決算が出る前、正直ちょっと身構えていた。10月の頭からディスコの株価がズルズル下げていて、6日から16日までのわずかな期間で2割近く削られていたから(要出典確認)、誰かが何か知ってるんじゃないかと勘ぐりたくなる下げ方だったわけで。
で、2026年10月22日の夕方に短信を開いて、売上の行を見て、営業利益の行を見て、二度見した。中間期の営業利益が前年同期比で+47.9%。売上2,500億円を超える会社が、この伸び率を出してくるのは普通じゃない。
ただ、数字を全部並べてみると一か所だけ妙に引っかかる場所があって、それは後半に書く。まずは素直に中身を見ていきたい。
ディスコ(6146)が2026年10月22日に発表した「2027年3月期 第2四半期(中間期)決算短信」「業績予想のお知らせ」「剰余金の配当に関するお知らせ」が元です。株価やアナリスト予想など外部の数字には「要出典確認」をつけています。発表当日に書いているので、最新情報要確認でお願いします。
ディスコをよく知らない人向けにざっくり言うと、半導体のウエハー(チップの元になる薄い円盤)を「切る・削る・磨く」装置と、その刃や砥石を作っている会社だ。この分野では世界的にほぼ独壇場と言われている(要出典確認)。AI向けの高性能チップ、とくにHBM(AI用の超高速メモリ)は薄く削って何層にも積み上げるので、ディスコの出番がやたら多い。
① 総合判定:好決算
ここは迷わなかった。これを「普通」と書いたら、さすがに嘘になる。
② 判定の理由:重要な3つのポイント
| 項目(4〜9月) | 前年中間期 | 今回の中間期 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 出荷額 | ― | 2,845億円 | +37.2% |
| 売上高 | 1,945億円 | 2,571億円 | +32.1% |
| 営業利益 | 789億円 | 1,166億円 | +47.9% |
| 経常利益 | 795億円 | 1,144億円 | +44.0% |
| 純利益 | 559億円 | 804億円 | +43.7% |
| 営業利益率 | 40.5% | 45.4% | +4.8pt |
出典:ディスコ決算短信。億円未満は四捨五入。出荷額は前年中間期の金額が短信に載っていないため伸び率のみ。
ポイント1:伸びが「加速」している
去年の中間期は、売上+8.7%・営業利益+3.8%だった。悪くはないけど、AI銘柄の看板からすると物足りない数字で、当時は「ディスコもそろそろ天井か」なんて声もあったと記憶している。それが今年は+32%、+48%。
もっと気味が悪いのは7〜9月だけを切り出したときで、短信の累計から4〜6月分(第1四半期決算短信の数字)を引いて計算すると、7〜9月単独の売上は約1,428億円で前年同期比+36%、営業利益は約676億円で+52%になる。後半になってむしろギアが上がっているわけで、この規模の会社でこれは、ちょっと説明がつきにくい強さだ。
ポイント2:100円売って45円残る利益率
営業利益率が40.5%から45.4%へ。7〜9月単独だと47%台まで行っている。
営業利益率=売上のうち、本業の儲けとして手元に残る割合。45%なら「100円売って45円が利益」。製造業だと10%で優秀と言われる世界なので、桁がひとつ違う感覚。
GP率(売上総利益率)=売上から製造原価だけを引いた「粗利」の割合。ディスコは今回68.9%→71.5%に上がっている。
人件費や研究開発費などの販管費は前年比+22%と結構増えているのに、それ以上に粗利が厚くなったので吸収できてしまった。会社は理由として、為替の影響と高付加価値製品(AI向けの高い装置)の比率アップを挙げている。円安の追い風がどこまで続くかは別の話だけど、高い装置が売れているという部分は構造的なものだと思う。
ポイント3:自分で出した予想を上回り、配当も上積み
7月の第1四半期決算のときに会社が出していた中間期の経常利益予想は約1,048億円(要出典確認)。実績は1,144億円なので、9%ほど上振れて着地した。
中間配当は186円。7月時点の予想171円から15円の上積みで、前年の129円と比べると+44%になる。ディスコは「半期の純利益の25%を配当する」という業績連動型(配当性向25%)なので、利益が増えればそのまま配当も増えるシンプルな仕組みだ。
「予想超えの好決算!」というニュースを見て翌朝の寄り付きで飛びつく前に、一度これを読んでおいてほしい。好決算の日に何が起きているのか、構造の話を書いた。
③ 今後の見通し:やや強気(ただし置き方は慎重)
