abc(8783)ワラント大量行使、未行使2260万株の重み

投資・マーケット
7月27日、abc(8783)から新株予約権の大量行使に関する適時開示が出た。タイトルだけ見ると事務連絡っぽいIRなんだけど、中身を数字で追っていくと、けっこう重い話だった。
まず事実から並べる。7月23日〜27日の期間に、第20回新株予約権(行使価額修正条項付)の行使によって合計3,442,000株が新たに交付された。内訳はこうなっている。

対象月間の行使状況

行使日新株(株)行使価額(円)行使額面総額(千円)
7月24日(金)600,00060.336,180
7月27日(月)2,842,00057.6163,699
行使価額は60.3円から57.6円へ、3日でおよそ3円下がっている。行使価額修正条項付のワラントだから当然と言えば当然なんだけど、株価が下がるほど行使価額も切り下がって、同じ調達額を得るのに必要な株数が増えていく。このサイクルがどのくらいのペースで回っているか、正直ここは少し不気味だ。

交付先は誰なのか

今回のIR本体には交付先の名前は出てこない。ただ、第20回新株予約権そのものの発行決議(2026年7月6日付)まで遡ると、割当先はLong Corridor Asset Management系のファンドだと報じられている。EVO FUNDのようにIRで頻繁に名前を見る相手ではないので、知らない読者も多いと思う。
Long Corridor Asset Managementとは
香港拠点の投資運用会社で、東京・丸の内にも拠点を持つ。日本市場ではMSワラント(行使価額修正条項付新株予約権)の主要な引受先の一社として知られている。同社は裁定取引やスペシャルシチュエーション投資などを手掛けるオルタナティブ資産運用会社で、日本ではMSワラントやCBの引受先として名前を見る機会が多い(今回の案件で具体的にどの戦略が採られているかまでは公表情報からは分からない)。過去にはHIS、フジオフードグループ本社、プロルート丸光などの第三者割当を引き受けた実績があり、直近ではエス・サイエンスやReYuu Japanといった銘柄で大量保有・借株関連のニュースも出ている。実際の資金は複数のケイマン籍ファンドから構成されているとの情報もあり、この点は一次資料での確認を推奨する。

そもそも第20回ワラントはどういう条件だったか

項目内容
発行総数261,000個(潜在株式26,100,000株)
当初行使価額92円
下限行使価額46円
希薄化率(最大)70.01%
同時発行の社債第1回無担保社債(私募債)2億円・利率0%
差引手取概算22億7,236万2,500円
資金使途M&A・投資資金、借入金・社債返済資金等
発行が決議されたのは7月6日。同日に、同社は暗号資産ディーリング事業からの撤退も公表しており、事業ポートフォリオの見直しと資金調達を同時に進めた形となった。
行使価額修正条項、何が怖いのか
このタイプのワラントは、株価が下がると行使価額も下方修正される。企業側は「調達額を確保するため」と説明することが多いけど、投資家側から見ると、株価下落局面で交付株数が増えるという意味でもある。株が売られる→行使価額が下がる→同じ金額を調達するのにより多くの株が発行される→需給がさらに重くなる。このループが回り始めると、個人投資家が「そろそろ底かな」と思って買った瞬間に、また新しい株が市場に出てくる、ということが起きやすい。今回のケースでそこまで進んでいるかは分からないが、構造としてはそういう仕組みだと理解しておいたほうがいい。

残っている希薄化余地

今回の開示で一番見ておくべき数字はここだと思う。現時点での未行使分は226,580個(22,658,000株)。対象月前月末時点の発行済株式数は41,259,119株(うち自己株式73,591株)なので、単純計算で現在の発行済株数の約55%にあたる株が、まだ市場に出てくる余地として残っている。発行時点で示されていた「最大70.01%」という希薄化率とあわせて考えると、今回の3,442,000株はまだ入口に過ぎない、という見方もできる。
なおの独自考察
MSワラントは成長投資やM&A、運転資金の確保など、前向きな用途で使われることも普通にある。ただ資金調達の自由度が高い一方で、通常の公募増資よりコストが高くなるケースも多く、市場では資金繰りを慎重に見る投資家も少なくない。今回、同日に暗号資産ディーリング事業からの撤退も公表しており、事業ポートフォリオの見直しと資金調達を同時に進めた形になっている――そこから先、社内で何があったかまでは外側からは分からない。個人的には、この規模の未行使残(発行済の約55%)を抱えた銘柄が急反発したときほど怖いと思っている。フライング気味に「そろそろ底だろう」と仕込みたくなる自分もいるんだけど、行使側の売り圧力がどのタイミングで出てくるか読めない以上、ここはあえて動かないというのも一つの判断だと思う。
今後、何を見ておくべきか
・TDnetで毎月出てくる「行使状況」の続報。今回のペースが続くか、加速するかで温度感が変わる
・大量保有報告書・変更報告書。Long Corridor系ファンドの保有割合の変化はここで確認できるが、日々どのタイミングで市場で売ったかまでは分からない
・行使価額の下限46円にどこまで近づくか。下限に張り付くと調達の効率が落ちるため、企業側の資金繰りにも影響が出やすい

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出典

・abc株式会社「第20回新株予約権(行使価額修正条項付)の大量行使に関するお知らせ」2026年7月27日付適時開示
・abc株式会社「第三者割当による第1回無担保社債(私募債)及び第20回新株予約権(行使価額修正条項付)の発行及び第19回新株予約権の一部取得及び消却に関するお知らせ」2026年7月6日付 TDnet
・abc株式会社「第20回新株予約権(行使価額修正条項付)の発行に係る払込完了に関するお知らせ」2026年7月22日付 TDnet
・「abc-急落 新株予約権で22.7億円調達 M&A資金などに充当」トレーダーズ・ウェブ(Yahoo!ファイナンス配信) 記事リンク
・「Long Corridor Asset Management」Wikipedia 記事リンク

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