ティアフォー、売上52億円で研究開発費60億円。株価が熱狂する裏で何が起きているのか

投資・マーケット

売上が52億円の会社が、研究開発に60億円を使っている。

ティアフォーの3Q決算(2025年10月〜2026年6月の9か月分)をひと言でまとめると、たぶんこうなる。7月22日に公開価格1,085円でグロース市場に上場して、8月上旬には871円まで沈み、そこからトヨタのレベル2++報道とルネサスとの協業発表をきっかけに2週間ほどで約3倍。9月4日にザラ場3,790円をつけた日にそのままストップ安まで売られて、10月7日の終値は2,135円。10月5日には2,193円まで戻す場面もあったけど、天井からはもう4割以上下にいる。そしてその10月7日の大引け後、JPXが新しいTOPIXの構成銘柄を公表して、ティアフォーは新規追加35銘柄のひとつに名前が載った。上場から3か月も経っていないグロース銘柄が、日本株の代表的な指数に入ることになる。

この値動きに比べると、決算そのものは驚くほど静かだ。だから今夜は、良い決算か悪い決算かを決めるより、もう少し手前の疑問を考えてみたい。なぜこんなに赤字の会社に、これほどのお金が集まるのか。そして今の株価は、いったい何年先の利益を買っているのか。

決算の数字は会社の決算短信(2026年8月14日)と決算説明資料、株価は10月7日終値をもとにしている。証券会社の予想やそこから先の計算は筆者の読みなので、投資判断はご自身で。

まず数字をざっと眺める

項目(百万円) 3Q累計 前年同期比 通期予想 進捗率
売上高 5,178 +30.0% 8,484 61.0%
売上総利益(粗利) 2,003 +31.6% ― ―
研究開発費 5,989 △1.8% ― ―
営業損益 △6,826 ― △11,239 60.7%
補助金収入(営業外収益) 3,661 ― ― ―
経常損益 △4,087 ― △6,593 62.0%
最終損益 △4,174 ― △6,736 62.0%

前年同期比は決算説明資料の数値。前年は四半期決算を作っていないため、短信本体の比較欄は空欄になっている。赤字項目の進捗率は、通期で見込む赤字のうち既に計上した割合。

用語のミニ補足
・営業利益:本業でいくら儲けたか。マイナスなら本業は赤字。
・経常利益:営業利益に、利息や補助金など本業以外の出入りを足し引きしたもの。
・前年同期比:去年の同じ期間と比べた増減。
・進捗率:会社が出した1年分の予想に対して、今どこまで来ているか。
・持分法投資損失:出資先の会社が赤字のとき、出資比率に応じて自社の決算にも乗ってくる損失。

売上52億円、研究開発費60億円という形

研究開発費59.9億円は、9か月の売上51.8億円の約1.16倍にあたる。成熟した製造業でこの比率なら大問題だけど、ティアフォーはそもそもそういう会社ではない。創薬ベンチャーが治験に売上の何倍ものお金を入れるのと同じで、製品が世の中に行き渡る前に技術へ先にお金を張る、研究開発先行型のビジネスだ。

だから見るべきは比率の大きさより、その向きのほうだと思う。売上は前年同期比+30.0%、粗利は+31.6%伸びた。粗利率はだいたい38.7%で、売上だけ膨らんで利益率が削れていく伸び方ではない。そのあいだ研究開発費は△1.8%と、わずかに減らしている。会社の説明資料が一番強調しているのもここで、オープンソースの自動運転ソフト「Autoware」を土台に、外部の成果やNVIDIAなどパートナーの技術を取り込みながら開発規模を維持した、という話になっている。

案件の広がりもそれなりに見える。自治体や交通事業者向けの実証・実装は3Qまでで44地域、7月時点の受注では58地域。自動車メーカーなどの開発プロジェクト顧客は13件。KDDIグループとは2030年までに累計1,000台規模の商用導入を目指すと発表している。数字の裏に動いている案件がある、という感触はある。

補助金36.6億円は「どこに」効いているのか

ここは誤解しやすいので、丁寧に書いておきたい。

本業の赤字、つまり営業損失は68.3億円で、補助金が入ってもこの数字は1円も変わらない。補助金収入36.6億円は「営業外収益」として、営業損益の下で計上される。その結果、経常損失が40.9億円まで圧縮されている、という順番だ。営業赤字が改善したわけではなく、経常段階で穴の一部が埋まっている。ちなみに36.6億円という金額は、営業損失の54%ほどに相当する。

