abc株式会社(8783)、黒字決算の裏で監査法人が消えた理由

投資・マーケット

また同じパターンだ、と思った。営業赤字なのに、経常利益と純利益だけが黒字になる。相場が荒れる銘柄では何度も見てきた光景だ。abc株式会社(8783、2025年9月にGFA株式会社から商号変更。証券コードは変更なし)が2026年7月15日に出した2026年8月期第3四半期決算短信、そして同日付の業績予想修正のお知らせ。この2本を並べて読むと、見出しの「黒字」がどうやって作られているのか、正直あまり気持ちのいい構造ではなかった。

決算は「黒字」──だが中身を見ると

まず数字を並べる。第3四半期累計(2025年9月〜2026年5月)の売上高は17億2,691万円。これに対して営業損失は18億8,415万円。売上とほぼ同じ額を、本業の運営コストが食いつぶしている計算になる。それでも経常利益は6億5,737万円、親会社株主に帰属する四半期純利益は9億3,429万円と、プラスの数字が並んでいる。

なぜ営業赤字が経常黒字に化けるのか
営業外収益に「暗号資産売却益」58億7,167万円が計上されている。一方で営業外費用には「暗号資産評価損」30億3,687万円。差し引きでも数十億円規模のプラスが残り、これが営業損失18億8,415万円を覆い隠している格好だ。
セグメント別に見ると、金融サービス事業がセグメント損失18億482万円、Web3事業がセグメント利益25億3,433万円。この2つがほぼ相殺し合う形で、全社の経常利益が形作られている。「本業で稼いだ黒字」というより、「暗号資産の評価と処分のタイミングで作られた黒字」に近い、というのが率直な印象だ。
項目金額
売上高17億2,691万円
営業損失△18億8,415万円
暗号資産売却益58億7,167万円
暗号資産評価損△30億3,687万円
経常利益6億5,737万円

(abc株式会社 2026年8月期第3四半期決算短信の数値をもとに作成)

監査法人が消えた理由

この決算と同じタイミングで、もう一つ気になる事実がある。会計監査人だったプログレス監査法人が、2026年5月8日付で辞任届を提出している。決算短信内で会社自身がこう説明している──暗号資産に関する会計処理及び適時開示に関する協議で「十分な信頼関係を構築するに至らなかった」と。7月15日の開示時点では、後任の監査法人はまだ正式には決まっていないとも書かれている。監査人不在のまま四半期決算を出す、というのはそう頻繁にある話ではない。

報道ベースで挙がっている争点(要出典確認)
暗号資産の評価・受贈益の認識時期、貸倒引当金の引当率、債権譲渡処理──この3点が見解の相違の中身だったとする報道がある。どれも「いつ・いくらで計上するか」の判断余地が大きい項目ばかりだ。株価は監査人辞任の開示を受けて、5月12日の175円から5月19日には117円まで、1週間ほどで約33%下落したという情報もある。この辺りの数値は決算短信そのものには書かれていない外部情報なので、そのつもりで読んでほしい。

「受贈益」という科目も個人的には引っかかる。決算短信には暗号資産受贈益3億4,799万円という特別利益が計上されているが、暗号資産を第三者が会社に贈与する取引というのは、通常の商取引ではあまり見かけない。この計上の背景は開示資料からは読み取れなかった。ここは筆者の推測でしかないが、監査法人が争点にしたという「評価・受贈益の認識時期」というのは、まさにこの科目のことを指しているんじゃないかと思っている。

下方修正が突きつけたもの

決算短信と同日、abcは通期の業績予想も修正している。前回予想(2025年10月公表)は売上高37億25百万円〜57億25百万円、営業利益は8億96百万円〜28億96百万円の黒字予想だった。今回の修正後は、売上高22億22百万円、営業利益は一転して21億43百万円の赤字予想。下限からさらに40〜61%下振れている。

