正直、最初に数字を見たときは速報の誤植を疑った。
売上高146億ドル、前年同期比+161%。純利益は44億ドルの黒字。8月の前回決算では「赤字850億円、AIが重荷」と報じられていた会社が、たった一四半期でここまで化けるのかと、モニターの前でしばらく固まってしまった。
スペースX(ティッカー:SPCX)。今年6月に史上最大級のIPOでナスダックに上場した、ロケットと衛星通信「スターリンク」、そして今はAIまで抱え込んだイーロン・マスクの会社だ。上場後2回目となる2026年7〜9月期の決算が、日本時間の今朝(10月21日)に出た。時間外の株価は一時6%以上跳ねている。
数字だけ並べれば文句なしのお祭りなんだけど、資料を読み込むほど、喜びと気持ち悪さがほぼ同じ量で湧いてくる決算でもあって、今夜はその両方をなるべく削らずに書いておきたい。
2026年10月20日(米国時間)発表の決算リリース(損益計算書・部門別売上)と決算説明会の書き起こしをもとにしています。円換算は1ドル=155円の概算。正式な四半期報告書(10-Q)の提出で細部が変わる可能性はあります(最新情報要確認)。
① 総合判定:好決算(ただし「中身は要精査」付き)
ここは迷わなかった。売上、利益、市場予想との比較、どこを切っても「普通」に置く理由が見つからない。アナリスト予想は1株利益(EPS)で0.10〜0.13ドル程度、売上で126〜129億ドルあたりだったのに対して、実績は0.35ドルと146億ドル。利益に至っては予想の3倍近い。
ただ、黒字の「中身」には引っかかる点がいくつかあって、そこは③④で正直に書く。好決算ではあるけど手放しで「買い」とは言いたくない、そういう種類の好決算だ。
| 項目 | 今期(7〜9月) | 前年同期 | 前四半期(4〜6月) |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 146億ドル 前年同期比+161% | 56億ドル | 78億ドル |
| 営業利益(本業の儲け) | 28億ドル | ▲2.7億ドル | ▲1.4億ドル |
| 純利益(最終的な儲け) | 44億ドル 約6,800億円 | ▲11億ドル | ▲5.4億ドル |
| 調整後EBITDA | 88億ドル 前年同期比+306% | 22億ドル | 35億ドル |
| 1株利益(EPS) | 0.35ドル 予想0.10〜0.13ドル | ▲0.36ドル | ▲0.09ドル |
前年同期比:去年の同じ3か月(2025年7〜9月)と比べた増減。季節の影響を消せるので、成長の実力を見るときの基本。
EPS(1株利益):純利益を発行済み株数で割ったもの。株1株あたりいくら稼いだか。
調整後EBITDA(イービットディーエー):本業のざっくりした稼ぐ力。設備の減価償却などを足し戻すので、設備投資が重い会社ほど実際の利益より大きく見えやすい。ここは後で効いてくる。
② 判定の理由:重要な3つのポイント
ポイント1:売上が1年で2.6倍、しかも予想を約15%上回った
前年同期の56億ドルから146億ドルへ。1年で2.6倍という伸び方は、時価総額が兆ドル単位の会社ではちょっと聞いたことがない。ブルームバーグ集計の予想127億ドルに対する上振れ幅はざっと15%で、前四半期(4〜6月期)の78億ドルから見ても3か月で1.9倍近くになっている。
中身を部門ごとに分けるとこうなる。
- AI部門(SI=スーパーインテリジェンス):76億ドル(前四半期は26億ドル)
- 通信部門(スターリンク):52億ドル(前年同期比+69%)
- 宇宙部門(ロケット打ち上げなど):17.7億ドル(前年同期比+6%、前四半期比+84%)
気づいた人もいると思うけど、売上の半分以上がもうAIなんだよね。ここは④と考察でもう一回触れる。
ポイント2:赤字から44億ドルの黒字へ。上場後初の最終黒字
前年同期は11億ドルの赤字、前四半期でも5.4億ドルの赤字だった会社が、44億ドル(約6,800億円)の黒字を出してきた。本業の儲けを示す営業利益もマイナス1.4億ドルからプラス28億ドルに戻り、調整後EBITDAは前年同期比+306%と、売上の伸び(+161%)をさらに上回っている。売上が増えるほど利益が加速して増える、いわゆる「規模のメリット」が効き始めたサインと読んでいいと思う。
数字を追いかけていて、少し引っかかったことがある。営業利益28億ドルに対して、純利益は44億ドル。普通なら営業利益から利息や税金を差し引いて純利益になるはずなのに、今回は逆に16億ドルも増えている。
