今井絵理子氏が内閣府副大臣に就任した。9月18日、木原官房長官が副大臣27人の名簿を発表した直後から、SNSには批判的な反応がずらりと並んだ。2023年夏の自民党女性局によるフランス研修をめぐる騒ぎ、過去の報道、それに「なぜ今井絵理子なのか」という素朴な疑問。
気持ちは分かる。ただ、首相会見の全文や官邸が出している名簿をしばらく追いかけてみると、私が引っかかったのはそこではなかった。
「なぜ反発を予想できなかったのか」という問いは、たぶん少し的を外している。反発はおそらく予想できた。それでも起用した理由の方を掘った方が、今回の人事はずっと見通しがよくなる気がしている。
「旧派閥は全く考慮していない」は、閣僚についての発言だった
9月17日の夜、第2次高市改造内閣の発足会見で、高市首相は人事の方針をかなり丁寧に語っている。自民党所属議員に配ったアンケートに目を通し、専門知識や課題意識、やる気を吟味して、積極性と情熱、それに実行力を重視した、という説明だ。読売新聞の記者に旧派閥のバランスを問われると、「旧派閥のバランスなどは全く考慮をしておりません」とはっきり言い切った。
ここだけ切り取れば、今井氏の起用も「障がい者政策に長く取り組んできたから選ばれた」という話につながりそうに見えるし、実際ネットではそういう読み方もされていた。
ところが全文を読み直すと、話の主語が違う。首相が説明していたのは「今回新たに閣僚となっていただく方」の選び方で、副大臣や政務官をどんな基準で選んだのかは、この会見ではほとんど語られていない。副大臣の顔ぶれが決まったのは翌18日だ。正直、ここは見落としていた人が多いと思うし、私も最初は流し読みしていた。
参議院では、そもそもアンケートが実施されていない
同じ回答の中に、もう一つさらっと重要な一言がある。首相は「閣僚のうち、アンケートを実施されなかった参議院と日本維新の会を除きましては」と前置きしてから、ほぼ全員が希望したポストに就いたと説明した。
今井氏は参議院議員だ。
会見の文脈はあくまで閣僚人事なので、これをそのまま副大臣人事に当てはめるのは慎重であるべきだと思う。それでも少なくとも、「首相が今井氏のアンケート回答を読み、その情熱を評価して抜擢した」という筋書きは、公開されている情報からは組み立てられない。参院側ではアンケートそのものが行われていなかった、と読めるからだ。
かといって「突然の抜擢」でもない
一方で、「元SPEEDだから突然副大臣になった」という見方も、ちょっと乱暴だと思う。政府内の役職だけを時系列で並べてみると、こうなる。
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 2016年7月 | 参議院議員に初当選(比例) |
| 2019年9月 | 内閣府大臣政務官 |
| 2022年7月 | 参議院議員に再選 |
| 2024年11月 | 第2次石破内閣で復興大臣政務官・内閣府大臣政務官を兼務 |
| 2026年9月 | 第2次高市改造内閣で内閣府副大臣(初) |
議員になって10年、政務官を2度こなしたうえでの初の副大臣。キャリアの階段としては、むしろ教科書どおりに近い流れで、何の経験もない人がいきなり引き上げられた、という絵ではない。
→ 実際は政務官2回を経た、段階的な昇格に近い
→ 参院はアンケート対象外。首相自身による今井氏への具体的な評価は公表されていない
担当は「沖縄・こども・障がい者」
今井氏は就任当日のインスタグラムで、葉梨大臣と中司大臣のもとで沖縄、こども政策、障がい者政策などを担当すると報告している。故郷・沖縄の振興と、障がいの有無にかかわらず自分らしく生きられる社会は、これまで大切にしてきたテーマだ、とも。
沖縄は出身地で、障がい者政策については聴覚障がいのある長男を育ててきた経験があり、議員になる前から手話の普及にかかわってきた人だ。本人が掲げてきたテーマと今回任された担当は、かなりの部分で重なっている。
配置だけを見るなら「専門分野と担当を合わせた」という説明には一応の筋が通る。じゃあなぜ、これほど批判を浴びるとわかっている人物をわざわざ、という疑問はやっぱり残るわけで。
「抜擢」より「昇格」に近いのかもしれない
ここで少し見方を変えてみたい。「首相が今井絵理子という人物を特別に高く評価した」と考えるから不思議に見えるのであって、「参議院に10年近く在籍し、政務官を複数回経験した議員を、次の段階に上げた」と見れば、人事の流れとしてはむしろ自然だ。
