アクセルスペース、受注残533億円でも安心できない。衛星4機の故障で最終赤字36億円へ

投資・マーケット
2026年10月8日 / なお@HAVE MARCY

7月14日、アクセルスペースHDは今期(2027年5月期)の売上を90億円と言った。前期の25億円から3.6倍、40億円あった最終赤字もほぼトントンまで縮める、という絵だった。それから3か月もたたない10月6日の大引け後、その90億円は67億円になり、最終赤字の予想は▲2.4億円から▲36.5億円へ書き換えられた。赤字の見込み額で言えば、約15倍だ。

白状すると、最初に書いた下書きでは「GRUS-3の不具合で減損が出るかもしれない」くらいのトーンで止めていた。その「かもしれない」には、もう答えが出ている。減損損失は18億7,900万円。しかも会社自身が、原因は衛星の放熱設計にある可能性が高いと認めた。なので今回は書き直す。主役は10月6日の下方修正で、7月の通期決算は「あのとき何が前提になっていたのか」を確かめるための資料として読み直す、という順番にした。投資初心者の人にもわかるように用語は噛み砕くつもりだけど、途中で深夜の愚痴が混ざるのは勘弁してほしい。

そもそもアクセルスペースって何の会社?

東大発の宇宙ベンチャーで、2025年8月に東証グロースへ上場した。お客さん専用の小型衛星を作って打ち上げまで面倒を見る「AxelLiner(アクセルライナー)」と、自社の衛星群で地球を撮影して画像やデータを売る「AxelGlobe(アクセルグローブ)」の2本柱。「衛星の受託製造」と「衛星画像の販売」を両方やっている会社、と覚えておけば十分だ。

3か月で何が起きたのか

7月7日 次世代衛星「GRUS-3」7機をSpaceXのロケットで打ち上げ。3日後に基本の健全性確認(クリティカル運用)を正常完了
7月14日 2026年5月期の通期決算。今期予想は売上90億円・最終▲2.4億円
9月29日 GRUS-3のうち4機で、撮影画像を地上に送る高速通信系統が故障。商用運用は困難と発表
9月30日 株価は521円から421円へ、ストップ安
10月6日 通期予想を下方修正、4機分の減損18.79億円を特別損失に。原因の中間報告、外部専門家の検証組織の設置、Pale Blue社との契約をめぐる協議開始も同時に開示
10月15日 第1四半期決算の発表予定

そして肝心の数字がこれ。

2027年5月期 会社予想 7月14日 10月6日 修正後 修正幅 参考:前期実績
売上高 90億円 67億円 ▲23億円(▲25.6%) 25.08億円
営業損益 ▲8億円 ▲23億円 赤字15億円拡大 ▲38.22億円
経常損益 ▲1.5億円 ▲17億円 赤字15.5億円拡大 ▲37.12億円
最終損益 ▲2.4億円 ▲36.5億円 赤字34.1億円拡大 ▲40.57億円
1株あたり損益 ▲3.6円 ▲54.7円 ― 約▲66円

※決算短信・業績予想修正の開示・各種報道より整理。

この表で一番見てほしいのは、売上と営業損益の減り方の比率だ。売上が23億円減って、営業赤字は15億円悪化している。失った売上の3分の2近くが、そのまま本業の利益から消えた計算になる。衛星画像は、衛星さえ動いていれば1枚多く売るための追加コストがほとんどかからない、利益率の高い商品だ。その一番おいしい部分が、宇宙で止まったということだろう。

最終赤字▲36.5億円には減損18.79億円が含まれている。単純に引けば、減損がなかったとしても最終赤字は17億円台(単純計算・推測)。前期の▲40.57億円よりは良く見えるけど、7月に描いていた「ほぼトントン」とはまるで別の景色だ。

用語メモ:減損損失
会社が持っている設備(ここでは衛星)が、思っていたほど稼げなくなったときに、帳簿上の値段を切り下げて、その差を損失として計上すること。お金は衛星を作ったときにもう払い終わっているので、減損で新たに現金が出ていくわけではない。ただ「この設備で将来これだけ稼ぐはずだった」という見込みが消えた、という意味では、現金以上に重いサインになることがある。

