ティアフォーは2026年7月22日、東証グロースに上場済み。証券コード593A。そして今、この銘柄がとんでもないことになっている。
7月22日の初値は1,009円だった。8月7日には871円まで売られた。そこから9月4日高値まで、わずか1カ月弱で3,790円。安値からおよそ4.35倍である。そしてその9月4日、高値からストップ安2,870円まで一気に叩き落とされ、9月7日の終値は2,409円、前日比-16.06%。出来高は6,450万株。発行済株式数に匹敵する枚数が、たった1日で動いた計算になる。
正直に言う。「自動運転すごい」だけでこの株に入るのは、かなり危ない。
ティアフォーってどんな会社なのか
中心にあるのは自動運転OSSのAutoware。ただ「自動運転車を作る会社」というより、Autowareを軸にOS・開発環境・AI・車両・運用までを一枚のプラットフォームにしようとしている会社、と見たほうが実態に近い気がする。
| 事業 | 中身 |
|---|---|
| Mobility Service | 自治体・交通事業者向け自動運転導入、車両販売、運用保守 |
| Development Service | 自動車OEM向け開発、ADK、ソフトウェアライセンス |
| Solution Service | Autoware関連ソフト、ハード、コンサル等 |
会社側はソフトウェアライセンスや保守運用をリカーリング収益として拡大させたい考えのようだ。ここが将来の利益率を左右する。今はまだ、その芽が出ているかどうかという段階でしかない。
3Q決算:売上は伸びた。赤字も、正直かなりでかい
8月14日発表、2026年9月期3Q累計。
| 項目 | 2026/9期3Q |
|---|---|
| 売上高 | 51.78億円 |
| 売上総利益 | 20.03億円 |
| 粗利率 | 38.7% |
| 研究開発費 | 59.89億円 |
| 営業損失 | ▲68.26億円 |
| 経常損失 | ▲40.87億円 |
| 純損失 | ▲41.74億円 |
前年同期比で売上高は約30%増、売上総利益は約32%増。研究開発費は約60億円で前年同期とほぼ横ばい。営業損失も前年同期の約72億円から68億円へと縮小している。ここまでは悪くない。むしろ地味に評価していい数字だと思う。
ただ、数字をそのまま並べると、やっぱり異様さが残る。51.8億円売って、営業赤字68.3億円。売上高より営業赤字のほうが大きい。これが今のティアフォーの姿だ。
通期予想もまだ大赤字のまま
| 2026年9月期予想 | 金額 |
|---|---|
| 売上高 | 84.84億円 |
| 営業損失 | ▲112.39億円 |
| 経常損失 | ▲65.93億円 |
| 純損失 | ▲67.36億円 |
売上は前年比32.4%増を見込む一方、営業損失は前期の▲105.06億円からさらに拡大する計画になっている。つまり会社自身が「今期はもっと赤字を掘る」と予告している状態だ。PERで語れる会社では、そもそもない。
9月4日終値2,870円で時価総額は約1,823億円。9月7日終値2,409円でも単純計算で約1,530億円ある。売上予想84.8億円に対して時価総額1,500億円超。PSRでざっくり18倍。しかも黒字ではない。ここは相当な将来価値を先食いしている、というのが率直な感想だ。
赤字の中身、実は普通の赤字ベンチャーと少し違う
研究開発費約60億円に対して、3Q累計の補助金収入は約36.6億円ある。営業外収益の大部分がこの補助金だ。
研究開発を大量に行う → 政府系プロジェクト・補助事業を利用する → その一部を補助金で回収する。この循環が、今のティアフォーの財務構造の骨格になっている。
これは強みでもあり、弱みでもある。外部資金を使って開発を進められる点は素直に強い。ただ、補助金がなければ実質的な研究開発負担はかなり重くなる。ここは自分の中でも評価が割れているところで、正直まだ結論は出ていない。
IPOの資金と、発行されなかった第三者割当
公募株数は1,744万9,600株。公開価格1,085円で、公募部分だけで約176億円を調達した。公開株全体の吸収金額は約267億円。調達資金は研究開発、量産化・事業拡大、組織拡張に充てる計画になっている。
