この記事でわかること
・建設業界の「多重下請構造」がなぜ個人にとって搾取的なのか
・RIZAP建設の「中間マージン排除」は本当に革命なのか
・過去のM&A失敗から見る「物語株」の危険性
・個人投資家がこのニュースで踊らされないための視点
RIZAPが建設業に参入──「中間マージン排除」という甘い言葉
2026年4月14日、RIZAPグループ(2928)が「RIZAP建設」の本格始動を発表した。chocoZAPで年間1,020店舗をオープンさせたノウハウを活かし、建設業界の多重下請構造を打破するという。
瀬戸健社長は記者発表会で「多重下請構造においても中間マージンを排除して、直接的に様々な専門の企業と繋がっていく。建設の常識を覆す」と意気込んだ。
通常費用から25~30%削減、工期は2倍速。500人規模の”建設のプロ”を育成する──。
聞こえはいい。だが、投資歴30年以上の目で見ると、このニュースには2つの構造的な問題が透けて見える。
建設業界の「多重下請構造」は確かに搾取の温床だ
まず、RIZAP建設が狙う「敵」そのものは正しい。建設業界の多重下請構造は、日本経済における搾取の構造の典型例だ。
発注者が元請け(ゼネコン等)に100万円で発注する。元請けは40万円を抜いて下請けに60万円で発注。下請けはさらに20万円を抜いて孫請けに40万円で回す。実際に汗を流して施工する職人の手に渡るのは、元の発注金額の半分以下──という構造だ。
この中間に入る業者は、多くの場合「右から左に流すだけ」で利益を得ている。これが建設費高騰の一因であり、末端の職人が低賃金で疲弊する根本原因でもある。
2024年問題(時間外労働の上限規制)によって建設業界の人手不足はさらに深刻化している。元請けが中間マージンを搾取し、末端の職人には適正な報酬が回らない。この構造的な歪みは事実であり、個人(施主・職人の両方)が割を食うシステムだ。
ここまでは、RIZAP建設の問題提起に異論はない。
しかし「搾取の構造を壊す側」だったはずのRIZAPの過去を忘れてはいけない
ここからが本題だ。
RIZAPグループには「異業種に参入して業界を変える」と宣言し、結果的に巨額の損失を出した前科がある。2016年以降、アパレル(ジーンズメイト)、出版、介護、美容など最大85社以上の企業をM&Aで買い漁り、「負ののれん」を利益計上して見かけの業績を膨らませた。
・赤字企業を割安で買収し「負ののれん」を利益計上する手法で見かけの業績を拡大
・短期間での経営改善が追いつかず、大規模な減損処理が発生
・「何の会社かわからない」状態になりブランド価値が毀損
・2019年3月期に大幅な最終赤字に転落。株価はピーク時の10分の1に暴落
・取締役12人中7人が退任する事態に
その後、chocoZAPの成功でV字回復を果たしたのは事実だ。だが、注意すべきはchocoZAPが成功した理由は「パーソナルトレーニングのノウハウという明確な強み」と「月額サブスクというビジネスモデル」が噛み合ったからだということ。本業と密接に繋がる領域だったからこそ成功した。
建設業は違う。
「内装工事の大量出店」と「建設業」は全く別の競技だ
RIZAP建設が強調する「チョコザップ1,020店舗の出店ノウハウ」。これは確かにすごい数字だが、冷静に分析すると内実が見えてくる。
chocoZAPの出店は「既存のテナント物件に、規格化された内装を施工する」工事だ。マシンの配置パターンも、内装の仕様もほぼ統一されている。これは「建設業のノウハウ」というより「店舗オペレーションの効率化」に近い。
一方、一般の建設業は現場ごとに条件が異なり、地盤・周辺環境・建築規制・天候など無数の変数と格闘する世界だ。「安い、早い、ちょうどいい」が通用するほど単純な業界ではない。