決算資料の損益計算書を開くと、理由ははっきり書いてあった。
| 営業利益(本業の儲け) | 27.91億ドル |
| 支払利息 | ▲6.75億ドル |
| 受取利息 | +8.73億ドル |
| その他の損益 | +10.25億ドル |
| 税引前利益 | 40.14億ドル |
| 法人税(今期は税金が戻ってくる側) | +3.90億ドル |
| 純利益 | 44.04億ドル |
受取利息、その他の損益、税効果の3つで合計23億ドル近く。支払利息を差し引いても、本業以外の要因が純利益を大きく押し上げたことは確定している。「その他の損益」10億ドルの中身までは、この損益計算書だけでは特定できなかった。44億ドルの黒字は事実だけど、それがそのまま本業の稼ぐ力というわけではなくて、「初の黒字」という見出しで判断するなら、営業利益の28億ドルを基準にしておく方が安全だと思う。
もう一つ、見落としやすい数字がある。1〜9月の累計で見ると、売上270.8億ドルに対して純損益は▲4.13億ドル、まだ赤字なのだ(株主に帰属する分では▲10.8億ドル)。四半期で44億ドルも稼いでおいて累計では赤字という事実が、巨額投資で伸びる成長と、利益の安定性はまったく別の話だということをよく表している。
ポイント3:稼ぎ頭が「スターリンク」と「AI」の2本柱になった
前回までは、利益を出していたのは実質スターリンクだけだった。今回はAI部門が営業利益4.3億ドルの黒字に転換している(前四半期は13億ドルの赤字)。この数字にはAIコーディングツール「Cursor」買収に伴う株式報酬12億ドルが費用として乗っていて、それを除けば16億ドルの黒字だというのが会社の説明だ。
スターリンクも崩れていない。消費者向け契約数は1,360万件で、3か月で160万件増えた。1契約あたりの月額収入(ARPU)は69ドルで前四半期比+5%。海外展開や安いプランの導入で単価が下がり続けるんじゃないか、という前回の不安をいったん押し返した格好になっていて、法人・政府向けの売上も前年同期比+91%と強い。
ARPU(アープ):1契約あたりの平均売上。契約数×ARPUがおおよその売上になる。
株式報酬:社員に現金ではなく株で払う報酬。お金は出ていかないが、会計上は費用になり、株数が増えるぶん既存株主の取り分は薄まる。
ここで一度、手を止めてほしい
「好決算だから買う」が一番危ない、という話を以前書いた。今回のスペースXは、正直その教材みたいな決算だと思っている。
③ 今後の見通し:会社予想は「強気」。いや、もはや挑発に近い
前提として、スペースXは日本企業のような「通期の売上・利益予想」を出していない(通期予想は該当情報なし)。代わりに会社が示したのは次のあたりだ。
- 年末時点のARR(年換算売上)1,000億ドル目標は「予定どおり」
- 2027年1〜3月期の売上見通し:330〜370億ドル
- 10〜12月期の設備投資:350〜400億ドル
- 10〜12月期の粗利率は、一時的な押し上げ要因がなくなり4〜6月期並みに戻る
通期予想がないので、ARR目標と今の売上規模を比べてみた。7〜9月期の売上146億ドルを単純に年換算すると約583億ドルで、年末ARR目標1,000億ドルの約58%に相当する。ただしARRは「ある月の売上×12」で測る指標なので、四半期平均を年換算したこの数字は正式な進捗率ではなく、あくまで参考比較だ(9月単月の売上はもう少し高いはず)。
目標達成には12月の単月売上が約83億ドル必要で、7〜9月の月平均の1.7倍。普通なら「無理でしょ」で終わる数字なんだけど、来年1〜3月期の見通し330〜370億ドル(中央値なら月約117億ドル)と並べると、会社の中では12月の83億ドルはもう通過点扱いなんだろうな、という気がしてくる。ちなみに1〜9月の累計売上は270.8億ドルで、すでに2025年通年(187億ドル)の1.45倍に達している。
判定は迷わず「強気」。マスク氏は決算説明会で、2027年末のARRは「1,000億ドルから1兆ドルの間」とまで言った。予想レンジの上と下が10倍違う。その直後にCFOが「心臓発作を起こさせたくない」と苦笑いしていたのが、個人的にはこの日いちばんリアルな瞬間だった。
強気の予想は、達成すれば株価の燃料になり、外せば下げの燃料になる。どっちに転んでも値動きは荒くなるはずで、そこだけは覚悟しておきたい。