一方、オーバーアロットメントに伴う第三者割当321万2,700株については、SMBC日興証券が申し込みを行わず、発行されなかった。新株が追加されなかった分、希薄化は予定より少なくなった。株主にはプラスだが、当然その分の追加調達資金は入っていない。ここは静かに、でも地味に効いている話だと思う。
材料①:サウジアラビア、これはたぶん一段上の話
9月4日引け後、経産省「グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金」の大型実証に採択されたと発表があった。内容はサウジアラビアでAutowareを使った自動運転バスの実証。申請した補助対象経費は60億円、補助率は予定で2/3。理論上は最大40億円規模の支援になり得る。事業期間は2029年12月末まで。
単なるIRネタとは少し質が違う。国内自治体での実証はもう何度もやっている。今回はAutowareを海外へ本当に展開できるのか、という実験になっている。ここが成功するかどうかで、会社の評価軸そのものが変わる可能性がある。
材料②〜⑤:提携先だけ並べるとかなり強烈
8月20日にはルネサスとの協業を発表している。自動運転はソフトウェアだけで完結しない。AI、SoC、センサー、ECU、車載ソフト、自動運転OS──ここまで一体化して初めて成立する世界なので、半導体メーカー側とつながっていくのは地味に重要な意味を持つ。
8月5日にはAstemoと、E2E型自動運転AIモデルを念頭に置いた次世代開発プラットフォームの共同開発を発表。ティアフォーのCo-MLOpsとAstemoの量産開発・安全規格・車載技術を組み合わせ、2030年代前半の量産車実用化を狙う内容だ。単独で「すごいAIを作りました」ではなく、量産メーカーのサプライチェーンに入ろうとしている。ここは個人的にかなり評価している。
8月14日にはJST「次世代エッジAI半導体研究開発事業」への参画も発表された。レベル4自動運転向けSoCの研究を進め、AIチップ設計やツールチェーンのオープンソース化を目指す内容。「赤字なのに半導体まで手を出すのか」と一瞬身構えたが、これはJSTの委託研究であり、会社側も損益負担が大きく増えるものではないと説明している。
5月にはKDDIとも自動運転サービスの社会実装で協業。ティアフォーの自動運転システムに、KDDIの通信インフラとKDDIスマートモビリティの遠隔監視・運行管理を組み合わせる内容だ。いすゞ、KDDI、Astemo、ルネサス、JST、自治体、政府──こうして並べてみると、社会実装側のネットワークがかなり出来上がってきているのがわかる。いすゞはすでに60億円をティアフォーに出資している。
強気に見ているところ・危険に見ているところ
一番強いのはAutowareという「標準候補」を持っていること。自動運転市場は最終的に、車そのものより「どのソフトウェア基盤に開発者・OEM・自治体・半導体会社が集まるか」で決まってくる。Windows、Android、Linuxに近い発想だ。Autoware自体はオープンソースだが、その上で商用品質のリファレンスデザイン、ADK、ライセンス、保守、車両、導入サービスを提供する。ここに経済圏ができれば、正直かなり面白い。実証地域も2025年9月期通期50地域に対し、2026年3月までの半年ですでに40地域。自動車OEM向け開発プロジェクト顧客数も9件から13件に増えている。
危険なのは、まず黒字化がまったく見えていないこと。売上84.8億円予想に対して営業赤字112.4億円、少々の売上増では埋まらない規模だ。次に、研究開発を公的資金がかなり支えている構造。3Qの補助金収入約36.6億円は売上51.8億円と比べても非常に大きく、この支えがある間に商用収益へ切り替えられるかが本当の勝負になる。そして三つ目が、今から書く株価そのものの話。ここが今、一番怖い。
信用残と空売り、需給が完全に戦場になっている
8月28日時点の信用データ。
| 信用データ | 株数 | 前週比 |
|---|---|---|
| 信用買残 | 351.5万株 | +22.02万株 |
| 信用売残 | 31.56万株 | +27.54万株 |
| 信用倍率 | 11.14倍 | - |
信用買いが増えている。しかもこれは8月28日時点の数字で、その後1,999円→2,399円→2,539円→3,040円→3,570円→3,790円という爆騰をしている。9月第1週の信用残が出た瞬間、この相場の正体がかなり見えるはずだ。
