9月25日の16時半、エスクリプトエナジー(5721)から出てきたIRを開いて、最初に目が止まったのは50億円という調達額ではなかった。潜在株式8,000万株、希薄化率45.01%。発行済株式が約1億7,772万株の会社で、その数字である。
しかも固定価格ではない。当初行使価額63円、10月19日以降は原則として前週最終取引日の終値×90%に修正され、下限は35円。いわゆるMSワラントだ。
当日の終値は61円、前日比-11.59%。夜間PTSでは52.7円まで売られている。市場がこのIRのどこを読んだのか、値動きがほぼ全部言ってしまっている気がする。
ただ、「45%希薄化だから悪材料」で片付けるのは少し雑だとも思っていて、会社がなぜここまでの希薄化を飲んででも資金を取りに行くのか、その順番で見ていかないとこの銘柄の今の姿は見えてこない。
・なぜ株主割当をやめてMSワラントに戻ったのか
・48億円の使途とBTC依存の構造
・35円ラインと社債条項
・これから追うべき数字
エスクリプトエナジー第11回新株予約権の中身
新株予約権は80万個、1個100株で潜在株式8,000万株。割当先はLong Corridor Alpha Opportunities Master Fund、MAP246 Segregated Portfolio、BEMAP Master Fundの海外ファンド3社である。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 潜在株式数 | 8,000万株(希薄化率45.01%) |
| 当初行使価額 | 63円 |
| 修正ルール | 10月19日以降、前週最終取引日終値×90% |
| 下限行使価額 | 35円 |
| 調達額(全行使時) | 63円なら約50.73億円/35円なら約28.33億円 |
株価60円なら行使価額54円、50円なら45円、40円なら36円。株価が下がるほど行使価額が後ろからついてくる設計で、会社側から見れば「下落局面でも資金が入ってくる」仕組みになる。IRにもコミットメント条項が付いていると書かれていて、行使価額が株価から離れて行使されない事態を避けるための設計だと説明されている。
裏返して既存株主の側に立つと、景色はだいぶ違う。全部行使されれば発行済株式は約2億5,772万株。いま持っている株の持分は、単純計算で約69%まで薄まる(筆者計算)。
なぜMSワラントに戻ったのか──第10回ライツの「0.59%」
伏線は2026年2月の第10回新株予約権にある。こちらは株主割当、既存株主に公平に参加機会を与える形で、行使価額は106円だった。
ところが株価は2月の128円から3月107円、4月96円、5月70円と下がり続け、106円で新株を買う理由が市場から消えてしまった。6月末までの行使率は約0.59%、調達額は約2.73億円。当初想定の最大調達額が約464億円だったことを考えると、ほぼ何も集まらなかったと言っていい。
実際の調達額:約2.73億円(行使率 約0.59%)
それで今回は「株主が固定価格で行使するワラント」から「ファンドが市場価格に合わせて行使するMSワラント」へ戻った。調達の確実性は上がる。そのかわり希薄化のリスクは、黙って既存株主の側に移される。
ちなみに今回の3社は初登場ではなく、2025年の第8回新株予約権でも割当先になっていて、そちらは全行使済み、約43.25億円が集まり大部分が社債償還に回った。第10回は失敗、第8回は完走。会社が同じ型に戻ってきた理由はたぶんここで、だから今回も「行使されないかもしれない」より「かなり行使される」前提で考えておくほうが自然だと思う。
調達した約48億円の使い道──半分以上がビットコイン
| 使途 | 金額 |
|---|---|
| ビットコイン購入 | 24.74億円 |
| 戦略的投資 | 9.00億円 |
| 社債償還 | 7.75億円 |
| 系統用蓄電池事業 | 6.60億円 |
| 合計(手取り予定) | 48.09億円 |
赤字の穴埋めだけの増資、というわけではない。株を刷って資金を集め、BTCと蓄電池と投資事業に振り替える。エスクリプトエナジーはかなりはっきりとDAT(デジタル資産トレジャリー)企業の方向に舵を切っている。
本業はまだ現金を生んでいない、という矛盾
2027年3月期1Qは売上高1億7,999万円(前年同期比13.2%増)に対して営業損失1億6,227万円。BTC評価損3億2,585万円などが乗って、経常損失約5.12億円、純損失約5.13億円になった。会社自身、「継続企業の前提に関する重要事象等」があると書いている。資金が確保されているので重要な不確実性は認められない、という判断ではあるけれど。
資金繰りが今日明日危ない、という話ではない。引っかかるのは、会社自身がこれまでのBTC取得資金を「主として資本市場からの資金調達」で、事業のキャッシュフローではないと説明している点だ。
今の形:資本市場 → 増資 → BTC購入
この二つは同じBTC保有企業でも、中身がまるで違う。前者はBTCが下がっても本業が次の買いを支えるが、後者はBTCが下がった瞬間に株価も下がり、次の調達コストまで上がってしまう。
BTCを買えば企業価値は上がるのか
会社はすでに296.24BTCを保有しているとされ(要出典確認)、そこに最大24.74億円を足す。BTCが大きく上がれば保有資産は膨らむし、DAT企業としてプレミアムがつく可能性だってある。
逆方向も同じ強さで効く。2026年3月期は暗号資産評価損などで経常損失25.24億円、純損失25.29億円。今期1Qも評価損3.25億円。もうこの会社を旧エス・サイエンスのニッケル会社としてPERで眺めても、たいした意味はないと思う。
