メタプラネット3350|自社株買い0株なのにワラント下限は引き下げる矛盾

投資・マーケット

メタプラネット(3350)から、この1週間で3本のIRが立て続けに出た。

6月1日に自己株式取得状況の報告。6月8日にB種優先株式の配当決議。そして6月9日、第27回新株予約権の下限行使価額修正。

1本1本だけ見れば、定例の開示に見える。でも3本まとめて並べてみると、ある構造がくっきり浮かんでくる。自社株買いは0株。ワラントの下限は引き下げる。優先株には配当する。——普通株を持っているホルダーだけが、どこにも登場しない。

自社株買い750億円枠、取得実績は「0株」

2025年10月28日の取締役会で、メタプラネットは自己株式の取得枠を設定している。取得し得る株式の総数は1億5,000万株(上限)、取得価額の総額750億円(上限)。発行済株式総数の13.13%にあたる大型の枠だった。

取得期間は2025年10月29日から2026年10月28日までの1年間。そして2026年5月31日現在——つまり設定から7ヶ月が経過した時点で、取得した株式の総数は0株。取得価額の総額も0円

750億円の枠を構えて、1株も買っていない。

この間に株価は何が起きていたか。2025年6月には1,900円台をつけていたメタプラネット株は、2026年6月9日時点で243円。1年で84%以上下落した。200日移動平均線の449円を大きく割り込み、25日移動平均の299円すら下回っている。

株価がここまで崩れているのに、自社株買いを1株もしていない。「枠を設定しました」というIRは出す。でも実行はしない。結果だけを見ると、市場にはそのように受け取られても不思議ではない、という構図になっている。

📌 なおの視点

自社株買いの「枠の設定」と「実行」は全く別物だ。枠だけ設定して1株も買わないケースは珍しくない。ただ、メタプラネットの場合、同じ期間にワラントの下限行使価額を引き下げ、優先株には配当を決議している。

つまり会社のリソース配分の優先順位は明確で——普通株の買い支えより、ワラントの機動性維持と優先株主への還元が上に来ている。この順番を理解せずに「750億円の自社株買い枠があるから安心」と思っていたホルダーは、正直言ってきつい位置にいると思う。

下限行使価額を298円→187円に引き下げた意味

6月9日付で開示された第27回新株予約権の下限行使価額修正。現行の298円から187円へ、約37%の引き下げだ。

この第27回新株予約権は、2026年4月1日に発行されたもので、割当先はEVO FUND。ムービングストライク型(行使価額が株価に連動して修正される)の新株予約権で、潜在株式数は1億株相当とされている。

📖 この新株予約権の発行時の構造(EVO FUNDとは何者か・下限187円が意味すること)は別記事で詳しく解説しています
→ メタプラネット3350 下限187円の新株予約権を開示書類で読み解く

発行要項にはmNAV条項が付されている。mNAV(修正純資産倍率)が1.01倍以上でなければ行使できない、という制限だ。会社側はこれを「1株当たりビットコイン保有量の増加に貢献しにくい水準での行使を抑制する仕組み」と説明している。

下限行使価額修正の経緯

項目内容
発行日2026年4月1日
修正前の下限行使価額298円
修正後の下限行使価額187円
引き下げ幅約37%
修正適用日2026年6月12日
mNAV条項1.01倍以上で行使可能(変更なし)
BTC価格(3/16→6/5)11,711,550円 → 9,763,136円(▲16.6%)

会社側の説明はこうだ。ビットコイン価格が3月16日時点から約16.6%下落し、当初の下限298円では「mNAVが1.01倍以上になっても機動的な資金調達が困難になる可能性」があるため、下限を引き下げたと。そして「直ちに行使を促進するものではない」とも書いている。

ここで考えたいのは、この修正が意味する構造だ。

mNAV条項があるから大丈夫、というのが会社側のロジックだろう。1.01倍を下回る局面では行使を許容しない、と繰り返し強調している。でも裏を返せば、mNAVが1.01倍を超えた瞬間に、187円という現在の株価よりもさらに低い価格で新株が発行される可能性が開かれたことになる。

