今週、AI関連のニュースを順番に追いかけていて、途中からどうにも落ち着かない気分になった。
TSMCは過去最高の四半期を出し、ASMLは「2027年も28年も、今の計画では顧客の需要に追いつかない」と言い出した。景気のいい話ばかりだ。ところがその前日、IMFは世界の金融安定を揺らしうる主要リスクのひとつとして、わざわざAI関連資産の価格調整を名指ししている。同じ週に、同じテーマで、ここまで温度の違う資料が並ぶことはそう多くない。
矛盾しているように見えて、たぶん矛盾はしていない。今夜は10月9日から16日に出た5本を並べながら、そのあたりを考えてみたい。きれいな結論が出るかは、正直わからない。
| 公開日 | 資料 | 筆者の一言 |
|---|---|---|
| 10/15 | TSMC 2026年7〜9月期決算 | 売上は伸びたのに、利益率は下がった |
| 10/14 | ASML 2026年7〜9月期決算 | 「発注意向」はまだ受注ではない |
| 10/14 | IEA「Powering Artificial Intelligence」 | 次に詰まるのは電線と変圧器 |
| 10/13 | IMF 国際金融安定性報告書(GFSR) | 好決算の前日に出たのが不気味 |
| 10/9 | 東京都交通局 都営バス自動運転実証の結果 | 85%より、残り15%の中身が本題 |
同じ週に「足りない」と「危ない」が並んだ
最初に引っかかったのは並び順だった。IMFの報告書が出たのが13日、ASMLが14日、TSMCが15日。警告が先に出て、そのあと「需要は強い、供給が追いつかない」という実績が二日続けて飛んできたわけで、市場は後者のほうに素直に反応した。
ただ、IMFが言っているのは「AIは偽物だ」という話ではない。AI投資や収益性が期待ほど続かなかったときに関連資産の価格が調整し、そこに借り入れや保有の偏りが重なると下落が増幅される、という経路の話だ。需要が本物であることと、今の株価がその需要を正しく織り込んでいることは、まったく別の問題で、ここを一緒くたにした瞬間に判断が雑になる。
だから今週の5本は、「強い」「弱い」で読むより、どこが詰まっていて、その詰まりが次にどこへ移るのかで読んだほうが、たぶん得るものが多い。
TSMC|売上は前期比17.6%増、純利益は8.0%増。この差は何か
数字だけ見れば文句のつけようがない。7〜9月期の売上は台湾ドル建てで約1兆4,942億、前年同期比50.9%増。ドル建てでは467.2億ドルで前年比41.2%増、前期比でも16.2%伸びた。純利益は前年比68.7%増だ。
気になったのは前期比のほうで、売上が17.6%伸びているのに純利益は8.0%しか伸びていない。粗利率は4〜6月期の67.7%から66.4%へ下がった。2ナノのウエハー売上比率が3%から8%へ一気に立ち上がった四半期でもあるので、新ノードの立ち上げ負担が先に利益率を削った、と読むのが自然だと思う(筆者分析)。
会社側は10〜12月期の売上を523億〜543億ドルと見込んでいて、勢いはまだ止まっていない。7月の決算説明会の時点で、2026年の設備投資計画を600億〜640億ドルへ引き上げ、今後3年間の設備投資は過去3年を大きく上回ると話していた。今回の説明資料では、2026年通期の売上成長見通しも、7月時点の「40%をやや上回る」から「約44%」(ドル建て)へ引き上げられている。
日本株で言えば、前工程・検査・後工程の装置、たとえば東京エレクトロン、SCREEN、アドバンテスト、ディスコあたりが連想されやすい。あくまで銘柄例で、推奨ではない。
ASML|「2030年分の発注意向」は、まだ受注ではない
ASMLの7〜9月期売上は117億ユーロで過去最高、粗利率57.5%、純利益は50億ユーロ。保守・アップグレード関連の売上も33億ユーロと会社の見通しを上回った。通期の売上見通しは440億〜450億ユーロで、下限が430億ユーロから引き上げられている。
ただ、本当に市場を沸かせたのは数字そのものより経営陣のコメントのほうだった。一部の顧客が2029年、さらには2030年分の発注に関心を示していること。今の計画のままでは2027年・28年の供給が顧客需要を満たしきれないこと。そして2028年の生産能力を、これまで示していた30%増よりさらに積み増す方法を検討していること。
日本株なら、EUVマスクの検査やマスクブランク、フォトレジストの領域、たとえばレーザーテック、HOYA、東京応化工業あたりが連想先になる。これも銘柄例にとどめておく。
→ 好決算で株を買った奴が毎回カモにされる、シンプルすぎる理由