実際、RIZAP建設が現在手がけているのは主に「店舗の内装工事」であり、テスト段階の186件もチェーン店舗の内装施工だ。これを「建設業界への参入」と呼ぶのは、いくらなんでもスケールが大きすぎる看板ではないか。
さらに気になるのは「グループ全体から500人規模のリソースシフト」という方針だ。建設業とは縁もゆかりもない社員を半年で「建設のプロ」に育てるという。RIZAPトレーナーの育成カリキュラムを応用するというが、筋トレのフォームを教えることと、建設現場の安全管理・品質管理は根本的に別次元の話だ。(要出典確認:RIZAPグループの直近の従業員数と建設業許可の取得状況)
個人投資家よ、「物語」で株を買うな
投資家としてもっとも警戒すべきは、このニュースが持つ「ストーリーとしての魅力」だ。
「建設業界の闇を打破するRIZAP」──話としては最高に面白い。チョコザップのギネス記録という実績もある。SNSでは「さすが瀬戸社長」「建設業界を変えてほしい」という声が上がっている。
だが、思い出してほしい。2017年にも同じような熱狂があった。
「ライザップが次々と企業を買収してグループ拡大!」「瀬戸社長は天才経営者!」──あのとき株を買った個人投資家の多くは、その後の暴落で資産を大きく毀損した。当時の予想PERは90倍。日本株の適正水準(約12.5倍)の7倍以上だった。

①「中間マージン排除」の具体的な仕組みとP/Lへのインパクトを確認する(IR資料で)
②建設セグメントの売上・利益が全体に占める割合が意味のある規模になるまでは「材料」として扱わない
③過去のM&A失敗→chocoZAP成功→建設参入という「ストーリーの美しさ」に酔わない
④RIZAP建設の建設業許可の種類(一般/特定)と受注範囲を確認する
⑤株価217円(2026年4月14日時点)という水準で、建設事業の将来利益がどこまで織り込まれているかを冷静に判断する(要出典確認)

搾取の構造を壊す者が、次の搾取者にならないか
最後に、もうひとつ冷たい視点を提示しておく。
「中間マージンを排除する」というRIZAP建設のモデルは、裏を返せば「従来の中間業者が担っていた機能(品質管理・安全管理・工程管理)をRIZAP建設が一手に引き受ける」ということだ。
これは「中間マージンの排除」ではなく「中間マージンの付け替え」ではないか。多重下請構造の頂点にいたゼネコンの代わりに、RIZAPが座るだけだ。しかも、建設業のノウハウが浅い企業が。
建設業界の多重下請構造は確かに搾取的だ。だが、その構造には長年かけて形成された理由もある。品質保証の責任分担、専門工種ごとの技術蓄積、労災発生時の責任体制──これらを「中間マージン」の一言で片付けて排除できるほど、建設の現場は甘くない。
30年以上マーケットを見てきて、何度も見たパターンがある。「業界の闇を暴く」「常識を覆す」──こういう言葉を使う企業が株式市場に登場するたびに、個人投資家が群がり、そして散っていく。
建設業界の多重下請構造が搾取的であることは事実だ。だが、その「正しい問題提起」と「その企業の株を買うべきかどうか」はまったく別の話だ。
RIZAPは過去に「異業種参入」で85社をM&Aし、大半を失敗させた前科がある。chocoZAPで見事に復活したのは事実だが、それは本業の延長線上だったからだ。建設業は本業の延長線上にはない。
「結果にコミット」するのは自由だが、個人投資家の資産が「結果」に巻き込まれる必要はない。ニュースで踊らされるのではなく、IR資料の数字で判断する。それが搾取されない唯一の方法だ。
まとめ
この記事のポイント
・建設業界の多重下請構造は、施主と職人の双方から搾取する日本型の構造問題
・RIZAP建設の「中間マージン排除」モデルは、実態としては店舗内装の効率化であり「建設業革命」とは言い切れない
・RIZAPグループには過去のM&A大失敗の前科があり、異業種参入のリスクは高い
・「物語としての魅力」と「投資判断」は分けて考えるべき
・搾取の構造を壊すと宣言する企業が、次の搾取者にならないか──常に疑え