① 総合判定:悪決算

総合判定(7月の通期決算+10月6日の修正を一体で評価)
悪決算
決算で示した「来期の前提」が、3か月で4分の1削られた。

7月の数字だけなら、私はたぶん「普通のやや下」と書いていた。売上は伸びていて、赤字は先行投資だと説明がつく。ただ、決算というのは過去の成績表であると同時に、会社が「次はこうなります」と市場に約束する場でもある。その約束が発表から3か月弱で、売上で25.6%、最終損益で34億円分も崩れた。しかも崩れた理由が、景気でも為替でもなく自社の衛星の設計だ。ここを「普通」と書く気には、さすがになれない。

② 判定の理由、3つ

理由1:7月の決算は「売上は伸びたが、赤字も伸びた」

2026年5月期の売上は25.08億円で、前年同期比+58.1%。画像販売のAxelGlobeは2.60億円から9.86億円へ約3.8倍になった。伸びを引っ張ったのは4月に始まった防衛省の「衛星コンステレーションの整備・運営等事業」で、衛星受託側では経済安全保障の研究プログラム「Kプログラム」だけで連結売上の約52%を占めている。政府案件が太い柱なのは安心材料でもあるけど、民間が自分のお金で画像を買いに来る姿は、まだそれほど見えない。

利益のほうは、営業損失▲38.22億円、最終損失▲40.57億円と赤字が拡大した。テスト衛星「GRUS-3α」の打ち上げ費用、高分解能衛星の研究開発費、人件費・採用費。経常損益▲37.12億円は、アナリスト予想の平均(IFISコンセンサス)▲36.57億円をわずかに下回った。ちなみに前期は年間売上の6割強、約15.4億円が最後の3か月(第4四半期)に集中している。四半期ごとの進捗率を見るときは、この「期末ドカン」体質を必ず頭に入れておいてほしい。

理由2:その決算の「前提」が、3か月で4分の1消えた

下方修正の理由として会社が挙げたのは、GRUS-3の不具合による画像提供の遅れと、4機分の減損。これに加えて、小型衛星向けの推進機を開発するPale Blue社から、軌道上実証サービスの契約を解除するという書面の通知を受け取ったことも開示された。会社は同日、Pale Blue社との協議開始を発表している。

Pale Blue社の案件は、宇宙機器を実際の宇宙で試せるサービス「AxelLiner Laboratory」の代表例として、7月の決算説明会で会社自らが紹介していた案件だ。2027年の打ち上げ・実証に向けて衛星を作っている最中だった。解除の理由について詳しくは開示資料で確認してほしいけど、推測ですが、同じ会社の衛星が軌道上で続けてつまずいたタイミングでの通知なので、無関係と言い切るのも難しい気がしている。ここは邪推かもしれないし、協議の結果次第で話が変わる可能性もある。

理由3:原因が「運が悪かった」ではなく、設計寄り

10月6日の状況報告で、会社は原因をかなり具体的に説明している。画像を地上に送る高速通信系統の電力増幅器で放熱が足りず、中のアンプ素子が異常な高温になって壊れた、というのが現時点の推定だ。同じアンプ素子は旧世代のGRUS-1で問題なく動いた実績があるので、GRUS-3で加えた設計変更の放熱設計に課題があった可能性が高い、と会社は書いている。

私が最初の下書きで「部品のロット不良で済むのか、設計そのものなのか」と書いた問いに、会社自身が「設計のほうを疑っている」と答えた形だ。ロット不良なら、その部品を替えれば済む話になる。設計が原因なら、同じ設計で作った衛星すべてに同じリスクがあることになる。そして実際、残りの3機(3A・3C・3D)も同じ設計だ。

「正常な3機」も、実は手足を縛られている

会社は残り3機について、電力増幅器の消費電力を抑え、通信時間を短くして温度が上がらないようにしながらデータを降ろす方針に切り替えた。1機ずつ慎重に運用するため、2026年中としていた商用運用の開始は、2027年2月が目標になった。通信時間を短くするということは、推測ですが、1日に地上へ降ろせる画像の量も当初の想定より減る可能性がある。壊れた4機は高速通信以外は正常なので、すぐに軌道から外すことはせず、低速通信で取れる画像の提供などを検討するとしている。