補助金そのものは悪いものではないし、国の自動運転政策と結びついた研究開発に出ているはずで、むしろ「国が本気で後押ししている」証拠として読む人も多いと思う。ただ、補助金は政策次第で増えも減りもするし、会社が自分で稼いだお金ではない。経常損益だけ見て「赤字が縮んできた」と受け取るのは早い、というのは初心者ほど覚えておいたほうがいい。

もうひとつの小さくない赤字
営業外費用に持分法による投資損失9.18億円が乗っている。出資先の赤字を取り込んだもので、どの出資先なのかは短信には書かれていない。本決算で説明があるか見ておきたいところ。

① 総合判定:「普通」

判定は「普通」。好決算と書きたい気持ちも少しあったけど、やめた。

上場したばかりの研究開発先行型の企業として見れば、売上は3割伸び、通期予想は据え置き、研究開発費も暴走していない。計画どおり、という言葉がいちばんしっくりくる。それでも本業の赤字は売上より大きいままで、3Q単独(4〜6月)で切り出すと、累計から中間期を引いて売上は約8.1億円、営業赤字は約27.2億円になる。売上が2Qと4Qに偏る事業だと会社は説明しているので想定内なんだろうけど、この3か月分を見たときはさすがに一瞬手が止まった。

② 判定の理由 3つのポイント

1. 売上+30.0%、粗利+31.6%。伸び率は高く、粗利率も削れていない。ここは素直に評価できる。

2. 研究開発費は59.9億円で前年同期比△1.8%。売上より大きな開発費を、増やさずに抑えた。黒字化への道筋として会社が一番見せたい部分で、実際に数字にも出ている。

3. 営業赤字68.3億円、経常赤字は補助金込みで40.9億円。本業の赤字幅はまだ大きく、経常段階の数字は補助金に支えられている。判定を「好」に上げられなかった理由はほぼこれ。

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③ 今後の見通し:会社予想は「強気」

通期予想は売上84.8億円(前期比+32.4%)、営業損失112.4億円、経常損失65.9億円、最終損失67.4億円。3Q時点で据え置いた。

これを自分は「強気」と読んだ。4Qの3か月だけで売上約33.1億円を立てないと届かない計画だからだ。前期の通期売上64.1億円から、今期の3Q累計と伸び率で逆算した前年3Q累計(約39.8億円)を引くと、前年の4Qはおよそ24億円。今期の4Qはそこから+36%前後の伸びが要る。会社は4Qに計上予定の案件を個別に精査して計画どおりと判断した、と説明しているので、案件自体は見えているんだと思う。とはいえ検収(お客さんの受け入れ確認)が1件でも10月にずれ込めば届かない、そういうタイプの計画なのは確かだ。

もうひとつ引っかかっているのが費用側で、通期の営業損失112.4億円から3Q累計の68.3億円を引くと、4Qだけで約44億円の営業赤字を見込んでいる計算になる。売上が33億円立つ四半期なのに、だ。期末に費用がまとまって出る癖があるのか、予想を保守的に置いているのか。ここは本決算を見ないとわからない。

④ 注目ポイント

一番のポジティブ:粗利+31.6%と研究開発費△1.8%の「開き」
最大のコストを横ばいに抑えたまま、粗利が3割伸びた。この差が何年か続けば、ある時点から赤字が急に縮み始める。売上が増えても費用があまり増えず、利益が加速度的に出てくる状態をオペレーティングレバレッジと呼ぶけど、その入り口にほんの少し足がかかったように見える。
一番のネガティブ:経常段階の数字が補助金に支えられている
補助金36.6億円がなければ、経常赤字は40億円台ではなく70億円台後半になっていた。本業の赤字68.3億円そのものは縮んでいないし、前年同期の補助金額は短信からは比べられない。来期以降も同じ規模で入る保証はどこにもない。

この会社は今、何にお金を使っているのか

貸借対照表を見て少し驚いた。有形固定資産はわずか14百万円、3Q累計の減価償却費は6百万円。工場もラインも持っていない。設備投資らしい設備投資はほぼゼロで、お金の行き先はほとんどが研究開発だ。中身はAIベースの自動運転(カメラなどの入力から運転操作までをひとつのAIで処理するE2E方式)の開発加速と、大規模な走行データを集める基盤づくり。東京都内や全国の複数の道府県で公道検証も進めている。

こういう構造は将来の稼ぎやすさに両面で効いてくる。設備をほとんど持たないぶん、ソフトのライセンス収入や車両運用の継続収入が積み上がれば利益率は一気に上がりうるし、そこは工場を抱える自動車メーカーとは決定的に違う。その反面、研究開発費の中心はエンジニアの人件費で、売上が想定どおり伸びなかったときに削りにくい。身軽さと削りにくさを同時に抱えた構造だと思っている。

