ニデックを巡って、287億円というかなり大きな数字が再びニュースに出てきた。創業者の永守重信氏と元社長の小部博志氏に対し、約287億円をニデックへ支払うよう求める株主代表訴訟である。
ただし、ここは時系列に注意したい。この訴訟が9月10日に新しく始まったわけではない。訴えそのものは7月17日に京都地裁で受理され、8月にはすでに報じられていた。
それがなぜ今また気になるのか。前日の9月9日、今度は全く別の株主28人が、会計不正による株価下落で損害を受けたとしてニデック本体を東京地裁に提訴したからだ。
ニュースだけ追っていると、287億円と6600万円、京都地裁と東京地裁、永守氏ら個人とニデック本体が一気に出てくる。かなり分かりにくい。でも実際には、同じニデックを巡りながら、責任を問う相手も、お金の行き先も、そもそもの原因も違う二つの訴訟だ。
何が起きているのか、時系列で整理する
まず前提として、ニデックを巡る「問題」は一つではない。少なくとも性質の違う二つの問題があり、それぞれ別の形で法廷に持ち込まれている。ここを混同すると、見出しだけ追っても何の287億円なのか分からなくなる。
2つの問題、それぞれの時系列
① 分配可能額を超えた配当・自己株式取得
2022年10月、ニデックは1株35円の中間配当を決議した。また、2022年9月から2023年3月にかけて自己株式も取得していた。その後、会社法などで定められた「分配可能額」を超えていたことが判明。2023年6月の外部調査委員会は、担当役職員の知識・認識不足やチェック体制の不備などを原因として挙げた。一方、当時の調査では取締役らの刑事責任は認められないとの判断だった。
2022年10月、ニデックは1株35円の中間配当を決議した。また、2022年9月から2023年3月にかけて自己株式も取得していた。その後、会社法などで定められた「分配可能額」を超えていたことが判明。2023年6月の外部調査委員会は、担当役職員の知識・認識不足やチェック体制の不備などを原因として挙げた。一方、当時の調査では取締役らの刑事責任は認められないとの判断だった。
② 会計不正・品質不正
2025年9月、不適切な会計処理の疑いが本格的に表面化。2026年4月の第三者委員会最終報告などによれば、認定された不正会計などが純利益に与える累計マイナス影響額は約1,607億円に達した。また品質問題では、2026年5月時点で1,000件を超える不適切行為の疑いが確認され、その後の調査で9月4日までに844件の品質不適切行為が認定されている。
2025年9月、不適切な会計処理の疑いが本格的に表面化。2026年4月の第三者委員会最終報告などによれば、認定された不正会計などが純利益に与える累計マイナス影響額は約1,607億円に達した。また品質問題では、2026年5月時点で1,000件を超える不適切行為の疑いが確認され、その後の調査で9月4日までに844件の品質不適切行為が認定されている。
①を巡る株主代表訴訟では、2022年9月の自己株式取得、2023年2~3月の自己株式取得、2022年12月の中間配当について、分配可能額を超えていたとして責任が追及されている。原告側が求めている金額は合計約287億円。永守氏と小部氏が連帯してニデックに支払うよう求める内容だ。
一方、9月9日に東京地裁へ起こされたのは②の会計不正と株価下落を巡る訴訟だ。株主28人が、損害を受けたとしてニデック自身に総額約6,615万円の賠償を求めている。
287億円と比べれば小さく見える。でも、この訴訟は金額の大小だけで見るものではないと思う。会社内部の責任を追及する話だったものが、今度は「株を持っていた人の損害」という形で外側に広がり始めたからだ。
「株主代表訴訟」と「証券訴訟」は別物だ
ここ、意外とごっちゃにされやすい。どちらも株主がニデックを巡って起こしている訴訟ではあるけれど、向いている矢印がまるで違う。
| 項目 | 株主代表訴訟 京都地裁 |
証券訴訟 9/9・東京地裁 |
|---|---|---|
| 請求の相手 | 永守氏・小部氏 | ニデック本体 |
| お金の行き先 | 会社であるニデック | 原告株主 |
| 対象となる問題 | 分配可能額超過 | 会計不正による株価下落 |
| 株主の立場 | 会社に代わって責任を追及 | 自らの損害について賠償を請求 |
株主代表訴訟で原告側が勝ったとしても、287億円がその株主個人の懐に入るわけではない。支払われるとすればニデックだ。株主が会社に代わり、旧経営陣などの責任を追及する仕組みだからだ。
一方の証券訴訟は違う。会計不正によって株価が下落し、自分たちが損害を受けたというのが原告側の主張で、その損害を会社に直接請求している。