③ 今後の見通し:強気だった予想は、修正後もまだ強気寄り

7月時点の会社予想は、売上3.6倍、赤字ほぼ解消。これは文句なしに「強気」だった。修正後の67億円でも、前期の25.08億円から見れば約2.7倍だ。防衛省案件が丸1年分乗る分だけで売上の土台はかなり固まるので、2.7倍が絵空事だとは思わない。そこは公平に書いておく。

それでも「まだ強気寄り」と書いたのには理由がある。残り3機の商用運用開始が2月だとすると、決算期末の5月までに稼げるのはせいぜい3〜4か月分しかない。その2月という日程自体、1機ずつ温度を見ながら立ち上げるという前提の上に乗っている。さらに外部の専門家による検証組織「GRUS-3不具合検証アドバイザリーボード」が立ち上がり、委員が決まってから最終報告までおよそ1.5か月かかる見通しだという。社内の原因分析だけでなく、今後の衛星に当てる対策が妥当かどうか、プロジェクトの進め方まで第三者が見る。正直、この検証の結果次第では、追加の試験や設計変更で費用や日程がもう一段ずれる可能性もあると思っている。

注意:「防衛省の契約が消えた」わけではない
GRUS-3は防衛省専用の衛星ではなく、政府・民間の両方に使う方針だと会社は説明している。現時点で、防衛省案件そのものが危うくなったという開示は出ていない。下方修正のニュースだけを見て、ここまで混同して投げ売るのは、それはそれで別の失敗になる。

④ 注目ポイント

一番のポジティブ:受注残533億円(前年同期比+366.3%)は、まだ生きている

5月末の受注残高は533.75億円で、内訳はAxelGlobeが430.74億円、AxelLinerが103.01億円。中心にあるのは、防衛省案件で唯一の光学画像提供者として参画し、5年間で最大436億円(税抜)を売上に計上する予定の契約だ。ここは技術的にも政治的にも、そう簡単に取って代わられる席ではないと思う。

ただし、年間売上25億円で割って「約21年分の売上が確保されている」と読むのは間違い。防衛省分は2031年3月までの事業期間に段階的に売上になるもので、AxelLiner分も開発の進み具合や打ち上げ、検収に応じて計上時期が決まる。受注残は「いつ、どれだけ売上になるか」がセットで初めて意味を持つ数字だ。

一番のネガティブ:設計起因の可能性が高い故障と、それが連れてきた連鎖

減損18.79億円、残り3機の運用延期と出力制限、Pale Blue社からの解除通知。一つひとつも重いけど、もっと気になるのは、これらがすべて「GRUS-3の放熱設計」という一点から枝分かれしているように見えることだ。7月には旧世代のGRUS-1Eも、姿勢制御部品の故障で商用運用を終えている。故障箇所は別物なので同じ欠陥の再発とは言えない。それでも、この短期間で2件というのは、品質管理の説明がこれまで以上に問われる状況だ。

この会社は今、何にお金を使っているのか

前期のキャッシュフローを見ると、本業の営業活動で約51.2億円が出ていき、衛星などへの投資で約21.2億円が出ていった。それをIPOの資金や長期借入による約78.3億円で埋めている。期末の現預金は58.15億円で、前期の50.06億円より増えてはいる。

貸借対照表の固定資産は、前期末の1.26億円から35.83億円へ。打ち上げたGRUS-3が資産として載った結果で、要は「現金が衛星に化けた」状態だった。今回の減損18.79億円は、この5月末の固定資産の半分強にあたる額になる(期中の資産の増減を無視した単純比較・推測)。IPO時に示した資金の使い道でも、2026〜2028年5月期の3年間でGRUS-3と高分解能衛星の設備投資に約56.5億円、研究開発に約20.8億円という配分で、全体の7割以上が衛星そのものだった(要出典確認)。中期では2031年5月期までに衛星30機体制、5年で40機以上を作れる体制、そのための開発拠点の移転まで掲げていて、コンステレーションの構築は続けると10月6日にも明言している。