公表ベースの空売り残高も、8月28日約134万株、9月1日約192万株、9月2日約203万株と増えている。発行済株式の約3.2%。つまり今、信用買いも増える、機関の空売りも増える、出来高も爆発する──という、完全な需給戦になっている。データセクション系の銘柄でよく見る形だ、というのが率直な印象。
9月の急騰は「業績評価」ではない
8月末以降の急騰理由として市場で意識されたのは、自動運転関連人気、トヨタの自動運転報道、直近IPO、TOPIX採用思惑、機関投資家流入期待、といったあたり。決算数字そのものは8月14日にすでに公表済みで、そこからテーマと需給だけで株価は3倍以上になっている。
「ティアフォーの利益が急に増えたから3倍になった」わけではない。ここを混同すると、たぶん危ない。
私が一番評価しているところ/逆に一番怖いところ
提携先の並びでも、Autowareでもない。一番評価しているのは、売上+30%なのに研究開発費が増えていないことだ。3Q売上39.84億→51.78億、売上総利益15.22億→20.03億、研究開発費60.99億→59.89億、営業損失▲72.08億→▲68.26億。まだ赤字額は巨大だが、この関係が続けばオペレーティングレバレッジが効き始める。売上が100億、150億、200億となっても研究開発費が60〜70億円程度で抑えられるなら、利益構造はまるで違ってくる。ここが本当のポイントだと思っている。
逆に一番怖いのは、売上が伸びても「実証実験会社」のまま終わることだ。○○市で実証開始、○○県で採択、政府事業採択、共同研究、実証成功──こういうIRはいくらでも出せる。必要なのは最終的に、何台導入されて、1台あたりいくら稼いで、何年間保守料が入るのか。実証50件より「レベル4車両1,000台、年間ライセンス○万円」のほうがはるかに重い数字だ。まだそこには到達していない。
私ならこう評価する
| 項目 | 評価 |
|---|---|
| 技術力 | ★★★★★ |
| テーマ性 | ★★★★★ |
| 官民ネットワーク | ★★★★★ |
| 売上成長 | ★★★★☆ |
| 商用化 | ★★★☆☆ |
| 収益力 | ★☆☆☆☆ |
| 財務余力 | ★★★★☆ |
| バリュエーション | ★☆☆☆☆ |
| 需給安定性 | ★☆☆☆☆ |
| 長期成長余地 | ★★★★★ |
要するに、会社は面白い。株はいま猛烈に難しい。今のティアフォーは「良い会社か悪い会社か」ではなく、将来1000億、2000億円企業になる可能性を、今いくらで買うのかという株になっている。
なお@HAVE MARCYの独自考察
長年相場を見ていると、こういう銘柄には一度は必ず引っかかる。事業は本物っぽい、提携先も豪華、なのに株価だけが先に全部食い尽くしていく。9月7日終値2,409円、時価総額約1,530億円。この数字を正当化するには売上85億円ではまるで足りない。数年後に売上数百億円、そして黒字化するというストーリーを、かなり前倒しで買っていることになる。
それでも、Autoware+政府+OEM+半導体+通信+海外展開までひとつにつながっている国内上場企業は、たぶん他にない。だから資金が集まりやすい。そこがこの銘柄の怖さであり、同時に魅力でもある。
信用買いが積み上がったまま3,790円で捕まった枚数がどれだけあるのか。正直、ここはまだ自分にも読めていない。踏み上げでもう一段あるのか、それとも戻り売りに沈むだけの相場なのか──フライング気味に仕込みたくなる気持ちもある。ただ、会社を買いたいのか、3,790円まで駆け上がった相場を買いたいのか。この二つは分けて考えた方がいい。
今後、私が見る数字
①9月第1週の信用買残 ②機関投資家の空売り増減 ③3,790円高値で捕まった出来高 ④9月本決算の現金残高 ⑤2027年9月期の売上成長率と営業赤字縮小幅 ⑥サウジ案件60億円の売上計上方法。特に信用残は重要で、8月28日の351万株から急騰局面でさらに積み上がっているなら、3,790円はしばらく強烈な戻り売りゾーンになる可能性がある。反対に信用買いが減り、機関空売り200万株超が残ったまま株価が崩れないなら、踏み上げ再開の条件が整ってくる。
今のティアフォーは、決算よりむしろこの需給を読まないとかなり危ない銘柄だと思っている。
