株クラのインフルエンサーが『推奨銘柄』を出す前にすでにポジションを持っている件

投資・マーケット
株クラのタイムラインを眺めながら、ずっと引っかかっていることがある。なぜ彼らは「損した」と書かないのか。書けないのか。それとも、書く理由がないのか。

タイムラインは「成功日記」であって損益計算書ではない

毎週のように「+30万円確定🎉」「今月も含み益更新」という投稿が流れてくる。それ自体は別に問題じゃない。人間、嬉しいことを人に話したいのは自然だ。

ただ、少し立ち止まって考えてほしいんだが、フォロワー1万人のアカウントが1年間で100回取引したとして、30勝70敗だったとしても、SNSに残るのは30回の勝ちの記録だけだ。負けたときの投稿は削除されるか、そもそも投稿されない。これは意地悪な話ではなく、プラットフォームの構造がそうなっているだけの話で——「いいね」が100以上ついた投稿と、「いいね」が3しかつかなかった投稿では、アルゴリズムが前者を優先的に拡散する。

行動経済学の文脈では「ポジティブ選択バイアス」と呼ばれているが、難しい言葉は必要ない。タイムラインは「成功日記」であって「損益計算書」ではない、それだけのことだ。

問題は、見ている側がそれを無意識に「損益計算書」として読んでしまうことにある。毎日流れてくる爆益報告を浴び続けると、「この人は勝ち続けている」という錯覚が積み上がっていく。人間の認知はそういう風にできている。

【構造メモ】生存者バイアスとアルゴリズムの複合効果
SNSの「勝者」が可視化される構造は、①損失投稿の自主的な非公開、②アルゴリズムによるポジティブ投稿の優先拡散、③フォロワーの確証バイアス(信じたいものを信じる)、という三層の歪みが重なっている。一つひとつは微細でも、組み合わさると認知の歪みとしてかなり大きい。

「影響力」と「ポジション保有」が重なると何が起きるか

フォロワー数万人のアカウントが「この銘柄、今が仕込み時だと思う」とポストする。翌朝、その銘柄の出来高が跳ね上がる。これは珍しいことでも何でもなく、発信力のある個人アカウントが小型株の短期需給を動かすケースは実際に起きている。

ここで問題になるのは、「推奨」そのものではなく、「推奨者がすでにポジションを持っているかどうか」が読者に見えないという構造的な非対称性だ。

推奨→買い集まり→株価上昇→静かに売却、というサイクルが起きていたとしても、それが「意図的な操作」なのか「たまたまタイミングが重なった」のかは外から判断しにくい。実際、本当に良いと思って推奨している人間もいるはずで、全員が同じ意図を持っているとは言えない。ここは正直、断定できないし、断定すべきでもない部分だ。

ただ、利益相反が発生しやすい構造であることは確かで、機関投資家なら開示義務やコンプライアンスで縛られる部分が、個人の投資発信には現状ほぼかかっていない。それが問題の核だと思っている。

【注意】グレーゾーンの範囲について
明確な虚偽事実の告知や損失補塡の約束などは金融商品取引法の規制対象になりうる。一方で「個人の意見として」「投資判断はご自身で」という文脈での投稿は、違法かどうかの判断が難しいケースも多い。個別の行為が合法か違法かは状況によって異なり、ここでは断定しない(要出典確認:金融商品取引法163条・166条周辺の実務解釈)。

「億り人」というラベルが機能する理由

「億り人になりました」は株クラで最強のコンテンツだ。一気にフォロワーが増え、有料コミュニティへの導線ができ、出版社から連絡が来る。それはわかる。人間として当然の動機だと思う。

ただ、その「億」の内訳をちゃんと確認した人がどれだけいるか。

含み益と確定益は別物で、1億円の含み益があっても、そこから税金(20.315%)を引いた実手取りは8,000万円を切る。さらに市況が崩れれば含み益は縮む。「億り人」という称号は資産規模の正確な表現というより、ある種のブランドラベルとして機能している面がある——というのは言い過ぎかもしれないが、少なくとも額面通りに受け取るのは危ない。

【構造メモ】株クラインフルエンサーの収益構造
実際の収益源として大きいのは投資リターンそのものより、①証券口座開設アフィリエイト(1件あたり数千〜数万円)、②有料コミュニティ・サロン、③書籍・セミナー、④企業スポンサードの組み合わせであることが多い。フォロワー数が増えるほど収益の非対称性が広がる構造になっていて、フォロワーの投資成果と発信者の収益は必ずしも連動しない(要出典確認:各プラットフォームのアフィリエイト単価は時期・条件により変動)。

「再現性」という問題について、正直に言う

長年相場を見ていると、個人の成功体験の再現性については、かなり懐疑的にならざるを得ない。

2013年から2021年にかけての日本株・米国株は、よほど変なことをしない限り資産が増えていく相場だった。その時代に「自分のメソッドで勝った」と確信した人間が、それを体系化してコンテンツとして売り始めている。風が強い日に走って「俺は足が速い」と思った、みたいな話で、相場の環境要因と個人のスキルを分離して検証できている人はほとんどいない。

機関投資家のファンドマネージャーが「自分の実力で勝てる」と言うには、3年以上の実績とリスク調整後リターン(シャープレシオ)とベンチマーク比較を出す必要がある。個人の投資発信にそれを求める仕組みは現状ない。だからこそ、受け取る側が自分で考えるしかない。

じゃあ、どう情報を扱うか

「SNSの投資情報は全部ゴミか」という話ではない。有益な発信をしている人間は確実にいる。ただ、その見分け方は「フォロワー数」でも「実績額」でもない。

【実践】発信者の質を測る視点
・損失や失敗も定期的に書いているか(利益だけ報告する人間は疑ってかかれ)
・「なぜ買うか」の論理を説明しているか(「今が仕込み時」だけは論理ではない)
・アフィリエイトや案件をちゃんと開示しているか
・特定銘柄の推奨より、考え方の枠組みを伝えようとしているか
・フォロワー数より、発信の継続年数と一貫性を見る

結局のところ「誰を信じるか」より「どう検証するか」の方がずっと大事で、IRドキュメントの数字一行の方がフォロワー10万人の「買い推奨」より信頼できる場面は多い。あなたの資産を守れるのは、あなた自身の頭だけだ。

なおの独自考察|SNS投資情報と「承認経済」の問題

なおの視点

正直に言うと、これは「悪人を探す話」じゃないと思っている。

株クラのインフルエンサーが全員、意図的に読者を騙そうとしているとは思わない。むしろ、プラットフォームの設計と承認欲求と収益化の圧力が組み合わさった結果として、「嘘をつかなくても歪む」構造が出来上がっているのが問題だ。

損失を投稿しても「いいね」はこない。爆益報告は何百リポストもされる。これを毎日繰り返していたら、発信者自身の自己像も歪んでいく可能性がある。「自分は勝てる人間だ」という確信が積み上がり、再現性のない手法をコンテンツとして売り続ける。本人も信じ込んでいる、という構造が一番厄介かもしれない。

個人投資家にできることは、「情報の出所を疑う習慣」を持つことだけだ。その発信者は、その情報でどう得をするのか。それを自分で問い続けることが、SNS時代の投資リテラシーの最低ラインだと経験上感じている。

── まだ読み足りないなら ──

カテゴリから読み解く個人投資家が負ける構造

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