まず前提として、ディスコは通期(1年分)の業績予想を出さない会社だ。半導体業界は顧客の投資意欲が短期間で激しく変わるから、という理由で、予想は「1四半期先まで」しか出さない。初心者がよく混乱するところなので、念のため。
今回出てきたのは「4〜12月の9か月累計」の予想で、中身はこう。
| 4〜12月予想 | 会社予想 | 前年同期比 | 中間期の進捗率 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 3,895億円 | +28.2% | 66.0% |
| 営業利益 | 1,747億円 | +38.4% | 66.8% |
| 純利益 | 1,219億円 | +31.6% | 65.9% |
| 出荷額 | 4,342億円 | ― | 65.5% |
予想に対して、今どこまで達成しているかの割合。9か月の予想に対して6か月が終わった時点なので、ちょうど3分の2(66.7%)なら計画どおり。今回はほぼぴったりで、言い換えると「10〜12月は上振れを見込んでいない」置き方になっている。
前年同期比で売上+28%、営業利益+38%の予想を出してくる時点で、弱気とは言えない。10〜12月だけの出荷額は計算上およそ1,496億円で、中間期の四半期平均(約1,423億円)を上回る。推測ですが、四半期ベースの出荷額は過去最高を更新するペースだと思う。
ただ、売上と利益は話が別で、ここが冒頭で言った「引っかかる場所」になる。これは④のネガティブ要素で詳しく書く。
想定為替レートは10〜12月で1ドル151円。4月時点では4〜6月を157円で置いていたので、かなり円高寄りに見積もっている。今の水準より円高側で置いているなら(最新情報要確認)、それ自体が上振れの余地になる。判定としては「やや強気」。数字は強いのに、置き方だけは毎回のように慎重、というのがこの会社の癖だ。
ちなみにアナリスト予想の平均(コンセンサス)は、9月時点で今期通期の経常利益が約2,531億円(要出典確認)。中間期の1,144億円はその45%ほどにあたる。ディスコは下期のほうが数字が大きくなりやすいので、この進捗で慌てる必要はないと思っている。
④ 注目ポイント
一番のポジティブ:「先にもらったお金」が半年で6割増えた
契約負債:500億円 → 796億円(+59.2%)
契約負債=お客さんから代金を先に受け取ったけれど、まだ売上として計上していないお金(前受金)。「負債」という名前で損をしているように見えるけど、実態は予約済みの将来の売上に近い。
個人的にはここが今回いちばん好きな数字だった。貸借対照表(会社の財産目録のようなもの)の地味な一行なのに、需要の強さをかなり正直に映している。
出荷額の伸び(+37.2%)が売上の伸び(+32.1%)を上回っているのも同じ話で、ディスコの装置は客先で「検収」(お客さんが動作を確認してOKを出すこと)が済んでから売上になる。つまり出荷したのに売上になっていない分が、今どんどん溜まっている。営業キャッシュフロー(本業で実際に入ってきた現金)が1,117億円で前年同期の約2.8倍になったのも、この前受金の増加が効いている。
一番のネガティブ:会社自身が10〜12月の「減速」を書いている
4〜12月予想から逆算した10〜12月単独の数字
- 売上:約1,324億円(前年同期比+21%/7〜9月比 −7%)
- 営業利益:約581億円(前年同期比+23%/7〜9月比 −14%)
- 営業利益率:約43.8%(7〜9月の47%台から低下)
前年と比べればまだ+20%台。だから悪い数字ではないんだけど、直前の3か月と並べると、利益が1割以上減る計画になっている。出荷額は増える予想なのに、だ。
いつもの保守的な置き方だろう、と片付けるのは簡単だし、実際この会社は4月時点で4〜6月の経常利益を423億円と予想して、484億円で着地させた前科がある(要出典確認)。円高寄りの為替前提も効いているはずで、たぶん上振れる。たぶん。それでも、出荷が増えるのに利益が減ると会社が書いている理由を、短信の文面だけでは完全には読み切れなくて、正直ここは少し不気味だ。
もうひとつ、在庫(商品・仕掛品・原材料)が半年で約1,413億円から約1,608億円へ、195億円(+13.8%)増えている。推測ですが、検収待ちの装置と、強い受注に備えた部材の積み増しだと思う。需要が続くあいだは問題にならないけれど、もし急に止まったら一番先に痛むのはここになる。
ディスコは今、何にお金を使っているのか
- 設備投資:年間約330億円を計画(2026年度)。中身は広島県呉市の新工場建設や、羽田R&Dセンター(東京都大田区)の建て替えなど
- 呉の新工場は「精密加工ツール」=刃や砥石の工場。建築費は約330億円の見積もりで、2026年2月着工・2028年4月竣工予定と発表されていた(最新情報要確認)
