ASML決算、純利益2.3倍より怖い数字。貸借対照表に現れた「57億ユーロ」の異変

投資・マーケット

ASMLの決算が出たのは、日本時間の午後2時。仕事の手を止めて数字を開いて、最初に口から出たのは「え、純利益2.3倍?」だった。

売上高は116億6,200万ユーロで、前年同期比+55.2%。純利益は49億6,000万ユーロ、去年の同じ時期が21億2,500万ユーロだったから倍どころの話じゃない。世界に一社しかいないEUV露光装置メーカーで、すでに十分すぎるほど巨大な会社が、ここからさらにこの伸び方をするというのは、正直なところ現実感が少し薄い。

ただ、数字を何度か眺め直しているうちに、引っかかる場所が二つ出てきた。通期予想に対する進捗率が、なぜか去年より低いこと。もう一つは貸借対照表の端っこで、ある項目がたった3ヶ月で2.6倍に化けていること。今夜22時の説明会を待ちながら、そのあたりを書いておく。

① 総合判定

好決算

売上+55.2%、純利益+133.5%、粗利率は会社予想の上限すら超えて57.5%。通期予想の下限も430億→440億ユーロへ引き上げ。ここまで揃って「普通」と言うのは、さすがに無理がある。

まず数字。前年の同じ時期と並べてみる

ASMLの決算は「7〜9月期(第3四半期、Q3)」の3ヶ月分。比べる相手は去年の7〜9月期だ。

項目2025年7-9月2026年7-9月前年同期比
売上高75.2億€116.6億€+55.2%
 うち装置の販売55.5億€83.7億€+50.8%
 うち保守・アップグレード19.6億€32.9億€+67.6%
粗利率51.6%57.5%+5.9pt
営業利益24.7億€51.7億€+109.6%
純利益21.2億€49.6億€+133.5%
1株利益(EPS)5.49€12.95€+135.9%
露光装置の販売台数72台121台+68.1%

出典:ASML 2026年Q3決算資料(US GAAP)。€=ユーロ。端数は四捨五入。

四半期ごとの売上を並べると、今回の「段差」がよく分かる。

ASMLの四半期売上高(億ユーロ)

25年7-9月

75.2

25年10-12月

97.2

26年1-3月

87.7

26年4-6月

93.3

26年7-9月

116.6

26年10-12月
会社予想

142〜152

10-12月は会社予想レンジ(中央値147億)。棒の長さは150億=100%で描画。

② 好決算と判定した3つの理由

理由1:売上+55%、しかも会社予想の“上の方”に着地

3ヶ月前、ASMLはこの7〜9月期の売上を「110〜120億ユーロ」と予想していた。結果は116.6億ユーロ。真ん中より上だ。市場の事前予想は115.8億ユーロ前後と報じられていて(要出典確認)、それもわずかに上回った。

派手さはない。でもASMLの売上は受注済みの装置を順番に出荷していく構造だから、そもそも大きく外れにくい。むしろ見ておきたいのは販売台数のほうで、露光装置が72台から121台へ、7割近く増えている。工場がちゃんと回っている、という証拠だと思う。

理由2:粗利率57.5%。利益の伸びが売上の倍以上

今回いちばん「おっ」と思ったのはここだった。粗利率(売上から製造原価を引いた残りの割合)の会社予想は55〜57%で、その上限すら飛び越えて57.5%。去年の51.6%から6ポイント近く上がっている。

売上が5割増えて、利益が2倍以上になる。これが製造業でいちばん気持ちいい形で、開発費や人件費といった「売上が増えても同じようには増えないコスト」の上に売上が乗っかると、増えた分がほぼそのまま利益に落ちてくる。営業利益率は32.8%→44.4%。100ユーロ売って44ユーロが本業の儲けとして残る計算で、もはや装置メーカーの数字には見えない。