衛星ビジネスの「稼ぎやすさ」の構造

衛星は作って打ち上げるまでが一番お金がかかり、軌道に乗ってしまえば、画像を1枚多く売るための追加コストはほぼゼロに近い。だから機数が揃って画像が売れ始めると、利益率が一気に跳ねる(固定費型ビジネス)。会社が「30機体制」にこだわるのはこのためだ。裏返すと、衛星が働かなければ減価償却という固定費だけが残り、今回のように減損で一気に帳簿から消えることもある。売上23億円減で営業赤字が15億円も悪化したのは、まさにこの構造の裏面が出た結果だと思う。

今後の衛星では、問題の高速通信系統を改修すると会社は言っている。これは正しい判断だけど、改修には当然お金と時間がかかる。営業キャッシュフローが年▲51億円のペースから大きく改善しないまま、手元58億円で30機体制まで走りきれるのかと聞かれたら、私は首をかしげる。推測ですが、どこかで追加の資金調達、つまり増資による株式の「希薄化」(株数が増えて1株あたりの価値が薄まること)を考える場面が来る可能性は、7月の時点よりも確実に上がった。

地味な救いもある。AxelLinerで宇宙戦略基金の案件にかけた研究開発費は、翌年度に100%補助金として戻ってくる見込みだと会社は説明している。会計上は「今年赤字、来年補助金」とずれて見えるので、AxelLinerの赤字だけを切り取って悲観しすぎないほうがいい。

ここから少しだけ、毒を吐く

ストップ安の翌週、何が起きていたか。信用買い残(お金を借りて買われ、まだ決済されていない株)は、9月25日時点の約718万株から、10月2日時点で約799万株へ、1週間で80万株ほど増えていた(要出典確認)。発行済株式の約12%にあたる。ストップ安で「安くなった」と拾いにいった人が、それだけいたということだ。そしてその4日後に、下方修正と減損が落ちてきた。

宇宙、防衛、国策。この三つが揃った銘柄ほど、個人投資家を呼び込みやすい看板はない。相場歴30年で何度も見てきたけど、「受注残が売上の何十倍」という数字は、それを掲げる会社にとっても、高いところで売り抜けたい側にとっても、本当に便利な数字なんだよね。受注残は将来の売上の約束であって、今日の利益じゃない。約束を果たすための道具が宇宙で熱を持って黙ってしまえば、約束の中身は簡単に書き換わる。今回、それが3か月で起きた。

私はこの会社の夢そのものは嫌いじゃない。中分解能の衛星画像の世界では大手が新規打ち上げを取りやめる動きもあって、やり切れば寡占が見える位置にいるのも事実だと思う。故障の公表から1週間で原因の推定を出し、外部の目を入れる仕組みまで作った対応の速さも、正直悪くない。ただ、夢に乗る値段と、設計のやり直しを織り込んだ値段は違う。その差を測るための材料が、ようやく出始めたところだ。

10月15日(Q1決算予定)以降に見るもの

  • 修正後の売上67億円に対する第1四半期の進捗率(前期は第4四半期に売上が集中したので、Q1の進捗が低く出ても慌てない)
  • 防衛省案件を含むAxelGlobeの売上が、四半期で順調に積み上がっているか
  • 減損以外に、追加の損失や費用が出ていないか
  • 残り3機の2027年2月の商用運用開始に向けた進み具合と、1日あたりの提供能力
  • アドバイザリーボードの委員の顔ぶれと、最終報告の中身(今後の衛星の日程・費用にどう響くか)
  • Pale Blue社との協議の結果
  • 信用買い残が減っていくのか、底値拾いでさらに積み上がるのか

個人的には、Q1の数字そのものより、会社が「設計をどう直し、次の衛星の打ち上げ日程にどう反映するのか」をどこまで具体的に語るかのほうが、次の値動きを決める気がしている。そこが「検討中」のまま年を越すようなら、私は警戒を緩めないと思う。

本記事は2026年10月8日時点の公開情報(決算短信・決算説明資料・適時開示・報道)をもとに書いた個人の考察で、特定銘柄の売買を勧めるものではありません。数値は要出典確認、2024年以降の情報は最新情報要確認です。投資判断はご自身の責任でお願いします。

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