修正理由に書かれていたこと
修正理由として会社が挙げているのが「ハイブリッドトレジャリー戦略(ビットコイン買付戦略の上場企業等への導入推進)」の未実行だ。今期から派生して始める予定だったこの事業が、暗号資産ディーリング事業からの撤退方針への転換によって実行されなかった、と説明されている。つまり、前回予想に織り込まれていた成長ドライバーの一つが、この四半期のうちに白紙になったということになる。

継続企業の前提という一文

決算短信の末尾近くに、「継続企業の前提に関する重要事象等」という項目がある。営業損益の継続的な赤字、監査人不在の状態、資金調達(第19回新株予約権)が想定通り進まなかったこと──この3つを理由に、「継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる」と会社自身が明記している。

読み慣れていないとピンと来ないかもしれないけれど、簡単に言えば「このまま行くと事業を続けられるかどうか、監査上は保証できない」という趣旨の注記だ。もちろん即座に倒産するという話ではないし、会社側も暗号資産ディーリング撤退・リファイナンス・監査体制の刷新という解消措置は並べている。ただ、この一文が四半期決算に載ること自体、軽く流していい話ではないと思う。

新株予約権という「もう一段の値下がり装置」

資金繰り安定化のため、abcは第三者割当による無担保社債と第20回新株予約権を発行する。行使価額は当初92円。ただし行使請求のたびに直前週の終値の90%まで修正され、下限は46円まで下がる設計になっている。株価が下がるほど、新株予約権の行使価額も一緒に下がっていく仕組みだ。発行済株式数はこの四半期だけで2,906万株から4,015万株まで増えていて、希薄化はすでに進行中だと考えていい。

この銘柄を見るときに確認しておきたいポイント
・新株予約権の下限行使価額(46円)と、現在の株価との位置関係
・後任の会計監査人が正式に選任されたかどうか
・「継続企業の前提」の注記が次の四半期でも継続して記載されるか
・保有する暗号資産の処分がどのタイミングで、いくらの評価損益として実現するか

なおの独自考察

長年相場を見ていると、決算の「黒字」という言葉だけで安心する人を何人も見てきた。今回のケースは正直かなり極端で、経常利益・純利益の見出し数字と、営業損益の実態がこれだけ乖離している決算はそう多くない。今期の黒字の大半を支えているのは暗号資産の評価益で、これは市場が反転すれば同じスピードで消える性質のものだ。
監査法人の辞任と、継続企業の前提の注記。この2つが同じ決算に同時に載っているのも、正直ここは不気味だ。片方だけなら「よくある話」で済ませられなくもないけど、両方揃うとなると、会計処理をめぐって社内と監査人の間にかなりの緊張があったんだろうな、というのは想像がつく。断定はしない。ただ、次の四半期で後任監査法人が決まるかどうかは、見ておいたほうがいい指標だと思う。
今回の決算で一番重要なのは、「黒字だった」という事実ではない。営業赤字を暗号資産の売却益で覆い隠していることでもない。監査法人が辞任し、後任も決まらないまま、継続企業の前提に重要な不確実性が記載され、その一方で下方修正と希薄化が進んでいる。これらが同じタイミングで一つの決算書に並んでいること自体が、この会社の”今”を物語っていると思う。
次に見るべきなのは利益の数字じゃない。後任監査法人が誰になるのか。新株予約権がどのペースで行使されるのか。そして、営業利益が暗号資産ではなく本業で改善する兆しが見えるのか。この3点が確認できるまでは、「黒字」という見出しだけで安心していい決算ではない、というのが今の見立てだ。
出典
・abc株式会社「2026年8月期 第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年7月15日)
・abc株式会社「2026年8月期 連結業績予想の修正に関するお知らせ」(2026年7月15日)
J-LiC 上場企業サーチ「監査法人の交代一覧」(監査法人交代情報・要継続確認)
Yahoo!ファイナンス abc(株)【8783】株価情報(旧GFA)(株価推移・要出典確認)

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