株価が243円の状態で、下限が187円に設定された。仮にBTC価格が反発してmNAV条件を満たした場合、187円〜243円のどこかで1億株分の新株が発行されうる。発行済株式数12.8億株に対して1億株——約7.8%相当の追加希薄化。しかもこれは第27回だけの話であって、第13回〜第17回、第25回、第26回と、過去に発行された新株予約権の行使状況はまた別にある。

B種優先株には配当、普通株には何もなし

6月8日に開示されたB種優先株式の配当。1株当たり12円25銭を、2026年6月30日・9月30日・12月31日の3回にわたって支払う。各回の配当総額は約2.89億円、3回合計で約8.68億円になる。

注目すべきは配当原資だ。利益剰余金ではなく、「その他資本剰余金」から出す。

会社側の説明では、ビットコインの評価損益が四半期ごとに純利益を大きく揺さぶるため、「短期的な損益変動の影響を受けやすい利益剰余金ではなく」その他資本剰余金を使うのが合理的だという。言い換えれば、本業で安定的な純利益を出せる状態にはない、とも読める。それでも優先株主には配当を払う——原資を別のポケットから出してでも。

普通株主への配当はない。自社株買いも0株。株価は1年で84%下落している。なのにB種優先株主には年間約8.68億円が流出していく。この優先順位を見て、普通株のホルダーは何を思うだろうか。

配当原資が「その他資本剰余金」であることの意味

その他資本剰余金とは、資本取引から生じた剰余金のこと。新株予約権の行使や増資で払い込まれた資金のうち、資本金に組み入れなかった部分が該当する。つまりメタプラネットの場合、EVO FUND向けに発行した新株予約権が行使されるたびに増えてきた資金が、優先株配当の原資になっている可能性がある。

普通株主の持分を希薄化して調達した資金で、優先株主に配当する——この資金フローの構造を、一度整理しておく必要がある。(※筆者分析。資金の紐付けは開示資料では明示されていない)

mNAV条項は「盾」なのか、それとも「条件付きの鍵」なのか

メタプラネットが繰り返し強調するmNAV条項。mNAVが1.01倍以上でなければ行使を許容しない。これは一見すると、既存株主を保護する設計に見える。

でも少し角度を変えて考えてみる。

mNAVが1.01倍以上になるということは、会社の時価総額がBTC保有額を上回る局面だ。つまりBTC価格が上がるか、株価が上がるか、あるいはその両方が起きている場面。その局面ではワラントが行使され、新株が発行され、調達資金でBTCを買い増す——というサイクルが回る。

問題は、BTC価格が上がって株価も上がるフェーズが来たとき、ホルダーが享受できるはずのキャピタルゲインの一部が、ワラント行使による希薄化で削られることだ。上がるときは希薄化で利益が薄まり、下がるときは自社株買いがない。この非対称性こそが、普通株ホルダーにとっての本質的なリスクだと思う。

mNAV条項は「行使を止めるブレーキ」ではなく、「条件が整ったら確実に行使される鍵」と理解したほうが、実態に近い。そしてその鍵が開く下限価格が、今回298円から187円に引き下げられた。

BTCイールドの急低下が示すもの

メタプラネットの独自KPI「BTCイールド」——完全希薄化後の発行済株式数に対するBTC保有量の変化率——が、2026年Q1は2.8%に急低下した。前四半期の11.9%から大幅ダウンだ。株式希薄化のスピードにBTC取得が追いつかなくなりつつある、ということを示している。BTC保有量は確かに40,177BTCまで積み上がったが、1株あたりの裏付け量の増加ペースが鈍化しているのは、この戦略の持続可能性を考える上で無視できないシグナルだと思う。

株価チャートが映す現実——1,900円台から243円へ

CSVデータから株価推移を追うと、メタプラネットの現在地がよくわかる。

メタプラネット(3350) 株価の推移

時期株価備考
2025年6月1,895円(高値)BTC高騰・個人投資家殺到
2026年5月7日362円反発場面の高値
2026年6月2日267円前日比▲28円の急落
2026年6月9日243円下限修正IR当日