- 研究開発費:年間約360億円の見込み
- ドイツ子会社でも古い建物を壊して新棟を建てる決定をしていて、今回その建物分の減損損失(価値を帳簿上ゼロにする処理)6.4億円を計上
個人的に注目しているのは、新工場が「装置」ではなく「刃」の工場だということ。装置は一度売ったら数年は次がないけど、刃や砥石は消耗品で、お客さんの工場が動いているかぎり減っていくから、また買ってもらえる。装置が世界中に積み上がるほど、刃の需要は勝手に増えていく。チャリンチャリンと入ってくる収益の土台を、今のうちに広げにいっているわけだ。
研究開発のほうは、すでに結果が数字に出ていると思う。ポイント2で見たGP率の上昇は、AI向けの高性能チップを薄く削る、積み上げる、といった難しい工程用の高い装置が売れているからで、技術でしか作れない製品は値引き競争に巻き込まれにくい。研究開発費は利益を削るコストに見えるけど、ディスコの場合は利益率そのものを押し上げる燃料として働いている。
設備投資と研究開発を合わせて年間約690億円。対して中間期の半年だけで営業利益は1,166億円、本業で入った現金は1,117億円。中間期の減価償却費(設備のコストを毎年少しずつ費用にしていく分)は約78億円で、営業利益の1割にも届かない。今の稼ぐ力からすれば、投資の負担はかなり軽い部類に入る。
ただし、呉の工場が動き出すのは2028年。その頃に半導体のサイクルが下を向いていたら、工場の減価償却という固定費だけが残る。2年後の需要なんて正直誰にもわからないし、会社自身が「需要予測が困難」と言って1四半期先しか予想を出さないくらいなので、ここは割り切って見るしかない。
なおの独自考察:この決算で「買い」は早いのか
ずっと引っかかっているのは、決算前の下げ方だ。出荷は過去最高ペース、前受金は積み上がっている、それでも10月前半に2割近く売られた(要出典確認)。推測ですが、市場が見ているのは今期の利益ではなくて、AIデータセンター投資とHBM投資がいつピークを打つかのほうなんだと思う。
そう考えると、毎回保守的な予想を出して毎回上振れる会社の「予想超え」は、ニュースとしてほとんど価値がない。上振れること自体が、もう株価に入っているから。本当に効いてくるのは次の四半期の出荷額予想のほうで、そこが落ち始めたら利益がどれだけ良くても株価は先に崩れる。逆に、出荷額が積み上がっていくかぎり、10〜12月の「減速予想」は単なる置き方の問題で終わる可能性が高い。
| シナリオ | 起きること | 確認するポイント |
|---|---|---|
| 強気 | 10〜12月もいつも通り上振れ、1〜3月の出荷額予想も1,500億円台を維持 | 契約負債がさらに増えるか |
| 基本 | 利益は予想を小幅に上回るが、出荷額は横ばい圏。株価はレンジ | 為替と、メモリ各社の設備投資計画 |
| 弱気 | HBM投資の一服観測で出荷額予想が前四半期割れ。利益が良くても株価は先に下げる | 在庫の増え方、検収の遅れ |
タイミングで言うと、決算翌日の値動きには乗らないつもりでいる。寄り付きで上に飛んでも下に飛んでも、その日の値段を決めているのはアルゴと短期の大口で、こちらが勝てる土俵じゃない。本当の答え合わせは、1〜3月の出荷額予想が出てくる2027年1月下旬の第3四半期決算だと思っていて、それまでに入るなら、何回かに分けて少しずつ、が限界かなと。
この決算に文句をつけるのは、たぶん難しい。前年比+48%の利益、45%の利益率、6割増えた前受金。それでも、会社が自分の手で書いた10〜12月の「−14%」を、もう少しだけ眺めていたい。好決算の夜に一番気になるのが会社自身の予想、というのも変な話なんだけど。
※本記事は情報提供を目的としたもので、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。
- ディスコ IR情報(2027年3月期 第2四半期決算短信/業績予想のお知らせ/剰余金の配当に関するお知らせ 2026年10月22日)
- ディスコ 2027年3月期 第1四半期決算短信(2026年7月23日)
- ディスコ 2026年3月期 第2四半期決算短信(2025年10月29日)
- EE Times Japan:ディスコは6期連続最高益、売上高は初の4000億円突破(2026年4月23日)
- EE Times Japan:ディスコの24年度は増収増益、5期連続で過去最高更新(2025年4月18日)
- ロイター(ビジネス+IT掲載):ディスコ、4―6月期純利益は24%増・出荷額は過去最高を見込む(2026年4月22日)
- 株予報 ディスコ(6146)業績進捗・アナリスト予想
- 日本投資機構:ディスコ株価急落でも出荷は過去最高