④ 注目ポイント
一番のポジティブ:AIの「計算力の貸し出し」が化けた
AI部門の売上75.6億ドルのうち70.2億ドルが「SIソリューション&インフラ」、要はデータセンターの計算能力をよその会社に貸すクラウドサービスだ。前年同期はわずか3.59億ドルだったから、1年で約19.6倍。AI部門全体でも8.13億ドルから約9.3倍で、計算インフラ単独の伸びはそれをさらに大きく上回る。Cursor分の6億ドルを除いても前四半期比+192%だから、買収で膨らませただけの数字でもない。ここは素直にすごい。
CFOによると、新しく稼働させた計算設備は今の価格なら1年以内に投資を回収できていて、レンタル価格も前回示した「1ワットあたり30〜50ドル」の上限をやや上回っているらしい。受注残(バックログ)は630億ドルあり、うち約420億ドルが今後1年以内に売上になる見込み。これが本当なら、来年の売上の土台はかなり固まっている。
一番のネガティブ:稼いだ以上に使っている
7〜9月期の設備投資は196億ドル(約3兆円)で、売上146億ドルより大きい。そして会社は10〜12月期にこれを350〜400億ドル(約5.4〜6.2兆円)まで増やすと言っている。1年前の4〜6月期は28億ドルだったから、1年半で四半期あたり最大14倍に膨らむ計算だ。
6月までの1年間でみると、営業キャッシュフロー約99億ドルに対して設備投資は約424億ドル。手元に残るお金(フリーキャッシュフロー)はおよそマイナス325億ドルになる。IPOで集めた約857億ドルと社債250億ドルがあるので今すぐ資金が尽きる話ではないにしても、この燃やし方は普通じゃない。
細かいけど見逃せない点がもう2つある。スターリンクの粗利率55%には関税還付による約3ポイントの一時的な押し上げが入っていること。それから、Cursor買収額600億ドルのうち230億ドル分が、今後3年ほどかけて株式報酬として費用計上されていくこと。今期の「44億ドルの黒字」が来期もそのまま続く保証はどこにもなくて、正直ここは不気味だ。
会社は今、何にお金を使っているのか
| 投資先 | 中身 | 将来の稼ぎへの効き方 |
|---|---|---|
| AI計算インフラ | 7〜9月期の設備投資196億ドルのうち164億ドル。メンフィスの巨大データセンター「Colossus II」など。最新GPUを月22万台ペースで稼働中と説明 | 回収1年以内が続けば最速で現金を生む。貸出価格の下落とGPUの陳腐化が最大のリスク |
| スターシップ(研究開発) | エンジン「ラプター」の量産、組立棟、ルイジアナの新発射場など。宇宙部門は研究開発費が重く、4〜6月期は部門赤字 | 完全再使用に成功すれば打ち上げコストが激減し、衛星を安く大量に上げられる |
| スターリンク次世代衛星 | 高性能なV3衛星、スマホ直結の「Mobile V2」衛星、800MHz帯の周波数取得(2027年前半に完了予定) | 通信容量が増えれば契約数と法人売上が伸びる。米国での携帯キャリア型サービスは2028年初めの開始目標 |
| 半導体工場「Terafab」 | テスラと共同で進めるチップ工場。量産の目標は2028年7〜9月頃 | 実現すればGPU調達コストを下げられる。ただし時期はマスク氏自身が「非常に攻めた目標」と認めている |
初心者の人に一つだけ覚えておいてほしいのが「減価償却」という考え方だ。データセンターの設備は買った年に全額が費用になるわけではなく、何年かに分けて少しずつ費用として計上される。今の巨額投資は、来年以降の利益をじわじわ削っていく「後払いの費用」でもあるということ。調整後EBITDAが88億ドルと派手に見えるのは、この償却費を足し戻しているからでもある。
逆に言えば、回収期間1年未満という今の状況が続くなら、償却費を差し引いてもお釣りがくる。マスク氏は「計算能力の価値はワットあたりで上がり続ける、古いH100ですら新品時より高く貸せている」と話していて、会社の命運をまるごとそこに賭けている格好だ。この賭けが当たれば、スペースXは「設備投資を増やすほど利益が出やすくなる会社」になるし、外れれば巨大な遊休データセンターを抱えた会社になる。その中間はあまり想像できないのが、怖いところでもあり面白いところでもある。
設備投資:工場・データセンター・衛星など、長く使う設備に払うお金。将来の売上のための「前払い」。
減価償却:設備の購入費を、使える年数に分けて少しずつ費用にする会計ルール。