IEA|詰まりは半導体から「電線と変圧器」へ移りはじめた
IEAの報告書はG7議長国のフランスの依頼でまとめられたもので、世界のデータセンター容量の約9割をカバーする34超の法域を調べている。ハイパースケーラーと呼ばれる大手事業者の2026年の設備投資は7,000億ドルを超える見込みで、データセンターの電力系統への組み込みに関わる政策・規制は134件、そのうち4割近くが直近12カ月に出てきたものだという。
読んでいていちばん引っかかったのは「接続待ちの水増し」の話だった。テキサスやバージニア、フィンランド、英国などでは、接続を待っているデータセンター案件の容量を合計すると、その地域の現在のピーク需要より大きくなっているところがある。その中には重複した申請や投機的な計画が混ざっている、とIEA自身が書いている。
打開策として出てきているのが、混雑する時間帯には供給を絞る前提で早くつなぐ「柔軟接続」で、IEAの分析ではこれで世界に750〜900GWの受け入れ余地が生まれうるという。日本のワット・ビット連携も、計算インフラ側の柔軟性を高める官民の取り組みとして名前が挙がっていた。
それと、目立たないところにこんな一文があった。データセンターは狭い場所に莫大な価値が集中していて、保険でカバーしきれない部分が出てきている。AIとデータセンターと金融市場が強く結びついている以上、そのリスクも考えておくべきだ、と。電力の報告書の中に、翌日のIMFにつながる話が紛れ込んでいたわけで、正直ここは少し不気味だった。
日本株なら送配電・受配電の日立製作所、富士電機、明電舎、電線・光配線のフジクラ、古河電工あたりが連想先になる。銘柄例であって、推奨ではない。
IMF|「AI関連資産の調整」が主要リスクに挙がった意味
10月13日のIMF国際金融安定性報告書は、急激な金融引き締まりの引き金になりうる3つのリスクとして、AI関連資産の調整、国債利回りの上昇、大規模なサイバー攻撃を並べた。AI投資や収益性が想定より弱かったり長続きしなかったりすれば、AI関連の株式や信用市場が調整しうる、という書き方だ。
報道によると、IMFが気にしているのはテック企業の借り入れだけではない。AIに賭けるヘッジファンド、借金をして株価上昇に賭ける個人の動きまで視野に入れている。大手AI企業が財務の弱い企業に資金を出したり、取引先に巨額のコミットメントをしたりする「循環的な資金の流れ」も、市場が崩れたときに痛みを連鎖させる経路として挙げられていた。米国とアジアの市場は特に影響を受けやすい、とも。
同じ日に出た世界経済見通しでも、生産性や収益性への失望からAI投資が急減する下振れシナリオとして、2028年までに世界のGDPを1.1%押し下げる試算が示されたと報じられている。TSMCとASMLの実需が強いのは事実だ。それでも、それだけで今のバリュエーション全体が正当化されるとは限らない。売上の伸びと、投じたお金を利益やキャッシュフローで回収できるかは、分けて見たほうがいい。
都営バス|自動走行率85%より、残り15%の中身を見たい
5本目だけ毛色が違うが、個人的にはいちばん面白かった。東京都交通局が6月に新木場駅前と日本科学未来館の間(片道約6km)で行った大型バスの自動運転実証で、運転士が乗って状況に応じて手動に切り替えるレベル2。車両はいすゞ自動車のERGAで、延べ1,044人が乗り、自動で走れた割合は期間平均85%だった。
見るべきは手動に切り替わった理由のほうだ。最多は路上駐車の検知・回避で35.3%、次が交差点を通るときの周辺車両の検知・回避で18.6%。手動走行の大部分はバス停や交差点の近くで起きていた。バス停の前に路駐の車がいると、入るときも出るときも人の手が要る。
395件のアンケートでは、導入に「期待できる」「やや期待できる」が合わせて9割を超えた一方、走行スピードは約4割が「やや遅い」「遅い」と答えている。期待は高いのに遅いと感じている、というこのズレは、事業として成り立つかどうかに直結する気がする。
5本を一本の線でつなぐと、詰まりは順番に移っていく
ばらばらに見えた5本を並べてみると、AIという同じ流れの中で「今どこが詰まっているか」を、それぞれ別の場所から報告しているように読めた。
詰まりを握っている場所には値付けの力が集まり、お金もそこへ流れる。長年相場を見ていると、その詰まりが別の場所へ移った瞬間に、主役の顔ぶれがごっそり入れ替わるのを何度も見ることになる。半導体の話をしているうちに、話題がいつの間にか電線と変圧器と社債の話になっている。今週の5本は、その移り変わりの途中を切り取ったスナップショットのように見えた。