ここは割り引いて読む

純利益には、本業とは別の「株式投資の損益」として計上された約5.1億ユーロ(税引前)の利益が含まれている。営業利益より下の段に載っている数字で、本業の儲けではない。中身は開示されていないが、推測ですが、2025年に出資したフランスのAI企業ミストラルAIの評価替えではないかと見ている。この一時的な利益を除いた税引前利益で比べても+110%なので、好決算という判定自体は変わらない。ただ「純利益2.3倍」をそのまま実力と思うのは少し盛りすぎだ。

理由3:保守・アップグレード売上が+67.6%

地味な項目だけど、個人的には今回の決算の本当の主役だと思っている。ASMLが「IBM(インストールドベース・マネジメント)」と呼んでいる事業で、すでに客の工場に置いてある装置の保守や、性能を引き上げる改造を請け負う。

これが前年の19.6億から32.9億ユーロへ。新しい装置の納品を待っていられない客が、手持ちの装置を改造してでも1時間あたりに処理できるウエハー(半導体の材料になる円盤)の枚数を増やそうとしている、ということだろう。しかもこの改造ビジネスは利益率が高い。粗利率が予想を超えた理由として、会社もこのアップグレード需要をはっきり挙げている。

用語ミニ解説(ここだけ読めば本文はついてこられる)

前年同期比:去年の同じ3ヶ月と比べた増減。季節のクセを消して比べられる。

EUV露光装置:最先端の半導体に回路を焼き付ける機械。1台数百億円規模とされ、作れるのは世界でASMLだけ。

High-NA EUV:EUVのさらに次の世代。より細かい回路を、少ない工程で焼ける。

粗利率:売上から製造原価を引いた「粗い利益」の割合。商品そのものの儲けやすさ。

進捗率:会社が出した1年分の予想に対して、ここまでで何%達成したか。

契約負債(前受金):商品を渡す前に客から先にもらったお金。会社にとっては「まだ納品してない借り」なので負債に入る。

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③ 今後の見通し:会社予想は「強気」

結論から言えば強気。ただ、その強気の出し方が少し変わっている。

まず通期予想(ガイダンス)の推移を見てほしい。

発表時期2026年 通期売上予想粗利率予想
2026年1月340〜390億€51〜53%
2026年4月360〜400億€51〜53%
2026年7月430〜450億€54〜56%
2026年10月(今回)440〜450億€約56%

年初の予想の真ん中が365億ユーロ。今は445億ユーロ。9ヶ月で80億ユーロも上に動いたことになる。去年の売上は326.7億ユーロだったので、今年は+35〜38%の成長を見込んでいる計算だ。

で、進捗率。1〜9月の売上合計は297.6億ユーロで、通期予想の中央値445億に対して66.9%。去年の同じ時点の進捗は70.3%だったから、今年のほうが遅れている。

普通なら「あれ、ペース落ちてる?」となる場面だけど、ここは逆に読むところだと思う。残りの10〜12月だけで約147億ユーロ売る計画、つまり去年の10〜12月(97.2億)から+52%、過去最高だった今回の7〜9月からさらに3割上乗せする巨大な山を、会社は自分で予想に組み込んでいる。進捗が低いのは弱いからじゃなく、最後の3ヶ月にそれだけ自信がある、という意味だ。

そしてもう一つ。今回の発表文で、CEOのクリストフ・フーケ氏はかなり踏み込んだことを言っている。客の需要見通しが四半期ごとに上がっていて、一部の客は2029年や2030年の分まで注文を入れたがっていること。そして今の計画のままだと、2027年も2028年も、ASMLの生産能力では客の需要を満たしきれないこと。もともと2027年に生産能力を30%増やす計画だったのに、2028年はそれ以上の増強を検討し始めたらしい。

「足りない」と自分で言う装置メーカー。強気以外の言葉が見つからない。

ただ、引っかかりも残る。予想の下限は440億に上げたのに、上限の450億は7月から据え置き。今回の7〜9月があれだけ上振れたのに、だ。慎重なだけなのか、作れる量の上限がもう見えているのか。たぶん後者なんだろうと思う。これは次のネガティブ要素に直結する。