フリーキャッシュフロー:本業で入ってきた現金から設備投資を引いた、会社が自由に使えるお金。マイナスが続くと借金や増資に頼ることになる。
バックログ(受注残):契約済みだけどまだ売上になっていない金額。将来の売上の「予約票」。
なおの独自考察:飛びつく前に考えたいこと
ここからは完全に私見になる。
まず、この会社を「宇宙株」だと思って買っている人は、一度立ち止まった方がいい。売上の52%はすでにAI部門で、その大半はデータセンターの計算能力の貸し出しだ。ロケットのロマンにお金を払っているつもりで、実際に買っているのはマスク版の巨大データセンター不動産業なのかもしれない。それが悪いとは思わないけど、自分が何を買っているのかくらいは知っておくべきだと思う。
決算翌日の「熱狂買い」が誰の出口になるか
時間外で6%上がった翌日、SNSはたぶん「スペースX最強」で埋まる。こういう日に成行で飛びつく買いは、ロックアップ(上場前からの株主に課された売却制限)が段階的に外れていく初期投資家や内部関係者にとって、最高の出口になりうる。決算の数字が本物でも、買うタイミングが悪ければ普通に負ける。冷たい話だけど、相場はそういう場所だ。
次の材料として見ておきたいのは、11月予定のスターシップ「Flight 15」(ブースターと機体の両方をタワーで回収する初の試み)、12月の単月売上(ARR目標の答え合わせ)、テスラとの合併協議(両社の独立委員会が検討中で、マスク氏自身「確定ではない」と発言)、そして次回決算での10〜12月期設備投資の着地。どれも株価を大きく動かしうる。
自分ならどうするか。少なくとも決算翌日の熱狂には乗らない。Flight 15の結果と、決算後1〜2週間で需給がどう落ち着くかを見て、買うとしても数回に分けて少額で、というのが限界だと思う。上場来高値225ドルから一時104ドル台まで、半値近く落ちたことのある銘柄だ(52週の高値・安値)。好決算でも、その振れ幅の中にいることは何も変わっていない。
まとめ
- 総合判定:好決算。売上146億ドル(前年同期比+161%)、上場後初の黒字44億ドル、市場予想も大幅に上回った
- 理由:売上2.6倍/赤字から黒字転換(営業利益28億ドル。純利益は営業外損益と税効果で上乗せ、1〜9月累計はまだ▲4.13億ドル)/AIが黒字化しスターリンクと2本柱に
- 見通し:強気。年末ARR1,000億ドル目標(7〜9月期の単純年換算で約58%相当・参考値)、来年1〜3月期売上330〜370億ドル
- 注目点:プラスはAI計算インフラ売上が前年同期の約19.6倍、マイナスは売上を上回る設備投資と本業以外で膨らんだ利益
ここまで書いて思うのは、これは「良い会社か悪い会社か」で語る決算じゃないな、ということだ。とんでもない勢いで稼ぎ始めた会社が、それ以上のスピードでお金を燃やしている。その差が埋まるのが先か、資金の流れが詰まるのが先か。次の決算までの3か月、目を離せそうにない。
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資の最終判断はご自身でお願いします。
出典
- SpaceX Reports Third Quarter 2026 Results(決算リリース)
- SpaceX Q3 2026 Earnings Call Transcript(Benzinga)
- SpaceX Posts $4.4 Billion Profit as Q3 Revenue Jumps 161%(TeslaNorth)
- SpaceX earnings Live(Yahoo Finance)
- Earnings call transcript: SpaceX tops Q3 2026 estimates(Investing.com)
- SpaceX Q3 2026 Earnings Results(MarketBeat)
- SpaceX Reports Second Quarter 2026 Results(SEC Form 8-K)
- スペースX、赤字850億円 上場後初決算、AIが重荷(共同通信)
- スペースX初決算、設備投資180億ドル超に拡大(ロイター/ニューズウィーク日本版)
- SpaceX Cash Flow Statement(StockAnalysis)
── 読んで「なるほど」で終わるな ──
相場の“仕組み”を知った者だけが、搾取される側から抜け出せる