手元資金は本当に足りているのか

6月末の現預金は93.9億円。7月21日に上場時の払い込みがあり、引受価額の総額で174.1億円が入った。単純に足せば260億円台になるけど、これは上場費用を引く前の数字で、7〜9月に出ていったお金もまだ反映されていない。

9か月で41.7億円の最終赤字を出しながら、現預金と有価証券を合わせた残高は前期末の89.3億円から6月末の93.9億円へとほぼ横ばいだった。本業が現金を生んだからではなく、前期末に30.5億円あった売掛金等が10.4億円まで回収されたこと、12月に東海旅客鉄道(JR東海)から受けた10億円の第三者割当増資、それに約8.3億円の借入金の増加が重なった結果だ。四半期のキャッシュフロー計算書は作られていないので、本業で正確にいくら出ていったかは短信からは出せない。

目安になるのは前期(2025年9月期)の営業キャッシュフローで、上場時の届出書ベースでマイナス72.8億円。今後も年70億円前後が出ていくと仮定すると、260億円台の資金は3年半ほどで尽きる計算になる。証券会社が黒字化を2028〜2030年ごろと見ていることを重ねると、時間の余裕がたっぷりあるとは言い切れない。追加の資金調達が絶対にない、とは自分には書けなかった。

TOPIX採用という「決算とは別の買い手」

決算の話から少し離れるけど、今のティアフォー株を語るならここは外せない。

TOPIXは今回、算出方法を大きく変えた。これまでは基本的にプライム市場の銘柄だけが対象だったのが、新しいルールではスタンダードやグロースの銘柄も、流動性(年間の売買代金の回転率)と浮動株時価総額(市場で実際に売買されうる株の時価総額)が基準を満たせば採用される。その初回の定期入れ替えが10月7日に公表されて、新規追加は35銘柄、ティアフォー(593A)はその中にグロース銘柄として入った。実施は10月30日。判定の基準日は8月31日だったので、上場直後の8月に売買代金が一気に膨らんだことも、流動性の基準を満たすうえでは追い風だったはずだ。

TOPIX採用で何が起きるのか
TOPIXに連動する投資信託やETF(パッシブ運用)は、指数の中身と同じ比率で株を持つ決まりになっている。そうした資金は100兆円を大きく超える規模とされていて、新しく採用された銘柄は、実施日までに機械的に買われる。会社の業績が良いか悪いかとは関係なく、ルールで生まれる買い需要だ。新NISAでTOPIX連動の投信を積み立てている人も、10月30日以降は知らないうちにティアフォーを少しだけ持つことになる。

これ自体は会社にとって素直に良いニュースだと思う。指数に入れば機関投資家の目に触れる機会が増えるし、売買の厚みも増す。ただ、正直に言うとここは少し身構えてしまう。

指数の入れ替えは、日付も手順も全部公開されている需給イベントだ。実施日の大引けでパッシブ資金がまとめて買うことがわかっているから、それより前に先回りして買い、当日のその買いに向けて売る、という動きは毎回のように出てくる。大和証券が9月2日に出した採用予想の中にティアフォーの名前があったのは、ちょうど株価が3倍に向かって駆け上がっていたその最中だった。上昇の全部がTOPIX思惑だったとは思わないけど、まったく無関係だったとも思いにくい。

ここは覚えておきたい
指数採用の買いは「一度きり」の需要で、会社の稼ぐ力を変えるものではない。採用が決まった銘柄が、実施日に向けて上がり、実施日を境に失速する、というパターンは珍しくない。10月30日の大引けで買うのはパッシブ資金で、その相手として株を渡すのは、先回りして買っていた側だ。発表は10月7日の大引け後なので、終値2,135円にはまだこのニュースは反映されていない。10月8日以降の値動きは、決算ではなく需給で動いていると見たほうがいい。

なおの独自考察 投資家は何年先の利益を買っているのか

ここからは少し本音で書く。

まず、赤字企業にこれだけお金が集まる理由そのものは、わからなくもない。国は2030年までに自動運転サービス車両を1万台導入し、2030年代には日本企業の自動運転車両で世界シェア約25%を目指すと打ち出している。トヨタ、いすゞ、スズキといった完成車メーカーと開発で組み、JR東海が出資し、KDDIやルネサスとも手を結んだ。国内の上場企業で、自動運転ソフトそのものを看板にしている会社はほとんどない。Autowareが業界の土台として広がれば、追加コストのほとんどかからないソフト収入が積み上がる。当たれば大きい、という絵は確かに描ける。

問題は、その絵にいくら払うかだ。10月7日終値2,135円に上場後の発行済株式数約6,352万株を掛けると、時価総額はおよそ1,356億円。通期予想の売上84.8億円で割ると、PSR(時価総額が売上の何倍か)は約16倍になる。