④ 注目ポイント

一番のポジティブ:長期契約負債が3ヶ月で約57億ユーロ増えた

プレスリリースの本文には一行も出てこない。貸借対照表(会社の財産と借りの一覧表)を見ていて気づいた。長期の契約負債が、6月末の35.7億ユーロから9月末には93.0億ユーロへ。3ヶ月で約57億ユーロ、2.6倍になっている。去年の9月末も35.7億ユーロだったから、1年前と比べても同じく2.6倍だ。

契約負債というのは、客から受け取った前受金など「これから装置やサービスを納める約束」を表す項目。ただ、この57億ユーロがそのまま新しく入ってきた現金だとは言い切れない。請求はしたけどまだ回収していない分も含まれうるし、実際に同じ3ヶ月で売掛金(まだ受け取っていない代金)も約20億ユーロ増えている。

それでも、7〜9月の営業キャッシュフロー(本業で実際に入ってきた現金)は118億ユーロで、去年の同じ時期の5.6億ユーロとは桁が違う。お金の動きの大半が、この契約負債の増加とセットで起きているように見える。2029年や2030年の分まで注文を入れたがっている客がいるというCEOの話と重ねると、推測ですが、将来の装置の枠をめぐる契約が一気に積み上がった跡なのかもしれない。売上や純利益の伸びは誰でも見る。自分が本当に気になったのは、まだ売上になっていない契約のほうだった。

一番のネガティブ:売上の天井を決めるのが「需要」じゃなく「自社の生産能力」になった

需要が供給を上回っている状態は、一見いいことしかない。でも株を持つ側から見ると、伸びしろの上限を工場のキャパが決めてしまうという意味でもある。客がいくら欲しがっても、作れる台数以上には売れない。

しかも10〜12月は過去最高を3割上回る147億ユーロの計画で、ここで部品の遅れや出荷のずれが一つ出れば、すぐ「未達」の見出しになる。受注額も今は四半期ごとの数字を出していないので(推測ですが、2026年から開示方針を変えている)、勢いの確認は経営陣の言葉に頼るしかない。数字で裏を取れないのは、地味に落ち着かない。

ASMLは今、何にお金を使っているのか

ここ、意外な結果だった。生産能力を30%増やすと言っている会社だから、さぞかし設備投資が膨らんでいるかと思ったら、そうでもない。

使い道(7-9月)2025年2026年前年同期比
研究開発費11.1億€11.7億€+5.9%
設備投資(工場・設備の購入)3.0億€4.1億€+39.7%
自社株買い1.7億€40.7億€約24倍
配当の支払い6.2億€7.2億€+16.4%

研究開発費は四半期で約12億ユーロ、10〜12月も同じくらいの予定。去年1年間で47億ユーロを開発に投じた会社なので、金額そのものは日本の装置メーカーが束になっても届かない規模だ。中身はHigh-NA EUVを中心とした次世代装置で、1回の露光で旧型の3〜4回分の工程を置き換えられる用途があると会社は説明している。工程が減るほど客にとっての価値は上がって、ASMLは1台をより高く売れる。

気になるのは、売上に対する研究開発費の割合が14.8%→10.1%に下がっていること。売上が55%伸びたのに開発費は6%しか増えていないから、当たり前と言えば当たり前で、今回の利益率の跳ね上がりはまさにこの差から生まれている。ただ、これを「効率が上がった」と見るか「未来への種まきが売上に追いついていない」と見るかで、評価は割れると思う。自分は、今のところ前者寄り。独占している会社は、開発費を売上と同じペースで増やす必要がそもそもない。

設備投資は7〜9月こそ+40%だったものの、1〜9月の合計では11.2億ユーロで去年とほぼ同じ(-0.9%)。推測ですが、ASMLは光学系をはじめ主要部品の多くを外部のサプライヤーに頼る構造なので、生産能力を増やす負担の一部は取引先の側に乗っているのかもしれない。だとすると、30%増強の本当のボトルネックはASMLの工場ではなく、部品メーカー側にある可能性もある。