② 発行済株式数
③ その割り算=1株あたりBTC
BTCが何枚増えたか、ではなく、1株あたりのBTCが増えたかどうか。株数がそれ以上のペースで増えていれば、既存株主の取り分は増えていない。
8,000万株と500万株の貸株──需給の重さ
割当先の保有方針は純投資・短期保有で、取得した株は市場の状況を見ながら適宜売却する、と会社側も確認している。そうなると想定しておくべき流れはこうなる。
MSワラントが嫌われる理由はだいたいここに集約される。加えて、株主のKAY LEO BROTHERS LIMITEDから割当先3社へ500万株を貸し出す契約も予定されていて、行使で取得する株数の範囲内でヘッジ売りができる設計になっているという(要出典確認:一次資料での確認推奨)。500万株が全部売られると決まったわけではもちろんない。ただワラント期間中ずっと、上値に見えない売りが控えている感覚は消えないと思う。
9月18日時点の信用買残は356万3,000株、売残は0株。信用買い約356万株の上に潜在株式8,000万株のオーバーハングが乗っている、という図だ。株価が上がれば戻り売りだけでなく行使も意識されるので、普通の小型株とは上値の構造そのものが違う。
35円という数字は覚えておいたほうがいい
下限行使価額の35円は、ワラントだけの話で終わらない。同時に発行される第6回無担保普通社債(7.75億円、利率0%、2027年9月30日償還)には、株価終値が35円を累積5取引日下回った場合に社債権者が繰上償還を請求できる条項が付いている。
ちなみに6月23日につけた年初来安値は49円。35円はそこからさらに3割近く下だ。遠いと見るか近いと見るかは人それぞれだろうけど、下限と社債条項が同じ数字に揃えてあるのは、正直ちょっと不気味に感じる。
それでも蓄電池事業は少し面白い
6.6億円を入れる系統用蓄電池事業は、長州周南蓄電所と薩摩伊佐蓄電所の2案件が進行中で、取得価額はいずれも約6.37億円。今回はさらに2MW/8MWh規模の新規案件1件程度に約6.6億円を投じる計画になっている。アグリゲーターとの委託契約も締結済みとされるが、まだ稼働前で売上は立っていない。
BTCだけなら決算も株価もBTC相場次第のままだ。ここが動き出して電力市場から継続的な営業CFが入ってくるなら、会社の質そのものが変わるかもしれない。期待と実績は分けて見ておきたいけれど、この会社の材料の中で「本業のキャッシュ」に繋がりうるのは、いまのところここくらいだと思っている。
強気材料と危険材料を並べてみる
・約24.74億円をBTC購入へ。上昇局面では資産価値が大きく膨らむ
・系統用蓄電池へ6.6億円、既存2案件+新規案件
・第8回MSワラントは全行使の実績あり
・調達が進めば社債償還も進む
・DAT+蓄電池というテーマ性の強さ
・現時点で直ちに資金ショートする状況ではない
・行使価額は市場価格の90%に修正
・割当先は純投資・短期保有方針、500万株の貸株契約予定
・信用買残356万株
・営業赤字継続、1Q純損失約5.13億円
・継続企業の前提に関する重要事象等あり
・決算がBTC価格で大きくぶれる
・資金を資本市場にかなり依存
・第9回新株予約権も未行使で残存
・35円割れでワラントと社債条項の両方に影響
・第8回では制限超過行使をめぐり東証の公表措置を受けた経緯
三崎優太氏の辞任は、財務ではなく需給の話
市場が気にしているもう一つが三崎優太氏との関係で、同氏は9月18日にアドバイザー辞任を表明し、その後今回のMSワラントについてもSNSで強く批判していると報じられている(要出典確認)。
発言の中身が正しいかどうかは、正直ここではあまり重要じゃない。効いてくるのは「三崎氏への期待で株を持っていた層がどれくらいいるのか」のほうだ。この銘柄は業績だけで動いてきたわけではなく、テーマとBTCと人と資金調達が株価の中に混ざり合っている。その一本が抜けたときの売りは、決算数字からは読めない。
これから追う数字
自分なら株価そのものより、毎月出てくる第11回新株予約権の行使状況を真っ先に見る。
② BTC保有量と平均取得価格
③ 発行済株式数 → 1株あたりBTCの推移
④ 蓄電所の稼働開始時期
⑤ 営業キャッシュフローの符号
⑥ 株価と35円ラインの距離
まとめ
エスクリプトエナジーはかなり極端な銘柄になってきた。50億円規模を集めてBTCと蓄電池と戦略投資に入れ、うまくいけば旧エス・サイエンスとはまったく別の会社になるかもしれない。その挑戦の元手として、最大45.01%の希薄化を既存株主が引き受ける構造になっている。
「BTCを25億円買うから強い」だけで見るのは危ないし、「MSワラントだからダメ」だけでも片目をつぶっている。問われているのは、8,000万株を新しく出してまで集めた資金で、8,000万株分以上の価値を作れるのかどうか。その答えは言葉ではなく、毎月の行使状況と1株あたりBTCの数字に出てくるはずだ。
・株探「エスクリプトエナジー【5721】株価材料ニュース」(第10回新株予約権の行使期間終了・累計行使状況の開示ほか)
・Yahoo!ファイナンス「エスクリプトエナジー(株)【5721】株価・株式情報(夜間PTS含む)」
・楽天証券「エスクリプトエナジー(5721)第10回新株予約権無償割当を受け取られたお客様へ」
・エスクリプトエナジー「2027年3月期 第1四半期決算短信」(URL要確認)
・BTC保有枚数、貸株契約の詳細、三崎優太氏の発言については要出典確認(最新情報要確認)