※200日移動平均:449円 / 25日移動平均:299円。いずれも大幅に下回る。年初来▲38.9%、1年間▲84%超。

長年相場を見ていると、自社株買い枠を設定した会社の株が、枠の存在をまったく無視するかのように下がり続ける場面に何度か遭遇する。そのとき共通しているのは、会社が別のところにキャッシュを使っている、というパターンだ。メタプラネットの場合、キャッシュの行き先は明確にBTCの買い増しであって、普通株の買い支えではない。

資本政策の優先順位を、IRの順番で読む

この1週間のIRを、「会社が誰のために動いているか」という視点で並べ直す。

6月1日:自社株買い枠の進捗=0株(普通株主のためには動いていない)
6月8日:B種優先株配当の決議、年間約8.68億円(優先株主のためには動いている)
6月9日:ワラント下限引き下げ、EVO FUND向けワラントの行使可能レンジを広げる判断を行った

そしてこの3つの裏側で、BTCの買い増しは継続している。40,177BTCという保有量は世界3位クラスだ。会社としての戦略は一貫している——BTC保有量を最大化するために、あらゆる手段で資金を調達する。

この戦略自体が悪いとは言い切れない。BTC価格がここから2倍、3倍になれば、メタプラネットの企業価値は跳ね上がるし、株価もそれに追随するかもしれない。でもその恩恵を最大限に受け取るのは誰か、という問いがある。ワラントの行使価額は修正条項付きで、BTC上昇局面では行使が加速する。優先株主は配当を受け取る。普通株主は、BTCが上がっても希薄化と配当流出の分だけ、取り分が目減りする。

正直に言えば、この構造を理解した上で「それでもBTCの上昇幅が希薄化を上回る」と確信できるなら、メタプラネット株を持つ理由はある。ただ、少なくとも今回のIRからは、会社の視線が普通株ホルダーの方を向いているようには見えない。それは事実として知っておくべきだと思う。

JPX規制の影と、優先株上場の延期

もう一つ、背景として触れておくべきことがある。2025年11月、JPX(日本取引所グループ)が暗号資産トレジャリー企業に対する規制強化を検討しているとBloombergが報じた。メタプラネット側は「関係当局から規制措置や調査を受けている事実はない」と否定しているが、この報道は株価の下落要因のひとつとして意識されている。

加えて、メタプラネットの優先株上場計画が延期されている。MicroStrategy(現Strategy)がSTRC、STRF、STRDといった優先株シリーズで160億ドル以上を調達しているのに対して、メタプラネットのB種優先株はまだ非上場の段階にとどまっている。「日本版MicroStrategy」を掲げるなら、この差は小さくない。

規制の不透明さ、優先株の上場延期、BTC価格の下落、株価の急落——これらが同時に進行している中で、会社がとった行動が「自社株買い0株、ワラント下限引き下げ、優先株配当」だった。ホルダーの目にどう映るかは、言うまでもないだろう。

結局、メタプラネット株は「誰の乗り物」なのか

メタプラネットのビジネスモデルは明快だ。新株予約権と増資で資金を調達し、BTCを買い増し、1株あたりBTC保有量を拡大させることで株主価値を高める。BTC価格が上がれば、全員が潤う——というのが、表向きのストーリーだった。

でも2026年6月の現実は、そのストーリーがきしみ始めている。BTCイールドは2.8%に急低下し、株価は1年で84%下落し、自社株買いはゼロ。ワラントの下限は引き下げられ、優先株には配当が出る。

この乗り物は、BTC価格が上昇するフェーズでは全員の利益になりうる。ただ問題はBTCが上がるかどうかではない。BTCが上がった時、その価値の何割が普通株主に残るのか、だ。上昇局面でもワラント行使による希薄化が加速し、優先株への配当が流出し続ける構造が変わらない限り、「思ったほど取り分がない」という経験を繰り返す可能性がある。

どの立場から見るかで景色は変わる。ただ、今週出た3本のIRの行間を読む限り、この船の操舵室は普通株ホルダーの方を向いていない——少なくとも、今のところは。

※本記事は筆者の個人的な分析・見解であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断は読者ご自身の責任で行ってください。

出典:
メタプラネット公式サイト — 各IR資料(2026年6月1日、6月8日、6月9日付開示)
IRバンク — メタプラネット(3350)
BeInCrypto — メタプラネット、Q1にビットコイン5075枚を追加取得

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