インバース型ETFの減価とは、指数が上げ下げを繰り返すだけで、指数が元の水準に戻っても、ETFの基準価額は元に戻らず目減りする現象のことです。原因は「日々の値動きに対して逆の倍率で連動する」という設計にあります。この記事では、具体的な計算例と、減価の大きさを見積もる式、使いどころと注意点を整理します。
この記事の結論
- インバース型・レバレッジ型は、原指数の「日々の変動率」に倍率を掛ける設計。2営業日以上の期間では倍率どおりにならない
- 指数が横ばい〜ジグザグだと、値動きの大きさ(ボラティリティ)に応じて基準価額が削られる
- 一方的な下落が続く局面では、倍率以上に増えることもある(減価は「必ず損」ではなく「経路に依存する」)
- 長期のヘッジ目的で持つ場合は、減価を前提に期間と数量を決める必要がある
減価が起きる仕組み:「日々リセット」される
インバース型(ベア型)は、原指数の日々の変動率にマイナスの倍率(−1倍、−2倍など)を掛けた値動きを目指して運用されます(NEXT FUNDSの解説)。同じ設計のレバレッジ型も含め、倍率が保証されるのは1日単位で、2営業日以上の累積では倍率関係は成り立ちません。
日々の騰落を掛け合わせた累積は、指数とインバースで次のように違ってきます。
累積の計算式
指数の累積 = (1+r₁) × (1+r₂) × …
−1倍の累積 = (1−r₁) × (1−r₂) × …
−2倍の累積 = (1−2r₁) × (1−2r₂) × … (r は指数の日次騰落率)
計算例①:指数が元の水準に戻っても、インバースは減る
指数が3日間で「−5%、+10%、−4.3%」と動き、ほぼ100に戻るケースです(基準を100として計算)。
| 商品 | 計算 | 3日後 |
|---|---|---|
| 原指数 | 0.95 × 1.10 × 0.957 | 約100.0 |
| −1倍 | 1.05 × 0.90 × 1.043 | 約98.6 |
| −2倍(ダブルインバース) | 1.10 × 0.80 × 1.086 | 約95.6 |
指数は「行って来い」で損益ゼロなのに、−1倍で約1.4%、−2倍で約4.4%の目減りです。手数料や信託報酬を一切考えない、日々の複利の効果だけの数字です。
計算例②:一方向に動くと、逆に倍率以上になる
減価は常に損になるわけではありません。指数が2日連続で−10%下がるケースです。
| 商品 | 計算 | 2日後 |
|---|---|---|
| 原指数 | 0.90 × 0.90 | 81.0(−19%) |
| −1倍 | 1.10 × 1.10 | 121.0(+21%) |
| −2倍 | 1.20 × 1.20 | 144.0(+44%) |
指数の下落(−19%)に対して、−2倍は「−38%の逆」ではなく+44%です。一方向のトレンドでは複利が味方になり、ジグザグでは敵になる。これが「経路依存」の意味です。
注意:「下がれば儲かる」の落とし穴
相場が下がると予想して正しくても、下がり方がジグザグだと、インバースの成績は指数の下落率の逆にならないことがあります。方向が当たっても、経路次第で想定した損益にならない点が、レバレッジ・インバース商品の本質的なリスクです。
減価の大きさを見積もる式(目安)
指数の変動が一定のボラティリティ σ(年率)で動くと仮定すると、日次リバランスのインバースは、指数の逆数にほぼ次の係数が掛かります。
減価の目安(連続時間の近似、手数料・金利・先物コストは含まない)
−1倍: e^(−σ²t) / −2倍: e^(−3σ²t) (t は年数)
つまり、−1倍は「指数の騰落倍率の逆数」、−2倍は「指数の騰落倍率の−2乗」に、日々の複利効果としてσ²に比例する目減り係数が掛かる形になります。1年間(t=1)で試算すると次のとおりです。
| 年率ボラティリティ σ | −1倍の目減り | −2倍の目減り |
|---|---|---|
| 10% | 約−1.0% | 約−3.0% |
| 20% | 約−3.9% | 約−11.3% |
| 30% | 約−8.6% | 約−23.7% |
| 40% | 約−14.8% | 約−38.1% |
※ 前提:ボラティリティが一定、日次で連続的にリバランス、指数のドリフト(平均的な上昇率)は別途考慮。実際の基準価額は、先物のロールコスト、信託報酬、金利要因などが加わるため、この数値と一致しません。
ここでの要点は、減価は時間ではなく「値動きの激しさ」に比例することです。相場が静かな時期の1か月と、乱高下する時期の1か月では、同じ保有期間でも削られ方が大きく違います。
減価だけではない:乖離を生むその他の要因
NEXT FUNDSの解説では、日々の複利効果のほかに、次のような要因も指数との乖離につながると説明されています。
- 運用の対象が現物指数ではなく先物であることによる、評価価格の差
- 先物の約定価格と当日の評価価格の差
- 先物の実質的な建玉の額が、純資産総額の想定倍率と必ずしも一致しないこと
つまり、減価(複利効果)に加えて、商品ごとの運用コストがあります。実際に買う商品の目論見書で、連動対象と運用方法を確認してください。
よくある失敗パターン
- 「景気が悪くなりそう」で数か月〜年単位で持つ:下落が来る前の横ばい・上昇期間で、複利効果と運用コストが積み上がる
- 指数の下落率に倍率を掛けて損益を想像する:2営業日以上では倍率どおりにならない
- ダブルインバースで長期ヘッジをする:目減りが−1倍の約3倍の速さで進む(上の式のとおり)
- 下落局面で利益を確定せず持ち続ける:その後の反発で、利益を戻す
「欠陥商品」ではなく「期間指定の道具」
インバースは、売られ方や使われ方で誤解されることが多い商品です。商品自体に欠陥があるわけではなく、「日次で倍率が決まる」という設計と、投資家が期待する「期間全体で逆の損益」の間にずれがあるのが問題です。この設計を理解せずに、長期の保険のつもりで持つと、保険料(減価と運用コスト)を払い続ける形になります。
使うときの5つのチェック
- 保有期間を先に決める:数日〜数週間の短期のヘッジ・戦術的な使い方に限定する
- 現在のボラティリティを確認する:荒れた相場ほど減価が大きい(上の表)
- 倍率を下げる:長めに持つなら、−2倍より−1倍
- 数量を「許容損失」から逆算する:想定と逆に動いた場合の損失を、先に決めておく
- 目論見書を読む:連動対象、運用方法(先物か)、信託報酬を確認する
なお@HAVE MARCYの視点
「下がれば儲かる」という売り文句だけを信じて、期間という変数を無視した人が損をする商品です。ヘッジとして使うなら、保険料(減価)をいくら払うかを自分で計算してから買う。それができるなら、インバースは使い道のある道具です。
出典(2026年10月24日確認)
- NEXT FUNDS「レバレッジ型・インバース型ETFとは」(日次連動の設計、2営業日以上での倍率関係、乖離要因)
計算例・見積式は筆者による試算です(前提は本文中に記載)。本記事は一般的な情報提供であり、特定の商品の売買を推奨するものではありません。私は投資助言業者ではありません。
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