2026年9月29日の朝、アドバンスクリエイト(8798)からかなり重いIRが出た。「東京証券取引所による特別注意銘柄の指定及び上場契約違約金の徴求に関するお知らせ」。9月28日に東証から通知を受け、今日付で特別注意銘柄。違約金は3360万円。
会社のIR自体は1枚で、中身は「理由はJPXのサイトを見てください」とリンクが貼ってあるだけだった。こういうときこそリンク先を最後まで読まないといけない。読み終えて最初に思ったのは、3360万円はこの話の中心ではなかった、ということだ。書かれていたのは経営陣主導の不適切会計と監査証拠の偽造、そして一度訂正したあとも、別の不適切会計を知っていた役職員が黙っていたという事実で、正直、朝から少し気分が悪くなった。
この会社は一度、改善報告書まで出している。それでも全部は出てこなかった。だとすると今回のIRは、違約金を払えば終わる話ではなく、この会社がこれから出してくる数字を市場がどこまで信じられるのか、という問題になってくる。
アドバンスクリエイトが特別注意銘柄になった理由、東証の文面をそのまま読む
東証が認定した不適切会計の中身は、保険市場(連結子会社)が営むメディア事業を中心にした、売上の前倒し計上、実態の伴わない取引、費用の繰延べ、資産の過大計上。対象は2021年9月期から2026年9月期第1四半期までの決算短信等で、東証はこれを「虚偽と認められる開示」と書いている。
ここまでは、残念ながらたまに見る不適切会計の話だ。気になったのはその先に並んでいた「判明した状況」のほうで、訂正の結果、2022年9月期の純資産がプラスからマイナスに転じ、しかも同じ期の営業利益・経常利益は、実際は赤字だったものを黒字と記載していたという。
赤字を黒字と書いていた。この一文の重さは、期ズレや会計処理の解釈の違い、という話とは次元が違う気がする。
そして締めの一文で、東証は「代表取締役社長の過度なプレッシャーによって売上目標の達成を最優先とする企業風土を背景に、当時の経営陣主導のもと不適切な会計処理が行われた」とまとめた。取引所がここまで書くのは、かなり踏み込んだ部類だと思う。
一番怖いのは「一度訂正したのに、全部は出てこなかった」こと
時系列を並べると、この会社の問題がどこにあるのかが見えてくる。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2025年2月28日 | 1回目の過年度訂正(保険代理店事業の代理店手数料に係る売上等/2020年9月期〜2024年9月期3Q) |
| 2025年5月23日 | 東証が改善報告書の提出を要求 |
| 2025年6月20日 | 改善報告書を提出 |
| 2026年1月7日 | 改善状況報告書を提出 |
| 2026年8月4日 | 第三者委員会の調査報告書を開示(メディア事業の不適切会計) |
| 2026年8月13日 | 再発防止策(骨子)を開示 |
| 2026年8月14日 | 2回目の過年度訂正(2021年9月期〜2026年9月期1Q) |
| 2026年9月29日 | 特別注意銘柄に指定、違約金3360万円 |
見てほしいのは真ん中の3行だ。1回目の訂正のあと、会社は改善報告書を出し、半年後には改善状況報告書まで出している。書類の上では「直しました、直っています」と2度言っていたことになる。その裏で、別の事業の不適切会計を知っている役職員がいて、黙っていた。
東証はこれを、「正しい決算を開示する」という上場会社の役職員が持つべき規範意識の重大な欠如、と表現した。改善報告書の改善措置では今回の不備への対応として不十分だとして、別途改善を求めるとも書いている。
株価を見ている側にとって、これが何を意味するか。決算の数字を「どこまで信じていいのか」がわからなくなる、ということだ。業績が改善していても、赤字縮小が見えても、その数字の前提が揺らいでいる。PERもPBRも、数字が信用できなければただの記号になる。
特別注意銘柄とは何か、上場廃止とはどう違うのか
ここは誤解されやすいので整理しておく。特別注意銘柄は即上場廃止ではない。東証の指定理由は「適時開示の規定に違反し、内部管理体制等について改善の必要性が高いと認められるため」(有価証券上場規程第503条第1項第3号)。違約金は、市場に対する株主・投資者の信頼を毀損したことへのペナルティ(同第509条第1項第1号)で、こちらは別枠の話だ。
3360万円を払って終わり、ではない。むしろここからが本番で、「この会社は本当に変われるのか」を東証が見続ける期間に入った、と受け止めたほうがいい。
少し引っかかっている点がある。東証の文面では、実行したのは「当時の」取締役や子会社代表と書かれている一方、プレッシャーの源とされた「創業者である代表取締役社長」には「当時の」が付いていない。今日の会社IRの差出人は、代表取締役社長・濱田佳治氏になっている。
誰の責任かを探したいわけではない。気になっているのは、東証が原因として名指しした企業風土を、現経営陣がどこまで自分たちの問題として引き受けているのか、という一点だ。再発防止策の骨子がそこに正面から触れているかどうかで、この会社の本気度はかなり測れると思う(筆者は骨子の該当部分をまだ読み込めていない)。