モルガン・スタンレーMUFG証券は、2028年9月期に最終黒字(約8.3億円)、2030年9月期に営業黒字化(最終利益約56.7億円)という見立てを出している。今の時価総額をこの2030年の利益で割ると、PER(株価が利益の何倍か)はおよそ24倍。言い換えると、今の株価は「4年後に予想どおり黒字になった姿」を、すでにそこそこの評価で買っていることになる。同じ証券会社の目標株価は1,350円で、現在値はそれを6割近く上回っている。

今の株価に織り込まれているもの(筆者の整理)
・2030年前後に黒字化し、最終利益50億円規模に届くこと
・その間、補助金と資金調達で開発を止めずに走り切れること
・黒字化した時点でも、成長企業としてPER20倍以上の評価が続くこと
どれか1つが崩れると、今の値段の前提がまとめて揺らぐ。

相場歴30年、テーマ株の天井でいちばん元気なのは、決算短信を一度も開いていない人だという光景を何度も見てきた。9月4日の売買代金は1日で1,100億円を超えた。あの日、高値で買った人に株を渡していたのは、上場前から株を持っていた側や、8月の安値で拾っていた側だったはずだ。上場直後の銘柄なら、上場前からの株主がいつから売れるようになるのか(ロックアップの期間と解除条件)は目論見書に必ず書いてあるので、買う前に一度は目を通してほしい。ここだけは強めに言っておきたい。

次に見るタイミングと3つのシナリオ
見ておきたい日付は2つ。まず10月30日のTOPIX組み入れ実施日で、その前後で需給の買いが一巡したときに株価がどこに落ち着くか。次が2026年9月期の本決算で、9月決算の会社なので例年どおりなら11月中旬ごろの発表になりそうだ。指数の買いが抜けたあとに来る本決算こそ、業績だけで値段がつく最初の場面になる。

強気シナリオ:4Q売上33億円を達成し、来期予想で高い売上成長と研究開発費の横ばい継続が示される。赤字縮小の道筋が数字で見えれば、テーマではなく業績で買われる局面に入る。
中立シナリオ:通期はほぼ計画どおり、来期も大幅赤字の予想。株価は上場来の上げ下げの中間あたりで方向感を失う。正直、いちばんありそうなのはこれだと思っている。
弱気シナリオ:検収ずれで売上未達、あるいは補助金の縮小で経常赤字が膨らむ。手元資金があるので資金繰りの不安はすぐには出ないが、テーマで買った人が一斉に冷める展開はありうる。

自分は、TOPIXの買いが抜けて本決算の来期予想が出るまでは様子見のつもりでいる。

まとめ:市場の将来と、株価の値段は別の話

売上52億円、研究開発費60億円、営業赤字68億円、補助金36.6億円。どれも単体で見ると強烈な数字だけど、研究開発先行型の会社としては、粗利が伸びて開発費が横ばいという悪くない向きを見せた決算だった。判定は「普通」、会社予想は4Qに大きく賭けた「強気」。

自動運転という市場が本物かどうか、自分はたぶん本物だと思っている。ただ、それとティアフォーの株が2,135円で割安かどうかは、まったく別の問いだ。今の値段は4年先の黒字をもう前借りしていて、その上に10月30日のTOPIX組み入れという、業績とは関係のない買いも乗ってくる。指数に入ったことは会社の格が上がった証拠ではあっても、利益が出る証拠ではない。需給の熱が引いたあと、前借りに見合うだけの数字が11月の本決算で出てくるのか、そこを冷めた目で見届けたい。

出典
・ティアフォー 2026年9月期 第3四半期決算短信(2026年8月14日)
・ティアフォー 2026年9月期 第3四半期 決算説明資料
・ログミーFinance:ティアフォー決算説明会の書き起こし
・Yahoo!ファイナンス:ティアフォー(593A)株価
・株予報Pro:ティアフォー(593A)チャート・売買代金
・JPX総研:TOPIX初回定期入替における選定結果(2026年10月7日公表)
・株探:新基準のTOPIX「移行措置銘柄」は683銘柄に
・松井証券(みんかぶ):大和証券の次期TOPIX採用予想(9月2日)
・マネクリ:新しいTOPIXへの移行の解説
・松井証券(株探ニュース):ティアフォー ストップ高の記事
・松井証券(株探ニュース):9月4日ストップ安の記事
・トレーダーズ・ウェブ:モルガン・スタンレーMUFG証券の新規カバレッジ
・IPO株式投資:ティアフォー上場情報(2025年9月期の営業キャッシュフロー)

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