で、一番大きな使い道は結局、株主への還元だった。7〜9月だけで自社株買い40.7億ユーロと配当7.2億ユーロ、合わせて約48億ユーロ。同じ3ヶ月の純利益49.6億ユーロとほぼ同額を、そのまま株主に返している。

お金の使い方が「将来の稼ぎやすさ」にどう効くか

・研究開発:High-NAが量産で使われ始めれば、1台あたりの単価と保守収入がさらに上がる。今の独占を5年、10年と延ばすための費用。

・研究開発費の伸びが売上より遅い:売上が伸びるほど利益率が上がる構造。今回の営業利益率44%はこの効果。

・設備投資が控えめ:手元に現金が残りやすい。一方で増強が部品供給しだいになりやすい。

・大規模な自社株買い:株の数が減るので、利益が同じでも1株あたりの利益が増える。平均株式数は1年で3億8,730万株→3億8,310万株と約1%減っていて、EPSの伸び(+135.9%)が純利益の伸び(+133.5%)を少し上回ったのは、主にこの株数の減少によるもの。

なおの独自考察:好決算の日に、どこを見ているか

この記事を書いている時点では、アムステルダム市場はまだ開いていない(開くのは日本時間16時)。前日の米国市場では決算前に株価が4%近く下げていたという報道もあって(要出典確認)、今年に入ってから株価がかなり上がっていたぶん、市場の期待値もかなり高いところにある、と見ておいたほうがいい。

個人的に一番大事だと思っているのは、決算そのものより今夜22時からの説明会だ。今回の発表文には、2027年の売上を何%伸ばすといった具体的な数字が一つもない。「需要に供給が追いつかない」とまで言いながら、だ。ここが言葉のままで終わるのか、数字が出てくるのかで、明日以降の空気はけっこう変わると思う。

シナリオ説明会で出てくるもの株価の反応(推測)
強気2027年の売上成長率や、2028年の増強幅が数字で示される期待を上回れば上昇。日本のEUV関連にも波及
中立「需要は強い、能力は増やす」の繰り返しで、数字はなし材料出尽くしで横ばい〜小幅安
弱気中国向けの減速や輸出規制、増強コストによる利益率への慎重な発言好決算なのに下落、という一番ややこしい形

タイミングの話をすると、自分なら決算当日に飛びつくことはしない。説明会の中身と、翌日の値動きを一度見る。そのうえで本命の判断材料は、来年1月下旬の通期決算だと思っている。ASMLが2027年の見通しを正式に出すのはおそらくそこで、93億ユーロまで膨らんだ長期契約負債がどのくらいのペースで売上に変わっていくのか、答え合わせができるのもそのタイミングだからだ。

少し意地の悪いことを書くと、装置の枠をめぐって何十億ユーロ規模の契約がすでに積み上がっている世界で、決算の見出しを見てから慌てて買い注文を入れるのは、行列の一番うしろに並ぶのとあまり変わらないのかもしれない。先に並んだ人たちは、今日の数字を待たずにもう動いている。

ASMLの数字が良いことは、レーザーテックのようなEUV周辺の日本企業にとっては素直に追い風になる。ただ、今回の決算で一番大事な数字を一つだけ選べと言われたら、自分は純利益の2.3倍じゃなく、貸借対照表の隅で3ヶ月のうちに増えた57億ユーロを選ぶ。あの数字がいつ、どれくらいの利益率で売上に変わるのか。来年の今ごろ振り返ったとき、答えはたぶんそこに書いてある。

※本記事の数値は2026年10月14日にASMLが発表した決算資料をもとにしています(最新情報要確認)。市場予想や株価の動きなど会社発表以外の数字は報道ベースで、要出典確認としています。特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。投資の判断はご自身でお願いします。

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