同じ株主なのに、一方では「会社のために会社側へお金を戻せ」と訴え、もう一方では「会社から自分たちへ賠償してくれ」と訴える。このねじれが、今のニデックを象徴しているようにも見える。
なぜここまで拗れたのか
分配可能額の超過と、その後に発覚した会計不正。発生した時期も内容も違うので、同じ原因だったと断定することはできない。
それでも、会社内部のチェック機能が十分だったのかという疑問は残る。
2023年の分配可能額問題では、担当者の知識不足、部署間の連携不足、取締役会での慎重な確認不足などが指摘された。そして2026年の会計不正問題では、第三者委員会や東証が、過度な業績プレッシャーや目標未達を許さない企業風土、けん制機能の不全を問題視している。
「強い会社」と「異論を言いにくい会社」は、外から見ると案外似ている。
数字を達成し続けている間は、それが強いリーダーシップに見える。でも、数字の作り方や意思決定を止める人がいなくなった瞬間、強さだったものがそのまま弱点に反転する。ニデックを見ていて一番引っかかるのは、そこだ。
機関投資家の視点から見ると
こうした局面を「個人が怖くなって売り、機関投資家が安値で拾う」と単純化するのは少し危ない。ガバナンス悪化を理由に機械的に売却する機関もあれば、企業価値に対して売られすぎたと判断して買う投資家もいる。実際、ニデックには物言う株主も入っている。つまり今の株価には、業績だけではなく「この会社は本当に変われるのか」という評価まで乗っている。決算数字だけ見ていればいい局面ではなくなった。
株主が置かれている、かなりねじれた立ち位置
ここが一番書きたかったところだ。
6594を保有していた株主は、一連の問題の中でかなり複雑な立場に置かれている。株価下落によって損失を抱える側でありながら、株主代表訴訟では会社の利益を守る側にもなり得る。
さらに証券訴訟で会社が賠償金を支払えば、その原資は会社の資産だ。つまり株主が会社に損害賠償を求める一方、その支払いによって自分が保有する会社の資産が減るという構図まで出てくる。
もちろん、だから訴えるべきではないという話ではない。損害を受けたと考える株主が法的手段を取るのは当然の権利だ。
それでも、会社内部で起きた問題の後始末を、最後には株主同士が異なる方向から会社を挟むような形で進めなければならない。この絵はかなり重い。
注意しておきたい点
・約287億円はあくまで原告側の「請求額」であり、確定した賠償額ではない
・永守氏、小部氏の法的責任についても裁判で確定したものではない
・約6,615万円についても、株主側が主張する損害額であり、ニデックの賠償責任が確定したわけではない
・ニデックは2025年10月28日にすでに東証の「特別注意銘柄」に指定されている
・永守氏、小部氏の法的責任についても裁判で確定したものではない
・約6,615万円についても、株主側が主張する損害額であり、ニデックの賠償責任が確定したわけではない
・ニデックは2025年10月28日にすでに東証の「特別注意銘柄」に指定されている
次に見ておきたいポイント
・京都地裁の株主代表訴訟がどこまで旧経営陣の責任を認定するのか
・東京地裁の証券訴訟で、会計不正と株価下落の因果関係がどう争われるのか
・役員責任調査委員会の判断と、それを受けてニデック自身が旧経営陣へ請求するのか
・東証による特別注意銘柄の指定解除、あるいは上場維持を巡る判断
・相次ぐ訴訟やガバナンス改革を市場が株価へどこまで織り込むのか
・東京地裁の証券訴訟で、会計不正と株価下落の因果関係がどう争われるのか
・役員責任調査委員会の判断と、それを受けてニデック自身が旧経営陣へ請求するのか
・東証による特別注意銘柄の指定解除、あるいは上場維持を巡る判断
・相次ぐ訴訟やガバナンス改革を市場が株価へどこまで織り込むのか
なおの独自考察
長年相場を見ていると、悪材料が大量に表へ出てきたところが結果的に底だった、という銘柄は確かにある。逆に「もう全部出ただろう」と思ったところから、本丸が出てくる会社もある。
ニデックがどちらなのか。まだ判断するには早いと思っている。
むしろ気になるのは、会計不正、品質不正、東証の特別注意銘柄指定、旧経営陣への責任追及、そして株主から会社への損害賠償請求まで、問題の矢印があちこちに伸び始めたことだ。
287億円という見出しだけなら「巨額訴訟」で終わる。でも、その横で6600万円の証券訴訟が始まったことで、この問題はもう会社内部のガバナンスだけではなく、株主の損害を誰が負担するのかという段階に入ってきた。
逆張りで拾いたくなる気持ちがゼロかと言われれば、正直ゼロではない。ただ、安くなったことと、問題が解決したことは同じではない。
今は株価より、矢印がどこへ向かっているのかを見る場面だと思う。
