金会の公式発表・各報道(2026年6月15日)より:
・事務局長(58歳)が2010年に事務局次長に就任、実質的に会計を1人で担当
・2020年頃から複数回、会の口座から自身の口座に資金を移した疑い
・2022年に事務局長就任後も継続
年度末の監査前だけ金融機関から借り入れ、口座残高をごまかしていたと弁護士が説明
・2026年2月、札幌国税局が所得税法違反の疑いで強制調査→発覚
・使途不明金は最大約1億8000万円、現在も調査中
・本来4月に行われる道内193か所への助成金配分が遅延中

構造を読むと、止まらなかった理由がよくわかる。「年度末の監査前だけ借り入れで残高をごまかしていた」——これはガバナンスが相互牽制や監査手続きに何らかの弱点がなければ成立しにくい手口にも見える。監査が実質的に機能していたなら、借入履歴を突き合わせれば一発でバレる。年度末の残高確認だけでは見抜けなかった可能性もある。監査手続きの詳細や外部監査の有無はまだ明らかになっていない。

前事務局長(現常務理事)は会見で「口座の確認はしたが気づけなかった、(事務局長が)会計責任者に就任してからは別の者が確認する体制がなかった」と述べている。要するに、十分な相互牽制が機能していたとは言い難い状況だったことがうかがえる。

「善意の構造」が穴を作る、という話

今回に限った話ではなく、過去にも福祉関連団体で類似の着服事案は発生している。田舎館村の案件(2022年、赤い羽根募金20万円の着服)、静岡県小山町の社協関連などが報じられている。

ひとつ仮説を言うと、「善意のお金を扱う」という性質そのものが、ガバナンスの甘さを正当化しやすい文化を生んでいるんじゃないかと思っている。民間企業なら経理への内部統制は利益管理と直結するから締まる。でも「地域のために集めた善意のお金」という文脈では、厳密に管理することが「疑うのか」という空気に変換されやすい。

⚠️ 筆者分析(推測を含む)
社会福祉法人は厚生労働省の所管下に置かれ、一定の会計基準・情報公開義務を負う。制度上のチェック機能は存在する。にもかかわらず横領が繰り返される背景には、「善意の組織への信頼」という心理的バイアスが内部統制を形骸化させるパターンが見られる——というのが私の読み。ただし、これは個々の組織文化によって差があり、すべての共同募金会が同様とは言えない。

もうひとつ。「1人で長年担当」という体制が繰り返し問題の温床になっている。今回も事務局長が2010年から実質的に会計を1人で仕切っていた。属人化した管理は、その人間が悪意を持てば詰んでいる。民間で言えば、経理担当に分離・牽制をかけるのは会社規模を問わず基本中の基本だが、こういう組織では「信頼できる人に任せる」という形で属人化が何十年も放置される。

被害を受けるのは、ちゃんと募金した側だ

今回の1.8億円で、道内193の共同募金委員会への助成金配分が遅れている。高齢者支援・障害者福祉・子ども食堂など、地域のインフラとして機能してきた福祉活動が直撃を受ける。善意を出した人の10メートル先に、その善意が届いていない。

情報や権限が一部に集中し、外部から実態が見えにくいという点では、投資詐欺事件と共通する構造も見える。情報・権限の非対称性を利用して、信じた側が損をする。違うのは、株や投資信託なら「リスクがある」と言える文脈があるが、募金は「善意の結晶」として文句を言いにくい空気が作られているという点だ。

構造上の問題点(筆者分析)
① 会計の属人化(1人管理)が横領の温床になりやすい
② 「善意のお金」という性質が内部監査を形骸化させる文化を作る
③ 監査が機能していても、残高照合のみでは借入によるごまかしを見抜けない
④ 発覚のトリガーが国税局の査察という「外圧」であり、内部から止まらなかった
⑤ 被害は助成金を受けるはずだった福祉現場に転嫁される

「赤い羽根が怪しい」と言うのは簡単だが

誤解のないように言っておくと、赤い羽根募金という仕組みそのものを「全部怪しい」と言いたいわけではない。社会福祉法に基づく公的性格のある制度であり、都道府県ごとに収支報告書の公開義務もある。問題は仕組みではなく、各都道府県の実装レベル——ガバナンスの厳しさに著しいばらつきがあり、それが穴になる、という点だ。

寄付する側ができることとしては、各都道府県共同募金会の収支報告書を確認する(公開義務があるので探せばある)、地域の具体的な助成先が明示されているか確認する、といった程度になる。残念ながら、それだけでは内部の不正を防ぐことはできない。そこは仕組みの問題であり、寄付者が負うべき責任ではない。

ただ、「善意のお金だからルーズでも許される」という文化は、この先も誰かが抜き続ける構造を温存する。同様の管理体制が残っている都道府県があれば、類似事案が起きるリスクは残る。

投資の世界で長年相場を見ていると、「信頼できる人・組織だから」という理由でチェックを省いたときに限って、必ずと言っていいほど何かが起きている。善意のお金も、利益を追うお金も、管理の甘いところに人間の欲はちゃんと集まってくる。

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