しかもこれは今井氏だけの話でもない。官邸が公表した副大臣27人の名簿を見ると、参院議員はほかにも並んでいる。
財務副大臣 進藤金日子氏
農林水産副大臣 藤木眞也氏
経済産業副大臣 宮本周司氏
国土交通副大臣 朝日健太郎氏
防衛副大臣 小鑓隆史氏
内閣府副大臣 今井絵理子氏
2月に発足した第2次高市内閣の副大臣名簿にも、参院議員は複数入っていた。「参院枠」という公式の制度があるわけではないにせよ、政府ポストのうち一定数を参院側から出す構成は、組閣のたびに見慣れた風景だ。ここは本当に見落としやすい。
参院自民党は、ほとんど「別の組織」
組閣の前日、9月16日のことだ。参院幹事長の交代について問われた高市首相は、党の規則上、参院の役員の人事権は自分にはなく、参院議員会長が決めたと答えている。参院自民党の会則では、幹事長などは議員会長の推薦をもとに決まる仕組みになっていて、松山政司会長も、参院独自の歴史と伝統にもとづく人事だと説明していた。
もちろん副大臣は政府の人事で、最終的に決めるのは内閣の側だ。党の参院役員人事と同じ話として扱うことはできない。ただ、参院が独自の論理で人を動かす文化を持っていることは、今回の人事を眺めるときに頭の片隅に置いておいた方がいいと思う。
もう一つ引っかかるのが、参議院で自民・維新が過半数を持っていないという現実で、10月の臨時国会では参院での法案審議の停滞を心配する声が党内からも出ている。推測ですが、そういう局面で官邸が参院側の人材配置を軽く扱う余裕は、あまりないのではないか。
参院側の人材配置、これまでの役職歴、担当政策との相性、政府全体のポストの配り方。いくつかの条件が重なった結果として見る方が、「首相が一人で選んだ」という構図よりは実態に近い気がする。真相はたぶん、その間のどこかにある。
反発は、たぶん計算に入っていた
最初の疑問に戻る。今井氏を副大臣にすれば批判が出る。これは読みにくい話だっただろうか。
フランス研修の件はいまも今井氏の名前とセットで語られるし、副大臣になれば掘り返されるのは目に見えていた。人の評判に誰よりも敏感な永田町の人たちが、それを想像できなかったとはちょっと考えにくい。
だとすると政府・自民党は、「批判が出ない人だから選んだ」のではなく、「批判が出ても起用するだけの理由がある」と判断したことになる。公開情報から確認できるその理由を並べれば、参院2期目という在職期間、2度の政務官経験、担当政策との継続性、それに参院から一定数を政府ポストに出す従来の構成、くらいだろう。
地味だ。けれど人事というのは、だいたいこういう地味な積み重ねで動いているものだと思う。
有権者の時計と、永田町の時計
政治家への評価と党内人事の時計は、同じ速さでは進まない。
世間では「フランス研修の説明はどうなった」「なぜ副大臣なのか」という声がくすぶったままでも、党内では「参院2期目」「政務官経験あり」「担当分野あり」という履歴が淡々と積み上がっていく。そうするとある時点で、人事上は「そろそろ副大臣」という段階に入ってしまう。本人がどう見られているかとは、ほとんど無関係に。
今回いちばん興味深かったのは、実はここだった。有権者が見ている時計と、永田町の人事の時計がずれていて、今井氏の場合はそのズレがたまたま大きく、目立つ形で表に出てしまった。
本当に問われるのは、ここから
起用が妥当だったかどうかを今の時点で断定するより、これから何をするのかを見ていく方がいい。副大臣は飾りの肩書きではないし、今回は本人が長年取り組んできたと語る障がい者政策、こども政策、沖縄政策をそのまま任されている。「ずっとやってきた」と言ってきた分野を実際に預けられたのだから、言い換えればかなり逃げ道の少ない人事でもある。
政府側にも宿題は残っている。首相は、専門知識や課題意識、情熱、実行力を重視した人事だと胸を張った。その物差しを副大臣人事にも当てはめるつもりなら、今井氏についても「なぜ彼女だったのか」を政策実績と役割で語れた方がいい。
反発が出たこと自体は、人事の失敗を意味しない。ただ、反発が予想できる人事ほど、起用理由は具体的であるべきだと私は思う。
問うべきは「なぜ反発を予想できなかったのか」ではなく、「反発を予想したうえで、それでも起用するだけの理由を、政府はどこまで説明できるのか」。今回の人事を見るポイントは、たぶんそこにある。