事業は少し持ち直している、ただし財務は別の話
この銘柄を単純に切れないのはここだ。9月18日発表の2026年9月期第3四半期累計は、売上高が約48.55億円(前年同期比0.4%増)、営業損失が約2.71億円で、前年同期の営業損失約6.99億円から赤字幅はかなり縮んでいる。累計で見る限り、本業が猛スピードで崩れている数字ではない。
ただ、ここは素直に喜べない。第1四半期が営業黒字だったぶん累計がきれいに見えているだけで、直近の4〜6月期だけを切り出すと、売上営業損益率は前年同期の−5.1%から−19.9%へ悪化したという集計もある(みんかぶ)。「改善が続いている」とまでは、まだ言えない。
ただ、先に書いた通り、その数字自体を市場がどこまで信じるかという問題が残る。訂正を2回経た決算なので、今度こそ正しいと信じたい気持ちはあるけれど、信用というのは一度で戻らない。
財務は、少し経緯の説明がいる。2024年9月期末にいったん債務超過に陥ったあと、会社は第三者割当による普通株式とA種種類株式の発行で約70億円を調達し、2025年9月期に債務超過を解消していた。ここまでは立て直しの話として読めた。
ところが今回の3Q決算で、特別調査費用や減損などの特別損失が重なって累計の最終赤字は約7.69億円に膨らみ、6月末時点で約2.77億円の債務超過に逆戻りした。決算短信には、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在すると書かれ、一部の金融機関と結んでいる債権流動化の契約で財務制限条項に抵触したことも記載されている。
70億円入れて直したはずの純資産が、1年もたたずにまたマイナス。額は約2.77億円で、前回の債務超過とは桁が違う。それでもプライム市場の上場維持基準には純資産がプラスであることが含まれるので、期末に債務超過のままなら、特別注意銘柄とは別のルートでも上場維持の問題を抱えることになりかねない(適用の詳細は要確認)。
もう一つ引っかかるのが会社計画だ。同じ9月18日に通期予想を下方修正し、最終損益は約3.91億円の赤字とした。3Q累計が約7.69億円の赤字なので、計画通りなら第4四半期だけで約3.8億円の最終黒字を出す前提になる(筆者試算)。4〜6月期に採算が悪化したばかりの会社の前提としては、正直かなり楽観的に見える。答え合わせは本決算だ。
信用買残294倍、この形がいちばん嫌だ
9月18日時点の信用買残は79万4700株、売残は2700株、信用倍率は294.33倍。買残は前週から20万4100株増えていた。
同じ9月18日、株価は前日の136円から一時184円まで上がって、終値は174円(前日比+27.94%)。3Q決算が出たのはその日の大引け後で、同じ夜のPTSではもう137円まで売られていた。連休明けの9月24日は前日比−19.54%の140円、25日の終値は134円。債務超過への逆戻りとGCの疑義が出る直前に信用買いがどっと入り、その直後に落ちたことになる。かなりの買いが含み損を抱えていると見るのが自然だろう。
ちなみに、Yahoo!ファイナンス掲示板の直近1週間の投稿感情は、執筆時点で「買いたい」側が約79%だった。下がっている真っ最中にこの数字が出ているのが、いちばん引っかかる。
この形になると、上に戻れば「助かったら売りたい」という戻り売りが待っていて、下に行けば追証や期日を嫌った投げが重なりやすい。今回の指定で信用取引の扱いがどう変わるか(担保掛目や規制の有無)は証券会社ごとに違う可能性があるので、持っている人は自分の口座の条件を今日中に確認しておいたほうがいい。
アドバンスクリエイトの強気材料と危険材料
拾える強気材料
現時点ではこちらが重い危険材料
今後見るべきポイント、次は11月13日の本決算
株価のチャートだけ眺めていると、この銘柄はかなり危ない。追うべきは会社の中で何が起きるか、のほうだと思う。
次の大きなイベントは、会社のIRカレンダーで11月13日予定となっている2026年9月期本決算。ここで見たいのは売上でも営業利益でもなく、純資産がプラスに戻ったかどうか。第4四半期だけで約3.8億円の最終黒字という会社計画の前提が守られたか。それと、監査法人がどういう意見を付けるか。この2つで、会社がどこに立っているかはかなり見えてくるはずだ。
まとめ:安くなった株と、問題が解決した会社は違う
今回のIRを「違約金3360万円」と見てしまうと、たぶん本質を外す。東証が正式に書いたのは、経営陣主導、監査証拠の偽造、そして一度訂正したあとも黙っていた役職員がいたという事実で、そのどれもが数字の信頼性そのものに関わっている。
累計で本業の赤字が縮んでいるのは本当で、そこにこの銘柄の面白さと怖さが同居している。事業改善に賭ければ値幅は出るかもしれない。ただその手前には、内部統制の正常化、再び陥った債務超過とGCの疑義、希薄化を伴いそうな資本政策という、どれか一つでも十分重いハードルが並んでいる。
100円台だから買いやすく見える。その感覚自体は自然なものだけれど、安くなった株を買うことと、問題が解決した会社を買うことはまったく別の行為だ。今日の指定は、その答えがまだ出ていないと東証が公式に宣言したもの、と私は受け止めている。
